異端の巫子

小目出鯛太郎

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距離感

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 俺は本とクッションを抱えてアルコーブベッドに逃げ込んだ。
 15時にお茶を用意させておくと言われたので、ちらちらと時計を気にしながらの読書になった。
 
 
 時間に遅れると嫌味を言われるんじゃないかって、ずっとそんな考えに支配されての読書時間が楽しいものであるはずがない。
 静かで、誰も何も邪魔をするものはないのに、正直読んだ事が頭の中に残っていなかった。



 俺が今日手にした本は文学館で借りた『飛空艇の開発者インフェリス・ザラモン』
 ここに書かれている人が公爵家の方とは限らないけれど、前にインフェリス公爵家からは手紙をもらっているし、知っていて悪いことはないはずだから。ただ今日は日が悪かったというか、読んだことも書かれている人物の関係もさっぱり頭に入らない。

「だいたい貴族制なんて縁のない生活してたもんな、俺…」


 ミドルネームどころか姓もない。
 一応セルカからの出国証明書にはエヌ・グナデと記されているけれど、グナデは孤児院の名称なのだ。
 そんな俺に複雑な貴族の系図は難しすぎた。
 なんか似た名前も多いしね。



 とりあえずザラモンが破天荒で特異な考えをしていたのは確かなようだった。

 彼が飛空艇の製作に成功しなければ奇人変人の扱いで一生を終えたかもしれないという一文を読んで、なんだか恐ろしくなった。
 ザラモンは、貴族にあるまじき突飛な行動や実験に身財を傾けて飛空艇を作り上げた。


 空を飛ぶ異物。
 それまでは神の領域であった空に、突如人間が作った物体が浮かび上がる。

 飛行機や宇宙船なんかの別人の記憶として知っていた俺にはふぅん…ぐらいの事だけど、その当時の人々には驚天動地の出来事だったみたいだ。
 

 でもザラモンが飛空艇を作った功罪を理解するには、歴代王の系図、神権政治の瓦解、貴族勢力の二分などあわせて知らなきゃいけない事が多すぎて、俺は本にしおりを挟んだ。
 なんかもうちょっと落ち着いた日に読んだ方が良い気がするよ、この本は…。難しいよ。


 あと5分ほどで15時だった。

 いつもならばへベスが「そろそろお茶に致しましょうか」としずしずと銀色のワゴンを押して来るんだけど。
 ルゥカーフはそういうのはしなさそうだ。

 
 考えてみれば、仲良くしようと歩み寄るより、離れている方が気楽かもしれない。ルゥカーフが仏頂面で側についていたら、俺は息が詰まっちゃうだろうし。
 たぶんこれが良い距離なんだろうな。


 彼が毎日来るって言うわけでもないし、そのうち慣れるだろう。慣れなきゃ。



 俺はへベスとの距離が近すぎたんだよな。これまで抑圧されてた…してた?ものが一度に開放されたようになってしまった。
 ああいうのをきっとたがが外れるっていうんだ。


 ヘベスとの間にあったような事をルゥカーフと繰り返したい訳じゃない




 優しくされたら俺はダメになってしまいそうな気がする。
 他の巫子と側仕えの関係ってどんなふうなんだろう。ふとそんな考えが飛来した。

 そんな下世話な好奇心を持っちゃダメだよな…。うちはうち、よそは他所…。

 


 

 
 
 
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