こがらしはしぬことにした

小目出鯛太郎

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砂の国

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 こがらしは何処に連れられて行ったかな…。

 砂塵は目を閉じた。あまり得意ではないが、大気の中をぐるぐると探り、冷たい気を探す。しばらくそうしていると、四つそれらしいものが見つかる。最も大きな冷気は間違いなく大妖のものであろう。探っただけで首の後ろが冷々とする。

 何故四つあるかはわからないが、一番弱くてのひらに収まりそうなこれに違いないと当たりを決めて、砂塵は飛んだ。
 
 飛んだ所で何か妙だと感じる。地下の墓所に近い。こんな場所にあの大妖がこがらしを置いて行くだろうか?

 あんな宝物のように抱き上げて?まずそれはない。
 そうでなくとも砂の赤を血の赤と言っただけで飛び上がるような臆病な子をこんな場所に放り出して行くはずがない。
 いびつなようで密に積み上がった骨の回廊の間を進んで行く。

 壁に踊るように張り付いている髑髏どくろがそれを見送る。長くあるものほど手や足先の端から崩れていき砂になる。

 よく見れば骸骨は首輪や手枷てかせで吊られたり、両手を太い釘で打たれている。

 いつしか砂塵の身体の一部になるのに、今日ばかりは髑髏達の存在がいとわしい。

 昔は戦う事も苦しめる事も殺す事も楽しかったけれど、これは客人には見せたくないな、珍しく砂塵は思った。




 進んだ先に天井から一筋光が当たる場所があった。

 祭壇だ。

 地底から見上げるとそれは天へ昇る光の道のように見える。

「これは俺のものだ」

 顔には陰鬱の影が刻まれ、声に抑揚がない。
 颯と呼ばれた白いあやかしの人形のように動かぬ体を抱えて黒風が呟くのが、砂塵に聞こえた。


 砂塵の横には枯れた花冠を骨の頭蓋の上に乗せた骸骨があった。
 あの枯れた花はもとは瑞々しい蘭の花。投網のようにぶら下がっている薄汚れたものは花嫁のつける白いベールだったはずだ。

「これは俺のものだ」
「砂塵、わかっている。だからそれに乱暴するなよ」

 凩についで、颯にまでなにかあれば、あの大妖がどんなに怒り悲しむことか。砂塵は全く悪気なくぐったりとした颯の様子を確認しようとした。


 砂塵の視界の隅で黒風が剣をぬらりと抜き放ち振りかぶるのが見えた。
「これは俺のものだ、お前には似合いの連れがいただろう」

 黒風は正気ではなかった。

 もとよりずっと正気ではなかったのかもしれぬ。目を血走らせ砂塵を睨む。

 剣で切りかかるというよりは剣に振り回されるようにして、砂塵に相対し周りのものを壊し始めた。


「うるせぇ何が似合いの連れだ、あんな半端物俺の連れではない」

 黒風の暴挙もあり、刃を避けながら腹がたった砂塵は口汚く言い返す。
「あんな痩せ小枝、およびじゃねぇんだよ」


 まさかその言葉が、凩に聞こえているとも知らず。


 ああ長い長い時間をかけてゆっくりと黒風は狂ってしまった、と砂塵は嘆息する。昔の大陸の覇者たる面影も理知もない。 

 つがいを自らの手であやめてからあの男は少しずつ壊れていってしまった。

 砂塵もまた輪廻の輪から外れている存在であるけれどもそこに加わりたいとも、そこから誰かを引き摺りだしたいとも思っていない。

 番は共に幸せになるための存在ではないのか?殺したり、狂ったり、哀れな残滓になるのならば、そんなものは要らないと砂塵は思った。

 
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