こがらしはしぬことにした

小目出鯛太郎

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砂の国

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 本当のおれ?大人になった姿?

 そんなの、おれが一番見たい。


「ねぇ、砂塵さじんこれがおれの本当の姿だよ?」
 掴まれた手を引き抜く事も出来ない。見下ろされたままこがらしは答えた。


「いや、そんなはずはない。会ったばかりで俺の事を信用できないかもしれないけど、俺がこうして見せたんだから、俺にもお前の姿を見せてくれよ」
 ひざまずいて、手を握られると言うことは凩の記憶の中にない体験だった。

 いつも見上げるばかりで、見下ろした事のない凩はなんともいえない気分に襲われた。

 見おろすとはどんなに気分が良いものかと思っていたのに秋の七草の女郎花おみなえしを食べられると勘違いして噛んだような。その苦い汁が口中から体中へ勢いよく駆け巡っていくような感じがした。

 優越感などかけらも湧かない。



「ようするに砂塵はおれのこの姿が気に入らないってことだよね?」

「いや!そんなことないぜ。その姿だって悪くはないと思うんだけどさぁ」


 砂塵の言い方に苛立ちが募る。一度苛立つと、握られている手の熱さまで嫌になってくるのだった。

「けど、けど何なの?俺の郷里くにだと、そうやって俺をみろって追いかけて来る奴は露出狂っていうんだぞ」


「ろ、露出狂?」

「暗がりや人気のない所で、無垢で純情な子供や婦女子に俺をみろって局部を丸出しにして見せつけて、相手の羞恥を煽ったり悲鳴をあげさせたりする破廉恥な奴のことを露出狂って言うんだよ。せっかく楽しい気分で旅にでかけたって言うのに、砂塵は酷いよ。嫌いになるよ。あ~あもう国へ帰っちゃおうかなぁ」


 砂塵が熱い薬缶に飛び乗った猫のように慌てたので、口調の後半はからかうように言ってみる。


「俺はその露出狂っていうんじゃないからな、悪かったよ。怒らないでくれよ。凩の身体からさぁ、あの大妖だいようと同じ気配がするもんだからよ…。気になって仕方なかったんだ。凩を怒らせようとか、嫌がらせとか絶対そんなんじゃねぇからな。来たばかりなんだし、帰るとか言うなよ、な?」


 束風が呆れた…というように見る目つきを思い出して凩は砂塵をねめつけた。
「次同じことを言ったら、砂塵のことはずぅっと露出狂って呼ぶからね。束風に言いつけちゃうからね」

「えええぇ、頼む、言いつけるのだけは勘弁してくれ」
 砂塵は凩の手首を離すなり足に縋りついた。

「お前のお連れさんはともかく兄貴があんな機嫌の良さそうなのは久方ぶりなんだ。水をさそうもんなら俺は木っ端微塵になっちまう…」


「とりあえず熱いから離してよ」

「俺はひんやりして気持ちいい」

 凩が決して勝てない攻防が続いた。砂塵に掴まれたり、抱きつかれると、振りほどく事も逃げる事もできないのだ。分かってはいたが、凩よりも砂塵の方があやかしとして強い。

 凩の身体を抱きしめた砂塵は深々と息を吸い込んだ。

「吸っちゃだめ!」

 砂塵は更に深々と息を吸い込む。凩の身体を包む冷たい妖気を胸いっぱいに吸い込む。
 冷たい妖気は臍下へそした辺りにずしんと溜まり、そこより上は熱気でほわほわと陽を浴びたように、火酒を飲んだように熱くなる。
 自然の摂理で温かい風は軽く上に、冷たい風は重く下に動く。砂塵の身体は今まさにその状態だった。
 歌いだしたくなるような踊り出したくなるような上機嫌で、凩を抱えたままくるくると回る。

「吸っちゃだめ、吸っちゃだめだったら!」

「良いではないか、減るものではなし」

「減る!目減りする!海を渡ってきて大変だったんだぞ、疲れた所に妖気を吸われては、か弱いおれはしなびるぞ、しおれるぞ、枯れ果てるぞ、砂塵のせいでついえるぞ!」

 凩は、大袈裟に喚いた。まぁ、すぐに潰えるわけではないが、寿命も近いし、吸われ続ければ枯れ果てつけるという事は嘘ではない。凩は嘘つきではない。


「潰える!?それは困る。では遠慮なく俺を吸え」
 
 砂塵は勢いよくがばりと胸元を開き、凩の眼前に首筋を曝け出した。
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