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砂の国
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「なんだお前達は」
威圧するような大気を振るわせる声を出したのは赤銅色の大柄なあやかしだった。
彫りが深く、逆光で立つせいで落ち窪んだように見える眼窩が暗い洞穴のように見える。見上げるように背が高く、全身からじりじりと肌を焼くような熱気を纏っている。
外地のあやかしとはこんなに大きく猛々しいものなのかと凩は驚いた。
「我が名は熱波この赤い砂漠に住まう者だ。お前達は何用か」
「私達は海を渡って旅の途中だ」
我が名は束風と名乗りを上げて対峙した束風が一番力も強く背も高いはずなのだが、熱波を前にするとほっそりとして見えた。冬の風らしい冷たい月白の肌に白練の衣は砂地ではひどく目立った。
この赤い砂の地に白はあまりに眩しい。
雪を知らない民はこの白さを何に例えるだろうかと凩は思った。白鳥の羽か、乳か、胡蝶蘭か、真珠か。
ううう、束風眩いぞ。お前、外地のあやかしの視線を釘付けだぞ。
他の何を見ようとしても、視線が引き寄せられる。
熱波の眼が炯々として束風を見ていた。束風だけを見つめていた。
あの眼差しは、ほの字というやつじゃないですか、束風、あんたも悪い人だねぇ、その気もなしに方々で人目を惹いて心を奪っちゃうんだから。まったく困ったもんだよ…。…と、まぁ、そんな気持ちで束風を見上げて見ると、これが驚いた事に束風のいつもは険しい釣り上がり気味の眼元が優しく緩んでいた。
力の強い者は戦わずして相手の力量がわかると言うのだが、互いの内に何を感じたのか南と北の大妖怪は親しげに手を取り合っていた。
熱波の影から、熱波に良く似た日焼けした顔がこちらを見ていた。凩と同じ丈ぐらいで黒目がちの無邪気な大きな瞳をぱちぱちさせた。
「俺は砂塵だよ、海向こうから来たのか?凄いな」
凄いなと言われれば、凄いのは束風であって凩ではないのだが、内心鼻高々にになり胸を張る。
「おれは凩だよ。あっちが束風で、あっちが颯」
「よろしくな。海向こうの話を聞かせてくれよ」
「いいよ。ここのことも教えてくれよ」
砂塵はうーんと呻いた。
「ここは、赤い砂漠って呼ばれてるな。いっぱい血を吸って赤いんだぜ…そら!お前の足元も」
凩は兎のようにぴょんとその場で飛び上がってしまった。
「もー!嘘なんだな?からかうなよ~」
砂塵はけらけらと悪童そのもの顔で笑っていた。
「くっくっく。お前びびりだな。ここにいたら兄貴達の邪魔になるし、行こうぜ」
砂塵に手を取られた瞬間、砂が巻き上がり、まるで深い滝壺に勢いよく飛び込んだように砂が跳ねた。
砂漠の地下に遺跡があるなどと、誰が思うだろうか。
砂塵は凩の手を取り、砂の中を飛んだようだった。
「ここは、地下の顔のない神殿さ。外装の浮き彫りも、石像もみんな顔がないだろ?」
驚くほど巨大な像も、壁面の精密な浮き彫り細工も、何故かどれも顔が無残に割れている。
「今からさぁ、良いもの見せてやるよ」
さほど背丈の変わらない砂塵に軽々と抱えられて、凩は複雑な気分になった。いや、あやかしの見た目はあまり当てにならないのだ。姿を変えている場合もあるからだ。
しかし一体地底で何を見せてくれるというのか。
「あ!?」
凩は立ち止まってまじまじとそれを眺めた。
岩壁に水の染み出している場所があり、そこに繊細な胸像が浮き上がる様に深彫りされているのだ。
水壺を肩で支えた女神の半身は、長年の水の雫で穿たれて損なわれた部分もあったが、白い顔は残っていた。
束風!?
