精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
61 / 329
タカオの街のドワーフ

61.大部屋の戦い

しおりを挟む
「ハンソ、出番だぞ」

久しぶりにハンソを召喚する。本当は召喚したままの方が良いが、クオンこ影の中はダークを除いて女の子が多いので少し気を遣う。

「エトッ」

自信無さげに現れるハンソ。爪は無いように見えるが、左手の人差し指の爪先当たりを、摘まんだり引っ張ったりしている。

「ハンソ、聞いてたか?」

「エトッ、エトッ」

俺はソースイの方を見ると、首を横に振るソースイ。

「そうか今からコボルトが大量に居る大部屋に入る、部屋の前に障害物になる岩を出してくれ」

「ントッ、ントッ、ントッ」

再びソースイが首を横に振る。

「ソースイ、後は頼んだ」


大部屋の入口に岩を並べて、簡易的な壁を作る。もし対応出来ない数のコボルトが出てくる場合は、一旦小部屋まで待避する。コボルトが小部屋へ侵入する数を抑えたり、遅らせる目的もある。

小部屋と同様で、部屋の中央まで進むとコボルトは動き出すのか?それとも一定距離を進んだら動き出すのか?

「中央の精霊を助ければ、コボルトも消滅するなら簡単だよな」

『全方位から囲まれるじゃない。手当たり次第の、そんな趣味だったかしら?』

「そんな趣味はないぞ。それに理屈っぽくて細かい性格なんだろ。それなら右端から攻めるよ」


大部屋の中に入って、全貌が見えてくる。部屋は大きなドーム型。8本の大きな柱が天井を支えている。しっかりしているとは断言出来ないが、崩落したような箇所は見られない。

「コボルトが大量に居るけど、ここは廃坑の最奥ではないのか!」

『そうね廃坑後に、手が加わった感じね。ここが最奥のラスボスでは無いってことでしょ!』

「それはラッキーだったな。ラスボスじゃ無い相手では負けれない!」

『気合いが入ったなら、後でもっと褒めなさいよ!』


小部屋と同じ。ダークがコボルトの動きを先に察知して走り出す。

「ウォオオオッ」

最初のコボルトの唸り声が、隣のコボルト、そのまた隣のコボルトへと連鎖していく。

「ルーク、ダーク、先へ進め。残りは任せろ!」

ウィプス達は、まだ唸り声の上がらないコボルトへと向かって最短距離で飛ぶ。ダークは壁沿いを進むが、移動速度が落ちないようにある程度は無視して先へと進む。

ダークが残したコボルトは、ソースイとムーアが倒し、俺は明かり役。それでも見えないコボルトは、ブロッサが教えてくれる。

移動速度の遅いハンソは遊兵になってしまう為に召喚解除。タイミング良く、コボルトの中に突っ込ませないと活躍の場所は無いだろう。

ちょっと存在が薄くなってぶう垂れるベルは、しっかり者に変わってきた。見えない位置はクオンと話をして、離れた場所の会話が途切れる事はない。

可能な限り先回りしたが、コボルトの唸り声の連鎖は止まらない。

“コボルト、全部”

クオンが、部屋の最後のコボルトが動き出した事を告げる。進んだのは部屋の外周の3割程。

「退いて囲まれるなら、先に進もう!ルーク達はダークが追い付くまで待て」

ウィプス達が編隊を組み、コボルト達を足止めする。部屋の左手に居るコボルトは、俺達の後ろを追いかけてくる。

「追いかけて来るのは2割くらいだな。これくらいは俺達が引き受けないと」

ハンソを召喚し、コボルトが来る方向を指差す。

「ハンソ、コボルトが来る。岩を投げ続けろ!」

「ントッ、ントッ、ントッ」

力だけはあるハンソの投擲。何個かはコボルトに直撃する。多少は夜目は効くのだろうが、ハンソの岩が直撃している所を見ると、そこまでは見えていない。そしてハンソの岩を避けても、ムーアやブロッサの攻撃に倒れて数を減らす。全てを避け到達する数は少なく、待ち構えたソースイで十分に倒せる。

明かりは俺の持つ火オニの短剣か、ウィプス達の光のみ。
嗅覚もあるかもしれないが、明かりを持つ者に集まってくる印象で、タカオの街の近くで戦ったコボルトとは掛け離れた戦い方。
脅威度としては、明らかに1ランクは下がる。


ウィプス達とダークの方も一方的な戦いになる。ウィプス達の光に群がろうとするコボルト。それに対して、ダークが闇の中から襲いかかる。

「ミスト」

ダークが呪文を唱えると、身体が霧となり散らばっていく。霧の一部は時には剣となり、時には槍となり、コボルトを消滅させる。
ウィプス達に辿り着かずに消えたコボルトの方が多い。

やっとコボルト達を殲滅し終わる。その時にクオンが告げる。

“何か来る”

分岐点以降、坑道は1本道。向かっているのはこの部屋しかない。

「ソースイ、精霊を助けるぞ。ハンソ、岩を崩して入口を塞げ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

悪魔になったらするべきこと?

ファウスト
ファンタジー
剣と魔法の世界。そこで魔法を教える学校に通う主人公ルナ・フラウステッドは魔法使いに憧れてる女の子。次の進級で実技に行く段階になった彼女だったがどうしてか魔法を上手く使えない落第生となってしまった。そんな時、偶然にも雇われた家庭教師の先生が言う方法に運命を任せたところ・・・。 「悪魔になっちゃった!?」 悪魔に変化!だけでも中身はそのままの彼女の運命やいかに! 彼女を狙う影、彼女の体の行く末、それを見守る保護者たち。 彼女はいったいどうなってしまうのだろうか。 これは悪党から両親と自分の将来を守るために悪魔になった少女がその身の上と体の特殊さから 様々な騒動に巻き込まれるお話である。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...