きつねのこはかえりたくない

小目出鯛太郎

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しろ

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「主人…何を連れて来たのです」
 らせつは閉口し、チャイロはらせつを盾にして後ろから覗きこんだ。

 チャイロの主人は左手にぼろぼろの白い毛玉を掴んでいた。
 ぶらぶらと揺らされた白い毛玉は甲高くきゅぁぁぁぁんと切ない声で鳴いた。


「いやぁ、外でね。白狐が飛びかかってくるものだから千切っては投げ、千切っては投げしたんだけれど、なかなかしつこくてねぇ。山神と山神を祀った堂の話はもうカタ・・がついているのに殺すのも気が引けるし、どうしようかと困っていたんだけれど、これがどうしてもチャイロに会いたいと言ってねぇ。もうお前の知っているチャイロはいないのだと言い聞かせても納得しないので連れて来たのだよ。悪さをしないと約束をさせてね。大きくなれないように私が力を吸ってしまったからこんななりになってしまったよ」


 無造作に差し出された毛玉の身体をらせつは仕方なさげに受け取った。チャイロが触れようともしなかったからだ。
 小さな白狐の襟首を掴んでらせつは言った。

「お前のつまらん悪戯のせいで別の狐が死ぬ事になったわけだが、殺したのは俺だ。その狐は捌いて、血肉はもう山神に供えてしまった。お前が知る狐はおらぬぞ」


 チャイロはぶら下げられたままきゅんきゅんと鼻を鳴らす白狐の子をらせつの影から眺めた。小さな姿は何となく記憶にあるような気がした。

「そんな哀れっぽく鳴いても無駄だぞ。もうあれは新しいものになったのだ。お前の知る狐ではない」

 チャイロが恐る恐る手を伸ばして鼻先を撫でてやると白狐の毛がぶわっと逆だった。驚いたように短い手足をばたつかせてきぃぁあん!と噛まれたような悲鳴をあげる。

「それ」
 らせつに手渡されて、チャイロは戸惑った。
「ねぇ、これどうしたら良いの?」

 チャイロは押し返そうとしたが、ちっちゃな毛玉はチャイロの手の中でぶるぶると震えている。

「チャイロが面倒を見るかい?」
「やだ、無理だよ、困るよ」

 自分の身の回りの事で手一杯なのに他の面倒を見る余裕はチャイロはなかった。

 白狐はすんすんと鼻を鳴らした。チャイロの新しい身体の手のひらの匂いをかぎ、腕に貼ってあるお札の匂いに鼻に皺を寄せ、困ったようにチャイロを見上げた。
 白狐の探るような薄青い瞳が見る間に涙目になりきゅんきゅんと頭をこすりつけてくる。

「やっぱり面倒だから殺してしまおうか」

 え!?とチャイロは白狐の子の身体をらせつから遠ざけた。面倒を見れはしないけれど、殺すと聞くと可哀想だった。

「ごすじんさま、これはうちの子になるの?」

 主人はうーんと唸りちらりと毛玉を見た。
「うぅん、どうしようかな。二、三日様子を見てから考えようかな。それは大きくなったらまた屋敷にぶつかって来そうだし、お前を咥えて山に駆け戻って行きそうだからねぇ。家の中に置くのなら小さくしておかないと。どうせ家に一人でいても暇だろう。しばらく面倒を見ておやり。さて、私はこれから晩御飯を作ろうかな」


 主人が大きな背嚢を下ろすのをらせつが手伝い、それを横目で見ながらチャイロは白い毛玉を手にして何と言って良いものかと悩んだ。

「前の俺は死んじゃって、新しい俺はもう狐の姿にはなれないし山には帰らないよ?」
 いぁぁぁぁと甲高い鳴声をあげて白狐は身を捩った。

「しぃぃっ。静かにしないと。良い子にしていないとご飯をあげないよ」
 ぼんやりと前にもこんな風に小さい子を抱えて事があるなぁとチャイロは子狐の頭を撫でてやった。
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