こがらしはしぬことにした

小目出鯛太郎

文字の大きさ
74 / 79
業の国

73

しおりを挟む

 祭りの前の慌ただしい日の最中さなかにアディムの店にいくつか大きな重い荷物が届いた。差出人の名前を見るとクルスの名が記されている。

「ぼっちゃん何やらお荷物が届いているようなんですがね、これはどうしましょうか、部屋の中に?それともすぐに使わないなら裏の倉庫にでも?」

「あ、届いたんだね。アディムにちょっと見て欲しいんだけど…」


 クルスは届いた荷物のうち小ぶりの箱を手にした。縛ってあった縄を切り、木箱を開けるとまた中に箱が入っている。それを開けると中に入っていたのは肘から手首ほどの大きさの黄金の天使の像だった。


「…これ前に王様に貰った奴なんだけどね、僕が持っててもしょうがないし、お祭りの時に売ったら良いお金になるんじゃないかと思っていた…アディム?」
 肩を強く掴まれてクルスが振り返ると、興奮と驚きの入り混じった顔でアディムが目を皿のように大きくしていた。


「ぼ、ぼっちゃんそれは王様からの下賜の品で、もしかしなくてもぼっちゃんの似姿なんじゃ…」

「…似る似ていないはさておいて、もしかしなくてもそうだよ。こんなの持ってても恥ずかしいだけだけど…」

「売るなんてとんでもありませんよ、どうしてもって仰るのならあたしが買いますよ」

 アディムの額から、つっと汗が流れた。
「も、もしかしてぼっちゃん、今日届いたこの荷物はこういうのが詰まってるとは仰っしゃいませんよね?」


 クルスは久々に微笑んだ。
「あははは、アディム、実はどこで売って良いかわからなくて箱の中身はこういうのばっかりなんだ」

 これもね、とクルスは木箱を開けた。箱の中には無造作にいくつかの布袋や麻袋が入っているが、その一つを手に取り袋の口を開けた。取り出された銀の十字架には真珠の飾りがあしらわれ、長い鎖の部分も全て真珠だった。


 砂の内陸では恐ろしく高価な真珠である。


 アディムは顔を覆って信じられないと呻いた。

「ぼっちゃん、これはこんな木箱に入れて送るもんじゃありませんよ、完全武装した護衛をつけて運ぶような代物しろものですよ…」

「だってそんなことしたら、めだっちゃうでしょう?これはアディムしか知らないから良いんだよ。前に住んでた家は引き払っちゃったからね、これをどう処分しようか悩んでたんだけど、アディムに一番お世話になっているしこれから生活費とか色々取ってもらって、後はアディムに任せるよ」

「任せちゃいけませんよ、こういう高価な物は目録を作って管財人をつけないと」

 クルスはそんなの必要ないよと手を振った。
「うちから、他の所へ別の荷物を送ってもいい?宝石とかじゃなくて普通の荷駄を送りたいんだけど」


 クルスの口から『うち』と言う言葉を聞いてアディムが嬉しそうな表情を浮かべた。


「全部王様に貰った物だから王様に送り返そうかとも思ったんだけど、なんだか嫌味っぽいし、それだったら教会とかに寄付して貧しい人々のために使ってもらった方が良いのかなぁって…アディム、どうしたの?」


 アディムは深いため息をついた。教会に寄付したところでそれは貧しい人々のためには使われず教会幹部の誰かの懐を潤す事になるだけなのだが今敢えてそれを言わなくても良いような気がした。


「ぼっちゃんは若いんですから、これから先に何があっても良いようにお金は貯めておかないと」

 その時クルスが言い返した声が小さく、アディムは聞き取る事が出来なかった。それを気にも留めなかったのはクルスがずっと穏やかに微笑んでいたからだ。


 喉を痛めてから、寂しげで疲れたようなそれでいて隠すようにから元気に振る舞うのでアディムは心配していた。今日のクルスの微笑みは何か吹っ切れたような、澄んだ空のような笑みだった。少年クルスの青とも茶色ともつかぬ瞳はそのまま砂漠の空と砂の色で穏やかに調和し、アディムが照れ臭くなるほど真っ直ぐに見つめ返してくる。

 それは永遠にこんな日が続くのだと男に思わせるような眼差しだった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...