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業の国
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凩は震え上がった。
砂塵に着物を裂かれて押さえつけられた時よりも恐怖した。
頭、首、肩を同時に踏み潰されたかのように顔をもたげる事が出来ない。その場から動くことさえ出来ない。
『だめ!』
何故だ?何だ!?ただ扉が開いただけでどうして動けなくなるのだと、凩は身体を震わせた。これこそ蠍の騎士が言った化物なのではないか?
睥睨だけで他者をひれ伏せさせる強大な力、意に染まぬ者を全て屠ってしまう殺戮の主なのではないか。そんな恐ろしいものが近くにいる。
『クルス、逃げろ!此処にいてはだめだ!!』
凩は叫んだ。
舞台の梁から彼が落ちそうになった時、全力で支えた時のように、彼の身体を部屋の外へ押そうとした。
凩の風のちからは揺らぎもしなかった。いつもならふっとひと吹きするだけで冷たい一筋の風が生まれるのに、それさえない。
扉を開けた者が何か言っている。しかし凩の耳元で音叉を何本も打ち鳴らしたようにうぉんうぉんと唸るように響きさっぱり理解出来なかった。
『クルス、クルス!』
あ、と凩は身を振るわせた。クルスの立ち上がった足元が見えた。
そうだ、部屋を出ろ、この際あの腐れ親父でも良い、あいつに縋って逃げろ…。
少年の身につけた淡い桃色と白のドレスがふわりと揺れる。どこかにつけてあった花飾りが音も無く落ちた。
あ!?クルス誰に手を引かれている?それはだめだ、そっちはだめだ!!凩は腹の奥底から叫ぶ、絶叫する。
この部屋に近づいてくる気配があるが、それに何ほどの恐怖も感じない。
クルスの手を引いた者こそが恐ろしい、恐怖の根源だった。
凩の叫びで床に落ちた白い花飾りが、ふわと押されて、扉の外に飛んだ。入れ違いに大男と、着飾った女二人が部屋になだれ込む。
乱暴に扉が閉まる。
女の一人は結った髪を自ら解き、一人は恥じらいもなくドレスを脱ぎ落とす。そして二人で大男のベルトとズボンに手をかけ狂宴が始まった。
凩は震えながら、扉をすり抜けた。本当は早くクルスの元に飛んで手を引いて、この闘技場から連れ出してやりたいのに身体が思うように動かなかった。
煮えたぎる五右衛門風呂の上に吊るされたか、燃えたぎる窯に釉薬をかけてから突き込まれたように熱い。
『クルス!』
白いドレスを纏った姿は、躊躇いつつ禍々しいものの後をついていく。
人にはあの禍々しさが分からないのか!?クルスだめだそっちに行っちゃだめだ。クルスとは細く凧糸でひかれるように繋がっていたが、今はそのせいでさらに首を閉められるように苦しい。
行って助けてやらねば思うのに、凩の身体は恐怖し、竦み、固まる。
二人は軽やかな足取りで先へ先へと進む。何かを話し、時々笑いさえした。
その全ては凩の耳には音叉の唸りのようにしか聞こえない。
二人が階段を降りて、人気のない扉の前に立つ。
二人が中に入りあの扉が閉まったら、もう中には入れない、と凩は思った。
クルス、どうか気がついてくれ。そこに行かないでくれ!凩は軋む身体でクルスにとり縋ろうとした。
横に立つ男の手が飛んで来た蜘蛛の糸か埃を払うかのように手を振った。
「ふん、何かおかしなものがいるな」
初めて男の声が聞こえた。どこかで聞いた事があったような気がする冷酷な響きだった。
男の手が触れただけで、凩は叫べなくなった。顔の半分が爛れ崩れ落ちた気がした。
男の手がもう一度振り上げられたが、振り下ろされるよりも早く、凩の身体は猛烈に引っ張られた。
覚えのある感覚だった。
砂塵に着物を裂かれて押さえつけられた時よりも恐怖した。
頭、首、肩を同時に踏み潰されたかのように顔をもたげる事が出来ない。その場から動くことさえ出来ない。
『だめ!』
何故だ?何だ!?ただ扉が開いただけでどうして動けなくなるのだと、凩は身体を震わせた。これこそ蠍の騎士が言った化物なのではないか?
睥睨だけで他者をひれ伏せさせる強大な力、意に染まぬ者を全て屠ってしまう殺戮の主なのではないか。そんな恐ろしいものが近くにいる。
『クルス、逃げろ!此処にいてはだめだ!!』
凩は叫んだ。
舞台の梁から彼が落ちそうになった時、全力で支えた時のように、彼の身体を部屋の外へ押そうとした。
凩の風のちからは揺らぎもしなかった。いつもならふっとひと吹きするだけで冷たい一筋の風が生まれるのに、それさえない。
扉を開けた者が何か言っている。しかし凩の耳元で音叉を何本も打ち鳴らしたようにうぉんうぉんと唸るように響きさっぱり理解出来なかった。
『クルス、クルス!』
あ、と凩は身を振るわせた。クルスの立ち上がった足元が見えた。
そうだ、部屋を出ろ、この際あの腐れ親父でも良い、あいつに縋って逃げろ…。
少年の身につけた淡い桃色と白のドレスがふわりと揺れる。どこかにつけてあった花飾りが音も無く落ちた。
あ!?クルス誰に手を引かれている?それはだめだ、そっちはだめだ!!凩は腹の奥底から叫ぶ、絶叫する。
この部屋に近づいてくる気配があるが、それに何ほどの恐怖も感じない。
クルスの手を引いた者こそが恐ろしい、恐怖の根源だった。
凩の叫びで床に落ちた白い花飾りが、ふわと押されて、扉の外に飛んだ。入れ違いに大男と、着飾った女二人が部屋になだれ込む。
乱暴に扉が閉まる。
女の一人は結った髪を自ら解き、一人は恥じらいもなくドレスを脱ぎ落とす。そして二人で大男のベルトとズボンに手をかけ狂宴が始まった。
凩は震えながら、扉をすり抜けた。本当は早くクルスの元に飛んで手を引いて、この闘技場から連れ出してやりたいのに身体が思うように動かなかった。
煮えたぎる五右衛門風呂の上に吊るされたか、燃えたぎる窯に釉薬をかけてから突き込まれたように熱い。
『クルス!』
白いドレスを纏った姿は、躊躇いつつ禍々しいものの後をついていく。
人にはあの禍々しさが分からないのか!?クルスだめだそっちに行っちゃだめだ。クルスとは細く凧糸でひかれるように繋がっていたが、今はそのせいでさらに首を閉められるように苦しい。
行って助けてやらねば思うのに、凩の身体は恐怖し、竦み、固まる。
二人は軽やかな足取りで先へ先へと進む。何かを話し、時々笑いさえした。
その全ては凩の耳には音叉の唸りのようにしか聞こえない。
二人が階段を降りて、人気のない扉の前に立つ。
二人が中に入りあの扉が閉まったら、もう中には入れない、と凩は思った。
クルス、どうか気がついてくれ。そこに行かないでくれ!凩は軋む身体でクルスにとり縋ろうとした。
横に立つ男の手が飛んで来た蜘蛛の糸か埃を払うかのように手を振った。
「ふん、何かおかしなものがいるな」
初めて男の声が聞こえた。どこかで聞いた事があったような気がする冷酷な響きだった。
男の手が触れただけで、凩は叫べなくなった。顔の半分が爛れ崩れ落ちた気がした。
男の手がもう一度振り上げられたが、振り下ろされるよりも早く、凩の身体は猛烈に引っ張られた。
覚えのある感覚だった。
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