ミステリH

hamiru

文字の大きさ
3 / 18

ミステリH③

しおりを挟む
ミステリH ③
2024/5/25
PM1:56



「タスイさん」
「ハミル」
ハミルは先に店内で待っていたタスイに声をかけた。
タスイは料理雑誌を読んでいた。
熱田駅から徒歩5,6分の約束のカフェである。
「すいません、待ちましたか」
「まだ時間前やで。ちょっとゆっくりしたかったから30分前に着いてたで」
「そうですか」
店内の奥の二人テーブルで向かいあった。
ハシメはメニューを見ることもなく、近くを通った店員に声をかけブレンドコーヒーを注文した。
タスイのカフェラテはカップの三分の一ほどまで沈んでいた。
「久しぶりやな。ハミル、急にどうしたん?」
「ええ、久しぶりに会えて嬉しいです。実はですね」
ハミルはタスイには隠すことなく、全てを伝えようと思っていた。ある種の妄想があったことを除いて。
「あのですね、」
"ブレンドになります"
言いかけた途端ブレンドコーヒーが、ハシメの目の前に差し出された。
ありがとう、ごゆっくりどうぞ、形式的にやり取りを済ましてタスイの顔を見つめた。
(美しい)
瞬間的に感じてしまった。
「ああ、タスイさん、あのですね」
「うん」
「実はですね、こういうものがありまして」
ハミルは"好きです"を持参しており、タスイの前に差し出した。
「えっ、なに?好きです?なにこれ?ハミルもらったん!?すごいやん、誰!?」
「ええ、コホン」
咳払いは少し自慢気だった
「5月21日にサウナに行ったんですけどね」
「うん」
「17:00くらいだったかな、帰ったら置いてあったんです。もちろん、レターセットっていうんですか。シールされていて、中を開けたらその、それが」
「ホンマに、すごいやん、で、誰なん?」
「いや、それがわからないんです」
「わからない?」
「ええ」


タスイ、31歳
関西弁の彼女は大阪出身であった。
ある芸術家の拗顔我楽多な精神の塔に見守られた地域で育った。
容姿端麗でイタズラな関西弁を繰り出すから、男心をくすぐる。本人はそういったつもりはないが、とりわけ関西を基盤としていない、つまりその響きに免疫のない男子にとっては胸にズンと刺激を与えるトーンであった。
タスイに惚れている、ダイヤもその言葉の響きにやられたのは、"一つ"であった。

「名前書いてないってこと?」
「ええ、そうなんです」
「すごいな、そんなことってあるんやな」
「ええ、そうなんです」
「置かれてたって、なに?」
「そうなんです、家の玄関の前のジベタに置かれてたんです」
「ジベタ?ハミルん家、郵便受けないん?」
「あります、あります。玄関のドアにもついてるんですが、なぜかジベタに」
「変やな」
「そうなんです、で、その、切手も貼ってないし郵便局員が地べたに置くこともありえないから、本人が直接届けたということになると思うんです。」
「そうやな・・・カメラついてないん?」
「古いアパートなので、セキュリティもないから玄関前まで来ることは可能なのですが」
「そうなんや、誰か知りたいと」
「ええ、まあ、やっぱり気になるっていうか、あと」
「あと」
「お礼が言いたいんです、どうしても。名前を書いてないってことは、そっとして置いてほしいってことだと思うんですけど、やっぱりありがとうって気持ちが強くて」
「そっとしておいてほしい?」
「ええ」
「ちゃうやろ、」
「えっ」
「気づいてほしいやろ」
「気づいてほしい?」
「やろ、自分で正面切って伝えるのは怖いけど、前に進みたいって時やな」
「そうなんですか」
「ハミルは探したいんやろ?女、誰か」
「はい」
「向こうの方が上手やな」
「えっえっ」
「狙い通りや、探し出させて、ハミルの方から告白させる腹積りやで」
「そうなんですか!?」
「せやろ、女がこんなことする時は」
「なんでそんな」
「少なくとも、自分から告白しなければ振られるリスクは回避できる。ハミルが気づいてくれれば・・・男だって勝算ありってわかってたら、告白しやすいやろ」
「まあ、それは。そんなまさか」
「女っちゅうもんはな」
タスイの眉間が勝負師のそれに変わった。


「で、誰か、見当ついてねんな?」
「それが、ええ」
「うわ、ついてんねや」
タスイが興奮してきた。
「まあ」
「誰、誰?」
食い気味に。
「実は最近っていうか、よく話しをする機会があったのは」
「うん」
「チナナか、マンバさんか、ナツコちゃん」
「そう」
タスイがちょっと落ち着いた。
「その3人あたりじゃないかと」
「・・・マンバか」
「えっ、ええ、3人」
「マンバな」
タスイは顔を顰めている。
「どうしました?タスイさん」
「私、マンバ大好きやねん」
「明るくていい子ですね」
「うん、明るく見えるやろ」
「もちろん、いつも元気で」
「いつも元気で・・」
「そうですよね、メイクも個性的だし」
「マンバだとしたら、そういうやり方するかもな」
「えっ、そうなんですか」
「弱い子やから」
「弱い?そうですか?そんな風には」
「傷つくのは避けようとするかもな」
「マンバさんですか?」
「なんで、マンバが今のメイクをしてるか知ってる?」
「いや」
タスイは少し悲し気に
「あの子は黒猫やで」


#ハミル
#タスイ
#ミステリH





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...