精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
47 / 329
オオザの崖のゴブリン

47.ゴブリンキング戦②

しおりを挟む
ムーアがアイテムルームから取り出した、御神酒をゴブリンキングに向かって投げる。

御神酒の入ったビンは、ゴブリンキングに届く前に地面に落ち、中の御神酒が溢れ出す。

『酔眼朦朧』

酒の臭いが更に強くなり、ゴブリンキングの周りに充満する。ムーアの魔力だけではなく、御神酒を投げ込み更に強化する。

『あなたが酔うがどうかは知らないけど、臭いは強く感じるはずよ。神々も愛するお酒の香りはどうかしら?誰がどこに居るか分かるかしら?』

ゴブリンキングが杖を掲げ、ウィンドトルネードを放つ。

その先には石柱があり、石柱を粉々に打ち砕く。

「ギョエエエエーーーッ」

と奇声を上げて、辺りを探るが何も分からない。
ムーアは足元に次々と御神酒を撒き、更に酒の臭いを強くする。香りの濃度を濃くしたり薄くしたり、何処に誰が居るかを掴ませない。

「ギョエエエエーーーッ」

またしても奇声を発し、杖を掲げ手当たり次第にウィンドカッターを放ってくる。

酔眼朦朧を操るムーアをマジックシールドで守りながら、話しかける。

「こちらの居場所は分からなくても、倒し方が分からないぞ」

『それなら大丈夫よ、あなたの攻撃なら通用するはず』

「どうして分かる?」

『さっき放ったバーレッジがあるでしょ。今までは全く躱すことの無かった攻撃を、唯一あなたのバーレッジだけは振り払ったわ。あなたの攻撃なら通用するはずよ!』

「バーレッジは簡単に振り払われたけどな、大丈夫なのか?」

『マジックソードがあるでしょ!魔石を直接狙えば大丈夫よ!』

「この乱れ打ちの嵐の中を、近付ければな」

『1度だけ、チャンスをつくるわ』

更に集中力を高め、魔力を込める。

『酔眼朦朧』

重ね掛けし、更に立ち込める酒の濃度を上げる。

「もう1度魔石を狙うわ!」

ルークとカンテがサンダーボルトを放つ。前回とは違う。サンダーボルトが当たった瞬間、ゴブリンキングの身体が一瞬で発火する。

「ギョエエエエーーーッ」

ゴブリンキングの叫び声が響き、ウィンドカッターの嵐が止まる。

『時間が無いわよ、長くは持たないわ』

俺は走り出すと同時に、マジックシールドの1枚をマジックソードに変化させる。

メーンのサンダービームが俺を追い越す。ゴブリンキングの胸の炎を吹き飛ばし、胸を貫き、魔石が露になる。

ゴブリンキングの胸の穴が塞がるまでに、届かなければチャンスは無くなる。全力で走るが、地面が砂地の為に上手く力が伝わらず、思ったスピードが出ない。
地面にマジックシールドを突き立て、踏み台にする。

全力疾走からの跳躍。一直線にゴブリンキングの魔石を狙う。

跳躍した瞬間、一瞬だけゴブリンキングの顔の炎が揺らめく。微かに出来た隙間は、俺を認識するに十分な隙間。
俺を撃ち落とすだけの魔法で十分。それで勝負が決まる!
ゴブリンキングの杖に魔力が集まる。

「届けーっ!」

俺の咆哮も虚しく跳躍は失速する。少し手前で地面に足が付く。
再度力を込めるが、すでにウィンドカッターは放たれている。

ゴブリンキングに一直線に飛び込む俺に対して、真っ直ぐに迎え打つウィンドカッター。

回避は出来ない。全力で進むしかないが、ダメだと覚悟した瞬間、身体が軽やかに動く。砂地の地面を無視して、羽が生えたかのように軽やかに身体が加速する。

ウィンドカッターが俺の居なくなった空間を虚しく通り過ぎる。

ゴブリンキングの魔石に向かって、マジックソードを突き出すと、パリンという軽い感触がして魔石が砕け散る。

俺の腕はマジックソードごとゴブリンキングの身体を突き抜け、ボロボロになったマントに当たって止まる。

直ぐにゴブリンキングの身体の消滅が始まる中で、キラキラと深紅の粉が俺に降りかかり、そして俺の身体に付くと消えて無くなる。

「ウオオオォォォーーーッ」

今度は後ろから咆哮がする。石柱の真ん中の現れていた影が、はっきりとした姿に変わる。
しかし、動きがおかしい。盾を持った左手、右脚の肉が溶けるように落ちていく。
右手に持った長剣を一振すると、閃光が走り石柱が真っ二つになる。身体のバランスが崩れている為に、まともに狙いを定める事が出来ない。
片膝をつき、持つことが出来なくなった盾が地面に落ちる。

「古の滅びた記憶は、必ずや返してもらう!」

そう言うと、踵を返し長剣を支えとして、暗闇に向かって走り出す。
俺たちは、追うことが出来ない。今はまだ近付いてはいけない!そんな予感がして、ただ後ろ姿を見送る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

現世に侵略してきた異世界人を撃退して、世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。

佐久間 譲司
ファンタジー
突如として人類世界に侵略を始めた異世界人達。圧倒的な戦闘能力を誇り、人類を圧倒していく。 人類の命運が尽きようとしていた時、異世界側は、ある一つの提案を行う。それは、お互いの世界から代表五名を選出しての、決闘だった。彼らには、鉄の掟があり、雌雄を決するものは、決闘で決めるのだという。もしも、人類側が勝てば、降伏すると約束を行った。 すでに追い詰められていた人類は、否応がなしに決闘を受け入れた。そして、決闘が始まり、人類は一方的に虐殺されていった。 『瀉血』の能力を持つ篠崎直斗は、変装を行い、その決闘場に乱入する。『瀉血』の力を使い、それまでとは逆に、異世界側を圧倒し、勝利をする。 勝利後、直斗は、正体が発覚することなく、その場を離れることに成功した。 異世界側は、公約通り、人類の軍門に下った。 やがて、人類を勝利に導いた直斗は、人類側、異世界側両方からその身を狙われるようになる。人類側からは、異世界の脅威に対する対抗策として、異世界側からは、復讐と力の秘密のために。

処理中です...