束風が女であったならば、あるいは、眉を細く、下唇をもう少しぽってりとさせて、頬に少しばかり丸みがついたならば。束風を象ったような像だった。
威圧するような大気を振るわせる声を出したのは赤銅色の大柄なあやかしだった。
彫りが深く、逆光で立つせいで落ち窪んだように見える眼窩が暗い洞穴のように見える。見上げるように背が高く、全身からじりじりと肌を焼くような熱気を纏っている。
外地のあやかしとはこんなに大きく猛々しいものなのかと凩は驚いた。
「我が名は熱波この赤い砂漠に住まう者だ。お前達は何用か」
「私達は海を渡って旅の途中だ」
我が名は束風と名乗りを上げて対峙した束風が一番力も強く背も高いはずなのだが、熱波を前にするとほっそりとして見えた。冬の風らしい冷たい月白の肌に白練の衣は砂地ではひどく目立った。
この赤い砂の地に白はあまりに眩しい。
雪を知らない民はこの白さを何に例えるだろうかと凩は思った。白鳥の羽か、乳か、胡蝶蘭か、真珠か。
ううう、束風眩いぞ。お前、外地のあやかしの視線を釘付けだぞ。
他の何を見ようとしても、視線が引き寄せられる。
熱波の眼が炯々として束風を見ていた。束風だけを見つめていた。
あの眼差しは、ほの字というやつじゃないですか、束風、あんたも悪い人だねぇ、その気もなしに方々で人目を惹いて心を奪っちゃうんだから。まったく困ったもんだよ…。…と、まぁ、そんな気持ちで束風を見上げて見ると、これが驚いた事に束風のいつもは険しい釣り上がり気味の眼元が優しく緩んでいた。
力の強い者は戦わずして相手の力量がわかると言うのだが、互いの内に何を感じたのか南と北の大妖怪は親しげに手を取り合っていた。
熱波の影から、熱波に良く似た日焼けした顔がこちらを見ていた。凩と同じ丈ぐらいで黒目がちの無邪気な大きな瞳をぱちぱちさせた。
「俺は砂塵だよ、海向こうから来たのか?凄いな」
凄いなと言われれば、凄いのは束風であって凩ではないのだが、内心鼻高々にになり胸を張る。
「おれは凩だよ。あっちが束風で、あっちが颯」
「よろしくな。海向こうの話を聞かせてくれよ」
「いいよ。ここのことも教えてくれよ」
砂塵はうーんと呻いた。
「ここは、赤い砂漠って呼ばれてるな。いっぱい血を吸って赤いんだぜ…そら!お前の足元も」
凩は兎のようにぴょんとその場で飛び上がってしまった。
「もー!嘘なんだな?からかうなよ~」
砂塵はけらけらと悪童そのもの顔で笑っていた。
「くっくっく。お前びびりだな。ここにいたら兄貴達の邪魔になるし、行こうぜ」
砂塵に手を取られた瞬間、砂が巻き上がり、まるで深い滝壺に勢いよく飛び込んだように砂が跳ねた。
砂漠の地下に遺跡があるなどと、誰が思うだろうか。
砂塵は凩の手を取り、砂の中を飛んだようだった。
「ここは、地下の顔のない神殿さ。外装の浮き彫りも、石像もみんな顔がないだろ?」
驚くほど巨大な像も、壁面の精密な浮き彫り細工も、何故かどれも顔が無残に割れている。
「今からさぁ、良いもの見せてやるよ」
さほど背丈の変わらない砂塵に軽々と抱えられて、凩は複雑な気分になった。いや、あやかしの見た目はあまり当てにならないのだ。姿を変えている場合もあるからだ。
しかし一体地底で何を見せてくれるというのか。
「あ!?」
凩は立ち止まってまじまじとそれを眺めた。
岩壁に水の染み出している場所があり、そこに繊細な胸像が浮き上がる様に深彫りされているのだ。
水壺を肩で支えた女神の半身は、長年の水の雫で穿たれて損なわれた部分もあったが、白い顔は残っていた。
束風!?
束風が女であったならば、あるいは、眉を細く、下唇をもう少しぽってりとさせて、頬に少しばかり丸みがついたならば。束風を象ったような像だった。
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