こがらしはしぬことにした

小目出鯛太郎

文字の大きさ
49 / 79
業の国

48

しおりを挟む
『あ、クルスが村娘からお姫様みたいな格好に変身か。早着替えだな』

 舞台の上に組まれた大きめの日陰棚パーゴラは、蔓や下がり花が絡んだような見た目になっていた。

 壇上で歌い終えた少女に扮した少年クルスが日陰棚の後ろに隠れるなり、そこで村娘の衣装をぱっと脱ぎ、衣装係が一、二の呼吸で上からドレスを被せるように着せかける。前身頃から腰に向けてリボンを結ぶと姫の衣装はほぼ出来ていた。その間に別の衣装係が右左と花のついた付け髪を少年の髪に刺し、クルスは頬紅をはたき、飾りのついた靴を履く。

 表舞台では他の役者達がそれぞれの役柄を演じている。クルスの恋人役の青年が、銀紙を貼ってまばゆく輝く斧を持って戦場に向かって行く。前に同じ演目を行った時は、手に持つのは槍だったはずだ。
 ただ槍は遠目だと手を振り回しているようにしか見えず、輝く銀の斧は灯りに照らされて前よりずっと見栄えが良かった。


 ここまでのあらすじはこうだった。
 狩の途中で獣に襲われた王様を、勇敢な青年が助けて、褒美に騎士に任命される。喜びも束の間戦が始まり青年は戦場に向かわねばならない。青年には美しいが孤児の貧しい許嫁がおり、彼女を一人村に残していくのは心配だと言う。すると王様は、彼女を安全な王城で預かってくれると言う。青年は許嫁に必ず帰って来ると誓い涙ながらに別れを告げる青年の独唱が終わると、許嫁の少女は青年の勝利と無事を祈って歌うのだ。


 許嫁の少女の役がクルスだった。
 村娘の姿はどこから見ても、素朴ながら少女そのもので、高い声も相まってもしかして観客の中には女の子だと思っている者もいるだろうなと、凩は顎をこする。




 王の登場を告げるラッパが鳴り響く。

 衣装係が日陰棚を回しながらさっと隠れる。日陰棚は裏面が豪華な王宮の飾り壁になっていた。
 
 黒い衣装をつけた王様に手を取られてドレスを着たクルスがゆっくりと歩き出す。一歩踏み出すたびに、周りの役者がクルスの髪に赤やピンクの花を差し込む。

 舞台の最前面に立つ頃には、クルスの頭は豪華な花冠をつけた花の女王のように輝いた。

「あの花の一つ一つが、美しさや清らかさへの賛美や崇拝のしるしなのよ」
 観客の誰かが連れに説明する声が、こがらしにも聞こえた。

 王様の衣装は前は赤と黄金色だったような気がするんだけどと凩は首をかしげる。白と黄金色だったかもしれない。黒衣装は舞台では分かりやすく悪者の色なんだけどなぁ。凩は舞台を見続ける。

 
 安全な場所で、美しく着飾らせ、たくさんの贈り物をして王は娘に恋人を忘れさせようとする。その様を歌や踊りで見せる。

 お前に恋をしたと歌う王様の独唱が、最初は切なく響く。少女が拒絶し青年への変わらぬ想いを歌う。それぞれの独唱が重唱になり、王様が激しく誘惑し、着飾った群舞が舞台の上を埋める華麗な踊りと合唱になる。

 人のものをったり、誘惑はいけないと思いながら、凩はこの場面が好きだった。歌が美しい。凩が名前を知らない楽器の旋律が良く、そして歌い踊るクルスがとても美しい。

 女官が揺らす裾の長く翻る黄色い山梔子色の女袴スカートと目の覚めるような瑠璃青の衛兵の外套マントの二十余もいる群舞の合間をクルスと王が追いかけっこをする。





 クルスはひらりひらりと身をかわし、王はよろけながら女官に抱き着いたり、衛兵を蹴ったり外套をめくったり無様ぶざまに追いかける。
 クルスが王様に捕らえられて押し倒される場面には客席から悲鳴が上がるが、次の瞬間離れた別の女官の女袴スカートの陰からクルスがまろび出て、捉え損ねた王様は拳で地面を打つ。
 そしてまたクルスは、青年への愛を歌い、王様への拒絶を歌いながら逃げ惑う。


『なんで誰も王様を止めないんだろう』
 脚本のある劇であるので、考えても仕方のない事なのだが凩は思ってしまう。恋人同士幸せにしてやれよ、と思ってしまう。
 
 今まで考えもしなかった愛について考えてしまうのだ。熱波しむんと束風がお互いに愛し合っていたら、そこに凩が入る隙は無い。あの二人人目も憚らず激しく抱き合っていた。  

 凩を捕えようとしたのは砂塵さじんで、砂塵が欲しいのは身体だけのように思えた。

 クルスとアディムのように違う方向を向いていた愛が、同じ方向を向いてとけあう事もある。

 クルスが、あまりにも心地良さそうに甘く喘ぐので、凩も、あんなふうに愛されたいと思うようになってしまった。

 お互いの名前を呼び合って、抱きしめて、口付けをして一つに繋がって溶ける。それが、羨ましかった。

 愛は方向を何時変えるのだろうと凩は、思った。永遠に一つの者に進み続けるのか、別の者を愛して進み先を変えるのか。

 独りが長すぎたあやかしの身には愛を考えるのは難し過ぎた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...