こがらしはしぬことにした

小目出鯛太郎

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砂の国

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 屋敷のある場所は遠いのかなぁと、こがらしはぽわぽわと酔った頭で思った。

 石像のあった場所からひとっ飛びというわけではなく、何処かに足をつけている。中継地点となった場所も随分変わっていた。
 岩でできた茸のような階段や、赤い縞瑪瑙のような巨石、天井から幾重にもぶらさがった鍾乳石は筍のように見えた。

 こんなに砂だらけで乾いているのに、大昔は水が流れていたのだなぁと揺られながら凩は目を閉じた。

 体が温かく、重く、瞼をあけていられなくなっていた。



 次に目覚めた時、凩は驚きに竦んだ。
 周りに砂地も岩壁もなかった。
 柔らかい寝椅子の上にいた。

 眼前に溢れる緑に陶酔した。
 緑と一言で言い表せぬ様々な植物が奔放に葉を広げ、花を咲かせている。

 凩は秋の終わりから冬の短い時しか目覚めていない。山の終わりかけの紅葉は目にするが、茶色と白と灰色の世界で生まれ育ったので一面の緑の色彩に圧倒され、恐る恐る近くにあった葉を指でつついてみた。瑞々しい。





 見上げれば傘のように広がった枝葉か影を作り、強い日差しを和らげていた。果実を実らせた木々も多い。見たこともない果実に、嗅いだこともないにおい。木々と葉の合間からはら異国情緒あふれる石造の東屋が見えた。

 そこに白い影を見たような気がして、凩は起き上がる。
 

 足元がなぜかふらふらした。


 柔らかい苔をいくつも重ねたような、落ち葉を山と降らせた上を歩くような。

 凩はふらふらと歩く。濃い緑の中で心細くなり、白い影を目指す。


 
 ねぇ、ふたり何をしているの?と問いかけるには遠すぎて、頭では理解しているので聞くに憚られた。

 赤銅色の熱波しむんの身体を跨いで、束風たばかぜがいた。

 いつものあの重そうに周りを阻む十二単のような衣装を脱いで、白い髪を背に流し。

 
 白い髪の間から、背を撫で回す腕がやけに黒く見える。あんな炭のような手で触ったら、束風は火傷しちゃうよ。

 ねぇ束風火傷しちゃうったら。


 届くはずもない。


 炭は表面が黒く乾いたように見えても、中がまだ赤く燃えている時がある。


 二人の近くを歩いていた孔雀と白孔雀が共に扇のように羽を広げる。

 見えるような見えないような。
 絶妙な加減の衝立が生じて、凩は伸び上がる事もできず、前に進むこともできず、潔くきびすをかえすこともできずにいた。

 茶色の雌鳥がいない。

 宝石のように輝く青と白と緑の尾羽根の立派な雄の鳥しかいない。

 扇の羽の影で熱波しむんと束風がしている事が、凩に分からない訳ではない。ちゃんと見たことが無かっただけで。


 凩が今まで聞いたことのない束風の声。

 時々いいこだなと束風が凩の頭をそっと撫でる時とは違う、いい、という声に凩は戸惑い狼狽えた。

 きっとこれは聞いてはいけないのだと慌てて耳を押える。

 ふにゃっとそこにしゃがみこみ尻をついた。

 あ、といの音だけで妙なる調べが作れるのなら、世の中に他の音も楽器もいらぬ。

 凩はぎゅぅっと耳を押えた。
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