人間さんと暮らしてみましたが、ちっとも馴染めません。

白光猫(しろみつにゃん)

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ご挨拶

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『疲れたでしょう? この長椅子で休んでください』

 そういって、アーシュは壊れものを扱うように、そうっと椅子に降ろしてくれました。すごいっ! この椅子フカフカです!
 珍しくて、もう一度軽く座り直してみました。ボフーンと、お尻や背中が柔らかな表面へ沈み込んでいきます。

 うちには絶対に置けそうもない家具ですね。
 とにかく神獣の出入りが激しいので、こんな柔らかな素材では、鋭いカギ爪であっという間に引き裂かれてしまいます。床も傷つけられた様子はないですし、ここに神獣はこないのでしょうか?

 しかし、なんて広くて立派なお部屋なのでしょう。
 アーシュの巣は、大きな白い石で出来ているのですね。ずっしりとした造りは、雨風をしのげてとても頑丈そうです。

 でも、正直よくわからないものもあります。

 金や銀で、植物の図柄が繰り返し壁に描かれていたり、白い石にも、たくさんの線や模様が細かく施されています。
 そこまではまだ分かります。私も服に刺繍をしたりしますから。好きなものを身の回りに置くのは、とても落ち着きますよね。

 ただ、あれは?
 あの大きな四角い絵はなんでしょう?

 ほとんど裸に近い人間さんたちが、大勢で空を飛んでいるような不思議な絵です。見上げれば、高い天井にも人間さんがいっぱい描かれています。しかも、背中から羽根が生えている人間さんもいます。

 ああやって皆さん飛べるのですか? 私も、頑張って飛べるようにならなければいけませんね。これも全く根拠はありませんが、たぶん飛べそうな気がします。

 口をぽっかり開けて天井を眺めていたら、こちらを覗きこんでいるアーシュと目が合いました。……見られていたのですね。お恥ずかしい。

『ふふ……、イレーヌ紹介させてください。ああ座ったままで大丈夫です。この男の名前は、レオドナール=ケバルといいます。【レオ】と呼んでいただいて構いません。私の親しい友人です。森でお会いしましたよね?』
『はい。もちろん覚えています』

 外で見張りをしてくださった方ですよね?

 アーシュも背が高いですが、この人間さんはもう少し高いです。
 肌の色は少し茶色みがかっていて、腕はとても太く、胸板の厚いガッチリとした大きな体格をしています。
 目の色は真っ黒で、スッキリと短く切られた髪の色は、少し青みがかった濃い灰色です。眼光鋭い、彫りの深いお顔立ちは、ちょっとだけ森の狼さんを彷彿とさせます。
 人間さんというのは、いろいろな色に分かれているのですね。

『……レオ、です。え~……神語は、すこしだけ話せる……ます。よろしく、お願いします』

 レオさんは床に片膝をつき、私と目を合わせながら、とても丁寧な口調で語りかけてくれました。
 ならば私も、誠意には誠意をもって応えましょう!

「……わたち……いれーにゅ、でちゅ。よろちく、おにゃにゃい、ちまちゅ」

 精一杯の笑顔をつくってみました。
 ほぼ初対面の人間さん相手に、とても緊張します。この挨拶の仕方で問題ないのでしょうか? どうか無事に、群れに受け入れてもらえますように。

 ああっ! しまった!
 これも言わないとっ!

「こんにゃちわ」

 もう一度、にっこり。
 ふう……、危ないところでした。なんとかギリギリ捻じ込めましたよ。

 でも、あれ? レオさんが、片手で口元を隠したまま硬直しています。
 失敗したのかと、不安にかられてアーシュを見れば、

『とても上手に言えてましたよ。レオはまだ少し緊張しているのです。許してあげてください』

 そういって、ことさら優しく頭を撫でてくれました。

 そうでしたか。
 そういえばアーシュも、初対面の時には、カッチコチに固まっていましたよね? あれも、レオさんと同じでしたか。

 人間さんは、本当に繊細な生きものなのですね。
 私は大雑把なところがあるので、充分に気をつけたいと思います。
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