6 / 20
しろ
しおりを挟む「主人…何を連れて来たのです」
らせつは閉口し、チャイロはらせつを盾にして後ろから覗きこんだ。
チャイロの主人は左手にぼろぼろの白い毛玉を掴んでいた。
ぶらぶらと揺らされた白い毛玉は甲高くきゅぁぁぁぁんと切ない声で鳴いた。
「いやぁ、外でね。白狐が飛びかかってくるものだから千切っては投げ、千切っては投げしたんだけれど、なかなかしつこくてねぇ。山神と山神を祀った堂の話はもうカタがついているのに殺すのも気が引けるし、どうしようかと困っていたんだけれど、これがどうしてもチャイロに会いたいと言ってねぇ。もうお前の知っているチャイロはいないのだと言い聞かせても納得しないので連れて来たのだよ。悪さをしないと約束をさせてね。大きくなれないように私が力を吸ってしまったからこんな形になってしまったよ」
無造作に差し出された毛玉の身体をらせつは仕方なさげに受け取った。チャイロが触れようともしなかったからだ。
小さな白狐の襟首を掴んでらせつは言った。
「お前のつまらん悪戯のせいで別の狐が死ぬ事になったわけだが、殺したのは俺だ。その狐は捌いて、血肉はもう山神に供えてしまった。お前が知る狐はおらぬぞ」
チャイロはぶら下げられたままきゅんきゅんと鼻を鳴らす白狐の子をらせつの影から眺めた。小さな姿は何となく記憶にあるような気がした。
「そんな哀れっぽく鳴いても無駄だぞ。もうあれは新しいものになったのだ。お前の知る狐ではない」
チャイロが恐る恐る手を伸ばして鼻先を撫でてやると白狐の毛がぶわっと逆だった。驚いたように短い手足をばたつかせてきぃぁあん!と噛まれたような悲鳴をあげる。
「それ」
らせつに手渡されて、チャイロは戸惑った。
「ねぇ、これどうしたら良いの?」
チャイロは押し返そうとしたが、ちっちゃな毛玉はチャイロの手の中でぶるぶると震えている。
「チャイロが面倒を見るかい?」
「やだ、無理だよ、困るよ」
自分の身の回りの事で手一杯なのに他の面倒を見る余裕はチャイロはなかった。
白狐はすんすんと鼻を鳴らした。チャイロの新しい身体の手のひらの匂いをかぎ、腕に貼ってあるお札の匂いに鼻に皺を寄せ、困ったようにチャイロを見上げた。
白狐の探るような薄青い瞳が見る間に涙目になりきゅんきゅんと頭をこすりつけてくる。
「やっぱり面倒だから殺してしまおうか」
え!?とチャイロは白狐の子の身体をらせつから遠ざけた。面倒を見れはしないけれど、殺すと聞くと可哀想だった。
「ごすじんさま、これはうちの子になるの?」
主人はうーんと唸りちらりと毛玉を見た。
「うぅん、どうしようかな。二、三日様子を見てから考えようかな。それは大きくなったらまた屋敷にぶつかって来そうだし、お前を咥えて山に駆け戻って行きそうだからねぇ。家の中に置くのなら小さくしておかないと。どうせ家に一人でいても暇だろう。しばらく面倒を見ておやり。さて、私はこれから晩御飯を作ろうかな」
主人が大きな背嚢を下ろすのをらせつが手伝い、それを横目で見ながらチャイロは白い毛玉を手にして何と言って良いものかと悩んだ。
「前の俺は死んじゃって、新しい俺はもう狐の姿にはなれないし山には帰らないよ?」
いぁぁぁぁと甲高い鳴声をあげて白狐は身を捩った。
「しぃぃっ。静かにしないと。良い子にしていないとご飯をあげないよ」
ぼんやりと前にもこんな風に小さい子を抱えて事があるなぁとチャイロは子狐の頭を撫でてやった。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる