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第48話 聖女マリアナ
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「復活した始まりのダンジョンのダンジョンマスター。そして、我が主の熾天使のブランシュじゃ」
「熾天使のブランシュ……」
聖女マリアナが、まじまじとブランシュを見つめる。その眼差しは強く、少し嘘や疚しい気持ちがあれば見抜いてしまう。第6ダンジョンのように、熾天使達によって仕立て上げられた都合の良い聖女達とは違い、本当の資質と能力を持った正真正銘の聖女。
ザキーサに対抗するだけの力と迫力は、周りの空気を緊迫させ、呼吸することさえも忘れさせる。
「初めまして。熾天使代理のブランシュよ。ザキちゃんのお友達かしら?」
しかし、ブランシュは初めてザキーサに会った時と同じで、マリアナに対しても全く物怖じしていない。
「ふふっ、ザキちゃん呼ばわりするのね。面白い、気に入ったわ」
そして、マリアナは聖女らしからぬ大笑いを始めると緊迫感が和らぐ。それに対して、ザキーサの機嫌は急に悪くなる。
「何がおかしい、性悪の引きこもり聖女」
「腐っても古代竜よ。ちゃん付けして呼ぶとは、中々の良いセンスをしているわね。確かに、魔力の質はサージとは少し違う。でも全くの他人とは思えないわ」
そして笑いながらも、聖女マリアナは魔法を発動すしている。俺達の足元に現れた巨大な魔方陣は、転移魔法を行使するためのものだが、規模も大きく術式も複雑で見たことがない。
「これって、転移魔法か?」
「ふんっ、余が教えてやった術式じゃ。大したことないわ」
「あら、アレンジして手を加えたのは私よ。耄碌して忘れたかしら」
俺達のレベルを遥かに凌駕する魔法には、抵抗しても対処出来ないだろうし、ザキーサが受け入れているならば問題はない。されるがままに、俺達は転移魔法によって迷いの森の中へと連れてゆかれる。
景色が一瞬にして変わり、明るかった森とは打って変わって暗い森になる。見たこともない木々には薄っすらと人の顔が見え、枝葉は手足のように動き、転移した俺達の周りを取り囲む。
「心配しふぁくてふぃい。ふぉレント達ふぁ結界をふぁっているふぁけ」
迷いの森の中に引き籠もったはいいが、聖女マリアナは食に飢えていた。限られた物しかない迷いの森の中で、同じものを繰り返し食する禁欲を強いられる生活。
それでも、全く目に触れなければ我慢出来ていたが、突然森の中に漂い出した誘惑の香り。ブランシュ直伝のサンドイッチが、マリアナの理性を完全に破壊させ暴走させてしまった。
「マリアナさん、少し炙ると美味しくなるわよ」
口に詰め込んだサンドイッチが無くなると、マリアナはまじまじとブランシュを見つめる。
「さんは付けるな。マリアナで良い」
そして、魔法で軽くサンドイッチを炙ると、再びサンドイッチをがっつく。ザキーサとも急速に距離を縮めたブランシュは、聖女マリアナとも距離を詰めている。
マリアナは時折サンドイッチの具材の質問を投げ掛け、それに的確に答えるブランシュ。姉妹のようにも見え、ピクニックを楽しんでいるだけの時間が過ぎてゆく。
用意してあったサンドイッチは、全てザキーサとマリアナによって食べ尽くされ、呆気にとられて見ているだけの俺達と、作り手として自慢気なローゼ。
「さて、満足したなら本題じゃ」
「その前に一ついいかしら。ここには誰も入って来られないし、誰かに見られることもない。姿を隠す必要はないのだから、イチャイチャとくっつく必要はないわよ」
食欲が満たされたマリアナは、聖女らしい気品のある姿に変わり、好戦的だった姿は想像出来ない。だが、それが取り繕った姿であることは、今さら誤魔化せはしない。
転移した瞬間にバスケットごとサンドイッチを強奪し、サンドイッチにがっつく聖女には、今さら説得力も威厳の欠片もないが、ザキーサと同じで触れてはいけない禁忌。
「分かってるわ。私を迎えに来たのでしょ、早く行きましょう」
「えっ、何でそうなるんだ?」
ダンジョンに聖女がいれば、やれる事は多くなる。人々に天啓を与えることで、ダンジョンに都合よく誘導することも出来る。だが、それは話し合いの出来る聖女である必要がある。しかし、聖女マリアナは俺の想定を遥か上を行っている。
