精霊のジレンマ

さんが

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オヤの街のハーフリングとオーク

240.守護者の覚悟

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 キングの体から、魔法が溢れ出す。

 ロードに近付くために進んできた道を、今度は一転して逆走する。黒翼を広げている為に、移動するスピードは速い。そして見えない草の中では、ナルキの蔦が加速を手伝ってくれている。しかし魔法よりも速く移動することは出来ない。それに魔法吸収少スキルで体内に蓄積された魔法の発動は早い。

 それなのに、まだ魔法すら放たれていない。最後のキングの言葉が気になる。“オリジナルに聞け”と“巻き込まれる”とはどういうことなのか?

 少なくても、オリジナルと関わるつもりはない。それに、巻き込まれないように俺を逃がしてくれるつもりなのだろうか?違和感を覚えて少しだけ振り返ると、キングの身体は光に包まれて姿が見えない。

「カショウ、来るぞ。伏せろ!」

 イッショの声が、魔法が迫ってくる事を告げる。背中にマジックシールドを展開して、草むらに飛び込むようにして伏せる。

 そして俺に迫っているのは、キングからの魔法だけではない。草むらに飛び込む瞬間にチラッと見えたのは、キングの魔法に対抗する為に放たれた、仲間達からの魔法。

 それが、俺が伏せている草むらの上で激しく衝突して、地面を抉り土埃を巻き上げる。
 幸いにも土埃が姿を隠してくれたお陰で、イッショの魔力吸収や、ミュラーの盾が俺を守ってくれる。北側のオークよりは蓄積している魔法は少ない。それでも、時間は長く感じる。

 これで助けるつもりなんてないだろ!と愚痴りたくなる。言葉を理解するのならばコピーでもオリジナルでも変わらないと思っていたが、やはり劣化版のスキルで正しく翻訳出来ていないのかと疑ってしまう。

 そして、轟音や衝撃に爆風が少しずつ収まり始める。ここまで来れば、もう新しく魔法が放出されることもないし、ソースイ達や精霊達も少しずつ俺に近付いてくる。

『ブロッサ、大丈夫かしら?姿が見えないわ』

「契約は切れていないのでショ」

『そうね、死んでいれば私達との契約も切れているわね』

「じゃあ、きっとあの山の中ヨ」

『次は、もう少し加減しましょう』

 まだ俺の上には、ぶつかり合って威力は失っているが魔法の残滓や舞い上がった土が降り注いでいるが、ムーアとブロッサの会話が魔法の放出が終わった事を教えてくれる。

 埋もれた土から抜け出す為に、手を真っ直ぐ上に伸ばす。

「『出たわねっ、化物!』」

「ちょっと、待て!勝手にゾンビ扱いするなよ」

『それじゃあ、証拠見せてみなさいよ』

 慌てて、身体中に付いた草や土埃を払い落とす。それでも身体中にこびり付いた汚れは簡単に落ちない。

「ムーア加減するって何の話だ?」

『その反応は、本物のカショウで間違いないわね。良かったわ、生きていて!それよりも、まだ終わっていないわよ』

 魔法を放出させる仮定で色々と問題はあったみたいだが、とりあえずはキングの中に蓄積された魔法はもう無い。そして、キングも電池切れを起こしたように動かなくなっている。
 ここまでは再現通りで、残されているのはトドメの一撃になる。しかし北側のキングとは違い、最初から倒されることを受け入れているようにも見える。

「聞こえてるんだろ。俺はオリジナルに会うつもりはないぞ!」

 しかし、キングの口許に微かに笑みが浮かんだように見えただけで、俺の問いかけには応えてはくれない。ただキングに“無駄だ”と言われたような気がした。

「抗ってみせるさ!」

 そして、光る短剣をオークの腹へと突き刺すようにしてマジックナイフを突き刺す。魔石を破壊することは出来ないので、わざと魔石を掠めるようにして攻撃する。その一撃では、キングを消滅させることは出来ない。
  
 それでも魔石を掠めたことの影響は大きく、もう抵抗することは出来ない。そして、前に崩れることの出来ないキングは後ろへとゆっくり崩れ落ちる。
 殺されると分かっていて、かつ無抵抗な相手を攻撃するのは、魔物であっても複雑な思いがする。知性があるからなのか、それとも何か共有できる感情があるからなのだろうか?

“この覚悟を無視は出来んだろ。悩めるヒト族よ!”

 そして最後の力を振り絞るようにして、キングの感情の声がする。

「面倒な事は嫌いなんだけどな」

 光る短剣を引き抜くと、今度は覚悟を決めた一撃をもう一度腹部へと突き刺す。そこでキングの体の消滅が始まり、その顔には笑みが浮かぶことなく消えてしまう。
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