ミステリH

hamiru

文字の大きさ
4 / 18

ミステリH④

しおりを挟む

「マンバは黒猫やで」
タスイの言葉にハミルはただ、その唇を見つめている。
薄めの口唇は少し桜がかっていて、近ごろの暑さ混じりの空気の中で春の終わりを感じさせた。
「黒猫ですか」
ハミル返した
「うん、マンバな」
「はい」
「そういう事情があるから言うけど、あまり言うたらあかんで」
「ええ、もちろん」
「まあ、知ってもらったほうがええかもしれへんけどな、マンバとしても」
「そうですか、はい」
「マンバな、薄顔やねん」
「えっ、薄顔?、素顔ですか」
「そう」
「そうだったんですか」
「うん」
「でも、そうですか、ギャップがいいかもしれないですね」
「やろ、でもな、気にしてんねん」
「薄顔を?」
「ずっとコンプレックスやったそうでな、自信が持てんくて、おとなしい少女やったそうや」
「そうですか、そんな風に見えないですね。いつも元気だから」
「派手やろ、山姥風やから。」
「はい、派手っていうか」
「変わんねん。性格も、あれだけやるとな」
「ええ、そういうのはあるかもしれないですね」
「内気で、友達もできんかったらしい」
「そんな深刻だったんですか」
「お父さんが書道の先生なのは知ってる?」
「マンバさんの?いや初耳です」
「墨をな、マンバを育てた墨を、2と3と4の指で右の頬に三本のラインを引いた」
「えっ」


"今はこんなに悲しくて
涙も枯れ果てて
もう二度と笑顔には
なれそうもないけど"

彼女の詩と声が本当ならば
2周目をただ一人で走っている
マンバはブッチギリで先頭を走っている
後ろを振り返ろうとも、誰もいない
このまま誰も追いつこうとしないかもしれない

けど、

時代は回るのならば

皆が2周目を走り出した時は、彼女はゴール間近で、
その汗で!素顔の君がテープを切るかもしれない

満花、君こそが孤独のランナーなのだから


「その後、左頬に三本のラインを入れた。黒猫や。マンバの始まりや」
「そういうことなんですか」
「実際は黒髭の女やけどな、アディダス好きやろマンバ」
「知らないです」
「好きならそれくらいチェックしとかんと」
「いや、まだ好きとは」
「そうやったっけ」
「手紙です・・」
「そうやな、だからマンバは本来、恥ずかしがり屋の奥手、自分に自信もあまり持ってへんやろな」
「なんで、タスイさんはそんな」
「ほぼ親友やで、私達は、年齢も一緒やし」
「31才・・」
「うん」
ハミルはふと、早く時代よ巡ってくれ、と願った


「だからマンバは自分から告白するようなことはできんと思うから、匿名でラブレターっていう手はあるかもしれんな」
「そうですか・・あの、アリバイなんですが」
「あゝ、そうやな、21日の17:00やったっけ」
「ええ、15:00~17:00ですね」
「火曜日やんな。流石にみんなが何してたかは。ああでもそうやな。どうやろう。
ナツコはデザイナーの仕事やから割と時間に融通きくかもしれんけど。チナナはファミレスの調理やからシフト次第やな。マンバはな、今仕事してへんからな、アリバイは掴みづらいな」


「そうですか、チナナさん」
「チナナが気になるの?」
「あっいや、そういうわけでは」
「あれやで、ククラはないと思うで」
「えっどうしてですか」
「アロヤのことが好きなんやで、事故があった時も立ち直らせたのは、ほぼほぼアロヤやし。カーレースのこととか一緒にやっとったし、あの頃からナツコはずっとや。」
「そうなんですか!知らなかった」
「うん、付き合ってへんけどな」
「どうして」
「アロヤはよくわからんやろ、不思議くんやから」


「あまりアロヤさんのこと知らないので」
「そうやな・・アリバイか、今度聞いとこか?チナナとかナツコ、マンバも」
「えっ、直接ですか?怪しくないですか」
「うまくやっとくわ、任せといて」
「そうですか、任せていいですか?」
「うん、ええよ、じゃあそろそろ帰ろうか」
「はい、あっ」
タスイが伝票を取った
「僕、払います。」

外で待ってるタスイにハミルが協力の礼を告げた。
何かわかったら連絡する、ごちそうさまのやり取りを終え、タスイは自転車に乗り手を振って走り去った。

暫し、考え込んでいたハミル
22日の妄想で3人の女を独り占めにした男は、
その中の女が自分以外の男子に恋心を持っているということに嫉妬した

モテ期が来た、と思っていたのだ

一通の"名無し"のラブレター

名無しは想像を豊かにして、複数恋愛をさせた

"好きです"以外
何一つ確証のない
差出人も宛名もない、恋文だった

・・・


ふと、暗い顔が通りかかる
「あっ」
誰だったか、見たことがある

黄色の服に、左手の甲が赤い
その男はハミルに気づかずに通り過ぎた

数年前
1,2回、見かけた気がする
(クルム?だったかな)


その男の背中を数秒見つめた後、反対側の熱田駅に向かって歩き出したハミルだった。

#ハミル
#タスイ
#クルム
#マンバ
#チナナ
#ナツコ
#ミステリH

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

処理中です...