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業の国
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しおりを挟む祭りの前の慌ただしい日の最中にアディムの店にいくつか大きな重い荷物が届いた。差出人の名前を見るとクルスの名が記されている。
「ぼっちゃん何やらお荷物が届いているようなんですがね、これはどうしましょうか、部屋の中に?それともすぐに使わないなら裏の倉庫にでも?」
「あ、届いたんだね。アディムにちょっと見て欲しいんだけど…」
クルスは届いた荷物のうち小ぶりの箱を手にした。縛ってあった縄を切り、木箱を開けるとまた中に箱が入っている。それを開けると中に入っていたのは肘から手首ほどの大きさの黄金の天使の像だった。
「…これ前に王様に貰った奴なんだけどね、僕が持っててもしょうがないし、お祭りの時に売ったら良いお金になるんじゃないかと思っていた…アディム?」
肩を強く掴まれてクルスが振り返ると、興奮と驚きの入り混じった顔でアディムが目を皿のように大きくしていた。
「ぼ、ぼっちゃんそれは王様からの下賜の品で、もしかしなくてもぼっちゃんの似姿なんじゃ…」
「…似る似ていないはさておいて、もしかしなくてもそうだよ。こんなの持ってても恥ずかしいだけだけど…」
「売るなんてとんでもありませんよ、どうしてもって仰るのならあたしが買いますよ」
アディムの額から、つっと汗が流れた。
「も、もしかしてぼっちゃん、今日届いたこの荷物はこういうのが詰まってるとは仰っしゃいませんよね?」
クルスは久々に微笑んだ。
「あははは、アディム、実はどこで売って良いかわからなくて箱の中身はこういうのばっかりなんだ」
これもね、とクルスは木箱を開けた。箱の中には無造作にいくつかの布袋や麻袋が入っているが、その一つを手に取り袋の口を開けた。取り出された銀の十字架には真珠の飾りがあしらわれ、長い鎖の部分も全て真珠だった。
砂の内陸では恐ろしく高価な真珠である。
アディムは顔を覆って信じられないと呻いた。
「ぼっちゃん、これはこんな木箱に入れて送るもんじゃありませんよ、完全武装した護衛をつけて運ぶような代物ですよ…」
「だってそんなことしたら、めだっちゃうでしょう?これはアディムしか知らないから良いんだよ。前に住んでた家は引き払っちゃったからね、これをどう処分しようか悩んでたんだけど、アディムに一番お世話になっているしこれから生活費とか色々取ってもらって、後はアディムに任せるよ」
「任せちゃいけませんよ、こういう高価な物は目録を作って管財人をつけないと」
クルスはそんなの必要ないよと手を振った。
「うちから、他の所へ別の荷物を送ってもいい?宝石とかじゃなくて普通の荷駄を送りたいんだけど」
クルスの口から『うち』と言う言葉を聞いてアディムが嬉しそうな表情を浮かべた。
「全部王様に貰った物だから王様に送り返そうかとも思ったんだけど、なんだか嫌味っぽいし、それだったら教会とかに寄付して貧しい人々のために使ってもらった方が良いのかなぁって…アディム、どうしたの?」
アディムは深いため息をついた。教会に寄付したところでそれは貧しい人々のためには使われず教会幹部の誰かの懐を潤す事になるだけなのだが今敢えてそれを言わなくても良いような気がした。
「ぼっちゃんは若いんですから、これから先に何があっても良いようにお金は貯めておかないと」
その時クルスが言い返した声が小さく、アディムは聞き取る事が出来なかった。それを気にも留めなかったのはクルスがずっと穏やかに微笑んでいたからだ。
喉を痛めてから、寂しげで疲れたようなそれでいて隠すようにから元気に振る舞うのでアディムは心配していた。今日のクルスの微笑みは何か吹っ切れたような、澄んだ空のような笑みだった。少年の青とも茶色ともつかぬ瞳はそのまま砂漠の空と砂の色で穏やかに調和し、アディムが照れ臭くなるほど真っ直ぐに見つめ返してくる。
それは永遠にこんな日が続くのだと男に思わせるような眼差しだった。
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