こがらしはしぬことにした

小目出鯛太郎

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砂の国

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 おれは外地そとちに夢を見すぎていた、とこがらしは思った。

 鉛のように重たい灰色の空と、冬に向けて枯れて茶色くなって行く世界から抜け出して、いつか外地に行けば何もかも変わって行くような気がしていた。

 我慢すること、諦めることをやめて残りの時間を奔放に好きなことをしてやろうと思っていた。

 
 砂塵が自分にしようとしている事も、興味があった、してみたかった。これだけ熱烈に求められるならどうせ消えてしまう身体だもの、好きにさせてやれと投げやりな気持ちにもなり、己の中で小さい子が嫌だ嫌だと転げ回るようにこんな事はしたくないと訴える声もする。

 だがこの身体が消えてしまうのならば、今まで命を繋ぐためにあやかしの気を分け与えてくれた束風たばかぜにこそ全てを返すのが礼儀ではないのかという気もする。


 しかしそれも、嫌だと己の中の小さい声が訴えるのだ。

 凩があやかしの中で一番心を寄せながら、束風に全てを委ねてしまわないのは、その他大勢のうちの一つになりたくないからだ。束風には沢山の相手がいる。
 束風が長く気を分け与え続ける相手は、凩が知る中では自分一人だけだ。

 だが枕を交わし身体を重ねてしまうと、その瞬間から雑輩の一員だ。あまりにも無力でちっぽけな凩の事を束風は忘れてしまうだろう。



 いやだ、覚えていて欲しい、ひとりくらいはおれのことを忘れずに覚えていて欲しいのだ。


 凩の心が思い悩んでいる間に、身体中に指がはいって来て、凩は悲鳴を上げた。


「…砂塵はおれのこと好き?…おれを食べてもおれのことずっと覚えていてくれる?」




 その返事は、真実でなくても良かったのだ。もしも砂塵が大人で、この時に上手に嘘をつければ、小さくて泣き虫で甘えん坊な恋人を手に入れて、移ろわぬ凪の屋敷おあしすで幸せに暮らし、幸せな終わりを迎えたかもしれなかった。それは選ばれなかった未来おはなし



 砂塵は、束風の気を小指から得たばかりに、凩の身体から溢れる束風のあやかしの気に猛烈に嫉妬していた。



 俺の気を甘いと言いながら!!


 
 砂塵は激怒していた。怒り心頭に発するとはこのような事なのか、会ったばかりの何の約束もしていない小さなあやかしに対して恐ろしく残酷な気持ちになっていた。生来持つ無邪気さもこの時ばかりは悪く作用した。童子は時に無惨に蝶の羽を毟り、蛙の腹を裂く…。砂塵は身体を引き裂くだけではなく、自分が心に負った衝撃をそのまま、否それ以上に負わせてやらねばならないという気になっていた。


 白い、細い首に手をかけた。

 あの時に首を絞めると具合が良いと言うじゃないか、お前で試してやる。


 常より残忍に砂塵は言い放った。

「蛇が今まで喰った餌の顔を覚えていると、思うのか?」





 その言葉は、終わりの近い凩を撃つには十分過ぎた。





 もし砂塵の命がついえる時、最後に思い浮かべるのは、おれの顔ではなく、地下にあるあの石像の顔だろうというおかしな確信が凩にはあった。
 そう思えた瞬間。

 砂塵がまさに喰らい貫こうとしたその時に、凩の身体は消えて行った。

 風が砂漠の蜃気楼しんきろうを吹き消すように、海の波が砂の城をひと撫でで飲み込むように、凩の身体は砂塵の下から掻き消えた。


 そして床に、彼がゴミと言った数枚の落ち葉が僅かな生に執着する様に虚しく張り付いていた。
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