「ザキーサがダンジョンに居るなら、私にも居住権があるはずよ」
「熾天使のブランシュ……」
聖女マリアナが、まじまじとブランシュを見つめる。その眼差しは強く、少し嘘や疚しい気持ちがあれば見抜いてしまう。第6ダンジョンのように、熾天使達によって仕立て上げられた都合の良い聖女達とは違い、本当の資質と能力を持った正真正銘の聖女。
ザキーサに対抗するだけの力と迫力は、周りの空気を緊迫させ、呼吸することさえも忘れさせる。
「初めまして。熾天使代理のブランシュよ。ザキちゃんのお友達かしら?」
しかし、ブランシュは初めてザキーサに会った時と同じで、マリアナに対しても全く物怖じしていない。
「ふふっ、ザキちゃん呼ばわりするのね。面白い、気に入ったわ」
そして、マリアナは聖女らしからぬ大笑いを始めると緊迫感が和らぐ。それに対して、ザキーサの機嫌は急に悪くなる。
「何がおかしい、性悪の引きこもり聖女」
「腐っても古代竜よ。ちゃん付けして呼ぶとは、中々の良いセンスをしているわね。確かに、魔力の質はサージとは少し違う。でも全くの他人とは思えないわ」
そして笑いながらも、聖女マリアナは魔法を発動すしている。俺達の足元に現れた巨大な魔方陣は、転移魔法を行使するためのものだが、規模も大きく術式も複雑で見たことがない。
「これって、転移魔法か?」
「ふんっ、余が教えてやった術式じゃ。大したことないわ」
「あら、アレンジして手を加えたのは私よ。耄碌して忘れたかしら」
俺達のレベルを遥かに凌駕する魔法には、抵抗しても対処出来ないだろうし、ザキーサが受け入れているならば問題はない。されるがままに、俺達は転移魔法によって迷いの森の中へと連れてゆかれる。
景色が一瞬にして変わり、明るかった森とは打って変わって暗い森になる。見たこともない木々には薄っすらと人の顔が見え、枝葉は手足のように動き、転移した俺達の周りを取り囲む。
「心配しふぁくてふぃい。ふぉレント達ふぁ結界をふぁっているふぁけ」
迷いの森の中に引き籠もったはいいが、聖女マリアナは食に飢えていた。限られた物しかない迷いの森の中で、同じものを繰り返し食する禁欲を強いられる生活。
それでも、全く目に触れなければ我慢出来ていたが、突然森の中に漂い出した誘惑の香り。ブランシュ直伝のサンドイッチが、マリアナの理性を完全に破壊させ暴走させてしまった。
「マリアナさん、少し炙ると美味しくなるわよ」
口に詰め込んだサンドイッチが無くなると、マリアナはまじまじとブランシュを見つめる。
「さんは付けるな。マリアナで良い」
そして、魔法で軽くサンドイッチを炙ると、再びサンドイッチをがっつく。ザキーサとも急速に距離を縮めたブランシュは、聖女マリアナとも距離を詰めている。
マリアナは時折サンドイッチの具材の質問を投げ掛け、それに的確に答えるブランシュ。姉妹のようにも見え、ピクニックを楽しんでいるだけの時間が過ぎてゆく。
用意してあったサンドイッチは、全てザキーサとマリアナによって食べ尽くされ、呆気にとられて見ているだけの俺達と、作り手として自慢気なローゼ。
「さて、満足したなら本題じゃ」
「その前に一ついいかしら。ここには誰も入って来られないし、誰かに見られることもない。姿を隠す必要はないのだから、イチャイチャとくっつく必要はないわよ」
食欲が満たされたマリアナは、聖女らしい気品のある姿に変わり、好戦的だった姿は想像出来ない。だが、それが取り繕った姿であることは、今さら誤魔化せはしない。
転移した瞬間にバスケットごとサンドイッチを強奪し、サンドイッチにがっつく聖女には、今さら説得力も威厳の欠片もないが、ザキーサと同じで触れてはいけない禁忌。
「分かってるわ。私を迎えに来たのでしょ、早く行きましょう」
「えっ、何でそうなるんだ?」
ダンジョンに聖女がいれば、やれる事は多くなる。人々に天啓を与えることで、ダンジョンに都合よく誘導することも出来る。だが、それは話し合いの出来る聖女である必要がある。しかし、聖女マリアナは俺の想定を遥か上を行っている。
「ザキーサがダンジョンに居るなら、私にも居住権があるはずよ」
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