こがらしはしぬことにした

小目出鯛太郎

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業の国

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「斧?斧がいるってまたどうしてですかい?ぼっちゃん」

 目覚めて身支度をして朝食を取りながら、アディムはクルスの言葉に不思議そうな顔をした。
 クルスが斧が欲しいと言うのだ。

「あのね、昨夜の舞台で小道具で斧を使ったでしょう?あれは木の板に銀紙を貼った偽物なんだよ。お祭りの時は王様がご覧になるかもしれないから、小道具の類はもうちょっと見栄えのする本物を使おうかって。どうかな?何か良さそうなのってあるかな」

「見栄え、見栄えですかい?まぁ…うちで扱っているのは切れ味を一番に見るんですがね。まぁちょっと一緒に見てみますかい?」

 アディムに連れられて武器庫に向かう。
 剣と槍、盾が多く、斧の数はそう多く無い様だった。

「軽くて持ちやすいと良いんだけど」

「うーん、それだとこの黒鋼の斧なんかは大きくて重すぎですかねぇ。見栄えはすると思うんですがね」
 クルスは壁に立てかけられた斧の柄に手をかけた。
 持ち上がりもしなかった。

「うわ、これ重いんだね。小道具の係の人が運んだりちょっと持ったりするには、重すぎるかも…」

「ううーん、舞台での見栄えと取り回しのしやすさで云うと一番はこれですかね」

 アディムが手に取ったのは壁に架けられていた白銀色の斧だった。


「それは壁の飾りじゃ無いの?」
 アディムが余りにも軽々と手に取るのでクルスは驚きの声を上げる。よく切れるので気をつけてくださいねと手渡されると、重いがクルスが持てる重さではあった。

「うちにはね、切れないなまくらの飾り物はありませんよ。これなら刃の部分が炎を照り返して夜目でも目立つんじゃないですかね?これはモノは良いんですがねぇ少々お高くて、しかも皆なんだかんだで剣が良いってんで長いことうちの壁を飾ってたんですよ。祭りの時しか使わないならお貸ししますぜ?」

「買っていくよ、借りたらアディムの儲けにならないじゃん」
「あたしが用意した武器が、王様がご覧になる劇場で使われるってんで十分満足ですよ。しかもぼっちゃんのお役に立てるなら言うことはありませんや」


 アディムはにこにこと笑いながら手招きをする。
「ぼっちゃん、ついでにちょっとこれを見てみませんかね?」

 アディムの招く先に一領いちりょうの鎧があった。
 他に並ぶ鎧と比べると格段に小さい。

「この鎧はねぇ、うちの国の造りではないんですけどもね。お孫さんだか末の息子さんのためだかに鎧を注文したら、作っている間に背丈も横幅もぐんぐん大きくなられたとかで、鎧が出来上がった時にはすっかり着れなくなっちゃったっていう可笑しな曰くのある鎧でねぇ。見た通りのむくつけき大男にはどうにも成らない品物なんですよ。ただ造りはそりゃぁ立派でね。鋳潰して新しい地金にするには惜しくってねぇ。」

 
 鎧は胴部分は前後を蝶番で連結する形で、確かに着る者の体型を選んでしまう形だった。これでは細身の者しか使えそうに無い。前胴はすっきりとして飾りはないが肩当てには鷹の模様が肘当て、腰当ての部分には繊細な草花の飾り彫りがされている。

「鎧に花の模様ってのはなかなか珍しいでしょう?ここに刻んである花言葉が「不死」「不滅」「永遠」って云うんでね。注文された方の気持ちが籠もってるんでしょうねぇ。沈丁花じんちょうげって花らしいですよ。花は見たことはありませんがね。新しい鎧を作るまではこいつを、飾ってちょいちょい磨いてやるってのはどうですかね?それとももっと勇ましい感じの鎧がよござんすかね?」


 クルスは恐る恐る鎧に指を伸ばした。劇中で使う見せかけの皮の鎧と違い硬くひんやりとして、クルスの日常の中にはなかった物だった。

「新しいのなんて、いらないよ。僕、これが良いよ。これさぁ、これさぁ…」
 クルスがもじもじと照れくさそうに、言えないのを見てアディムは肩を叩いてやった。

「着てみますかい?ちょっと一、ニ枚ほど上着を重ねないといけないでしょうけど」

 飾ってある中では一番小さいのに、それでもクルスが身につけるには身体が細すぎるのだ。
 クルスがあまりにも嬉しそうな顔をするので、近いうちに鍛冶屋を呼んで身体にちゃんと合う、クルスが好きな形や模様の鎧を一揃え作ってやろう、とアディムは思った。

 決して安いものではないが、この笑顔のためならばと。
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