精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
146 / 329
クオカの洞穴の死霊

146.爺の誤算

しおりを挟む
クオカの町の地下に現れた、オオザの崖のゴブリンロード。姿をまだ見ていないが、特徴からして間違いないだろう。

俺達が関与しなければ今頃はヒケンの森に現れ、その力を誇示していたのかもしれない。
俺達がゴブリンロードを止めていればという考えは、思い上がりも甚だしいだろう。
全ての事に対処出来るわけではないし、自分達の実力を過信してはアシスを生き抜いていけない。

ヒケンのゴブリン、タカオのコボルト、フタガのハーピーと同時多発的に襲いかかり、最後の狙いは精霊樹と最初から仕組まれていた可能性が高い。
その全てを罠を事前に阻止し、エルフ族や蟲人族にも異変を察知させたのだから、結果としても悪くはない。その時の実力で出来る最大限の事はしていると自分に言い聞かせてみる。

『また険しい顔をしているわね』

ムーアが眉間にシワを寄せて俺の真似をしてくる。

「そりゃそうなるだろ。少し間違っていたら、俺達がボロボロになっていたんだぞ」

『そうね、ゴブリンロードを止めていれば、エルフ族は大丈夫だったかもしれないと考えてるでしょ。だけどあの時、ゴブリンロードを追いかけなかった判断は正解だったわ。それに今、洞穴に入ると決めたのはエルフ族よ。事前に異変を察知出来て、それ知った上での判断したのだから、私達が口を挟む事は良くないわ』

「それは分かってるつもりだよ」


そして今、爺エルフに案内されて洞穴の中にいる。流石に族長であるコアピタンスは、洞穴の中までは入ってこない。
クオカの町の中は比較的に自由に行動出来ているみたいだが、洞穴に入ることまでは爺エルフが許さなかった。

洞穴の入口までは、爺エルフが俺達を先導したが、ここから先は違うようだ。

「この先は一本道になります」

そう告げると1歩横へと移動して、俺が入口に入れるように道を開ける。俺達が協力者となった事で、爺エルフの口調は丁寧なものに変わったが、扱い自体は変わっていない。
コアピタンスは、あくまでも俺達を協力者として扱い、エルフ族は依頼者の立場をとる。しかし爺エルフは、俺達をいかに利用するかしか考えていない。

洞穴の入口は狭くせいぜい大人が2人並んで歩ける程の幅しかなく、そんな道がしばらく続く。緩やかに道が右へ左へと曲がるので、先を見通すことは出来ない。その為に、リッターを召喚し哨戒を行い、ウィプス達は死霊達との遭遇に備えて臨戦態勢はとっている。

洞穴の中で苦しめられるはずの暗闇だが、全く躊躇う素振りを見せずに暗闇の中でリッターを召喚する。さらに、消費する魔力を気にせずに召喚精霊を維持し続ける俺に、爺エルフは呆れた顔をしている。

しかし呆れた顔をしたいのは俺の方も同じになる。何故か先頭は俺で、その後ろに爺エルフが続き、最後尾にソースイとチェンになるのか?自然と守られるポジションに爺エルフがいる。

洞穴に潜っているエルフ族が見えてきたところで、爺エルフが前に出てくる。洞穴の幅が急に瘤のように広がり、大きな広間となっている。そこにはパッと見でも百人以上のエルフが詰めているだから、中にはもっと多くのエルフが詰めているのだろう。
もちろん洞穴に潜っているエルフ達は、俺達の存在すら知らないし、爺エルフが案内人を努める理由も分かる。

「少しお待ちください」

そう告げると、爺エルフは俺達を広間に入る前で待機させ中へとは入れさせない。エルフ族として見られたくない事はあるのだろうし、異分子である俺達との接触をさせたくないのだろう。

爺エルフは俺達が渡した光の玉を持って、前線のエルフ達へと届けると共に、エルフの中でも指揮官らしき男のところへと向かっている。

光の玉は相変わらずの輝きで弱まることない。光の玉は欲しいが、自分達の事は見せたくない。そんな都合が良すぎる爺エルフの行動にも見える。
それを感じ取ってか、珍しくムーアとガーラはブレスレットの中に戻っている。影の中に入れる事までは、知られたくないのかもしれない。

しかし爺エルフの思いとは反して、エルフ達の反応は大きく、どよめきが起こる。爺エルフがどんなに画策しようとも、現場で起こっている問題は今をどうやって生き残るかでしかない。

魔力を必要としない光。
死霊の力を弱める光。
光の精霊の召喚を助ける光。

感じられる死霊の気配は遠ざかり、これなら橋頭堡として確立し維持が出来ると、絶望が期待に変わる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

悪魔になったらするべきこと?

ファウスト
ファンタジー
剣と魔法の世界。そこで魔法を教える学校に通う主人公ルナ・フラウステッドは魔法使いに憧れてる女の子。次の進級で実技に行く段階になった彼女だったがどうしてか魔法を上手く使えない落第生となってしまった。そんな時、偶然にも雇われた家庭教師の先生が言う方法に運命を任せたところ・・・。 「悪魔になっちゃった!?」 悪魔に変化!だけでも中身はそのままの彼女の運命やいかに! 彼女を狙う影、彼女の体の行く末、それを見守る保護者たち。 彼女はいったいどうなってしまうのだろうか。 これは悪党から両親と自分の将来を守るために悪魔になった少女がその身の上と体の特殊さから 様々な騒動に巻き込まれるお話である。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...