精霊のジレンマ

タカオの街のドワーフ

62.精霊ミュラー

部屋の中央にある１０m程の山。その頂上には、例の石柱と共に精霊が鎖で繋がれている。
ソースイが山に駆け上がるが、足が砂の中に沈み登れない。ソースイが唖然とした表情を見せる。山崩しとか棒倒しのように、砂を掻き出さないと前に進めないのかと？

「ウィング」

リズとリタの魔力からなる純白の翼。ソースイを持ち上げても、なお力強く山の頂上へと舞い上がる。十分な加速を伴い石柱に近付く。
ソースイが持つ武器も、ゴブリンの時とは違いハンドアックスではない。一撃で石柱を砕き、精霊を解放する。

「ソースイ、離すぞ」

返事を待たずに、ソースイを斜面に放り投げる。少し空中でバランスを崩し、斜面を転がるように落ちていく。後はダークが受け止めてくれるだろう。
崩れ落ちる精霊を受け止めるが、予想以上に重い。俺と変わらない体格で、体重はソースイより重い。何とか身体を抱えて山を降りる。


ハンソの方は入口の前に積み上げていた岩を崩す。精霊を助けるまでは、少しでも時間を稼ぎたい。

“１０体のコボルトと、もう１体、違う何かも居る”

クオンが正確に状況を判断する。坑道内は判断が難しいが、それが分かるくらいに近くまで来ている事になる。

「ブロッサ、坑道にポイズンボム。少しでも足止めしよう」

「分カッタ」

ブロッサが、まだ塞ぎきる前の入口から小部屋に抜ける。坑道の奥に目掛けてポイズンボムを２発放ち、戻ってくる。

「坑道ノ奥ニ明カリ、近イワ！」

急いでハンソが入口を塞ぎ、今度は岩を追加していく。

先頭のコボルトの気配が消え、動いていた集団の動きが止まる。暫く止まっていたが、何体かのコボルトを残して今度は引き返して行く。

『暫くは時間が稼げそうね。逃げ道は無いけどね♪』

どことなく楽し気なムーアに、声を掛ける。

「冷静な分析をありがとう。精霊は大丈夫か」

『消耗はしているけど大丈夫ね。リズやリタ程ではないわ』

力なく横たわる精霊に、ムーアが厳しい口調で言う。

『寝てる暇なんて無いわ。助けてあげたんだから、働きなさいよね！』

俺の知らない所で話が進んでいく。精霊の事は精霊が一番知っているのかもしれない。相手にあった対応があるかもしれない。
だけど俺の事は、誤解を与えないように伝えて欲しい。

「名付けをお願いいたします」

跪き頭を垂れる精霊。それに対して若干ムーアのドヤ顔。色々な契約の種類があるのだろうが、俺にとっては最適な契約ではあるのだろう。

「使役したり、従属させるつもりも無いからな。それに何の精霊で、何が出来るんだ？俺は何も知らないぞ」

「私は金属の精霊。力が落ちている今は、操れる物は少な･･･」

俺と金属の精霊の会話に、ムーアが割って入ってくる。

『先に名付けを済ませて。少しでも早く精霊が回復出来るように。それに精霊が増えればあなたの力が増すはずよ！』

ムーアの雰囲気に圧されて、名付けを行う。

「金属の精霊か。それじゃあ、ミュラーだ」

深く頭を垂れる金属の精霊ミュラー。そして、ブレスレットに吸い込まれるように消えていく。

『暫くは休ませてあげてね。リズやリタ程では無いけど、限界には近い状態ね』

「助ける為の態度か。優しいんだな」

『後がつかえてるわよ。コボルト達も戻ってくるわ』


コボルト達をどこで迎え打つ。戻るか、それともここで迎え打つか？もちろん逃げる選択肢もある。

「ミュラー、休ませてやりたいけど、少しだけ教えてくれ。まだ精霊は居るのか？親玉は分かるか？」

ブレスレットの中のミュラーが答える。

「他にも連れてこられた精霊はいますが、無事かは分かりません。そしてコボルトを使役したり、精霊を連れてきているのはドワーフになります」

「やっぱりドワーフが繋がってるか。そして、まだ精霊が居るなら迎え打つしかないか」

精霊達に仲間意識があるかどうかは分からない。敵対まではいかなくても、相性の悪い精霊達もいるだろう。

「ムーア、精霊が増えれば俺は必ず強くなるのか？」

『精霊が増えれば、あなたの多くの魔力を消費する。言い換えれば、魔力を精霊に移動する訓練を常時している事になるわ。無属性魔法は魔力操作のスキル次第。悪い事ではないでしょ！』

「そうなのか？」

『最近感じてる事だけど、間違いないと思うわよ』

どの精霊達も自信に満ち溢れた顔をしているし、これは皆が感じているみたいだな。

ハンソは違うな･･･