異端の巫子

小目出鯛太郎

文字の大きさ
51 / 70

距離感

しおりを挟む

 俺は本とクッションを抱えてアルコーブベッドに逃げ込んだ。
 15時にお茶を用意させておくと言われたので、ちらちらと時計を気にしながらの読書になった。
 
 
 時間に遅れると嫌味を言われるんじゃないかって、ずっとそんな考えに支配されての読書時間が楽しいものであるはずがない。
 静かで、誰も何も邪魔をするものはないのに、正直読んだ事が頭の中に残っていなかった。



 俺が今日手にした本は文学館で借りた『飛空艇の開発者インフェリス・ザラモン』
 ここに書かれている人が公爵家の方とは限らないけれど、前にインフェリス公爵家からは手紙をもらっているし、知っていて悪いことはないはずだから。ただ今日は日が悪かったというか、読んだことも書かれている人物の関係もさっぱり頭に入らない。

「だいたい貴族制なんて縁のない生活してたもんな、俺…」


 ミドルネームどころか姓もない。
 一応セルカからの出国証明書にはエヌ・グナデと記されているけれど、グナデは孤児院の名称なのだ。
 そんな俺に複雑な貴族の系図は難しすぎた。
 なんか似た名前も多いしね。



 とりあえずザラモンが破天荒で特異な考えをしていたのは確かなようだった。

 彼が飛空艇の製作に成功しなければ奇人変人の扱いで一生を終えたかもしれないという一文を読んで、なんだか恐ろしくなった。
 ザラモンは、貴族にあるまじき突飛な行動や実験に身財を傾けて飛空艇を作り上げた。


 空を飛ぶ異物。
 それまでは神の領域であった空に、突如人間が作った物体が浮かび上がる。

 飛行機や宇宙船なんかの別人の記憶として知っていた俺にはふぅん…ぐらいの事だけど、その当時の人々には驚天動地の出来事だったみたいだ。
 

 でもザラモンが飛空艇を作った功罪を理解するには、歴代王の系図、神権政治の瓦解、貴族勢力の二分などあわせて知らなきゃいけない事が多すぎて、俺は本にしおりを挟んだ。
 なんかもうちょっと落ち着いた日に読んだ方が良い気がするよ、この本は…。難しいよ。


 あと5分ほどで15時だった。

 いつもならばへベスが「そろそろお茶に致しましょうか」としずしずと銀色のワゴンを押して来るんだけど。
 ルゥカーフはそういうのはしなさそうだ。

 
 考えてみれば、仲良くしようと歩み寄るより、離れている方が気楽かもしれない。ルゥカーフが仏頂面で側についていたら、俺は息が詰まっちゃうだろうし。
 たぶんこれが良い距離なんだろうな。


 彼が毎日来るって言うわけでもないし、そのうち慣れるだろう。慣れなきゃ。



 俺はへベスとの距離が近すぎたんだよな。これまで抑圧されてた…してた?ものが一度に開放されたようになってしまった。
 ああいうのをきっとたがが外れるっていうんだ。


 ヘベスとの間にあったような事をルゥカーフと繰り返したい訳じゃない




 優しくされたら俺はダメになってしまいそうな気がする。
 他の巫子と側仕えの関係ってどんなふうなんだろう。ふとそんな考えが飛来した。

 そんな下世話な好奇心を持っちゃダメだよな…。うちはうち、よそは他所…。

 


 

 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...