【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました

志麻友紀

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【20】魔法研究所 その2

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 大結界を破る巨大なオーブの装置の次に案内されたのは、魔力を測る魔道具だった。
 帝国民には十歳で魔力測定をすることが義務づけられていて、どんな辺境の村であっても、毎年、春にこの装置をもって魔道士達が周り、子供達の魔力測定をするのだという。
 将来の優秀な魔道士の卵を見つけるためだ。

 才能のある子供は帝都の幼年魔道学校に集められて教育を受ける。強制ではないが衣食住すべてが保証されて教育が受けられるうえに、将来は帝国お抱えの高給取りの魔道士になれるのだ。ほとんどの親や子供達は断ることはないという。
 これも画期的な制度だとリシェリードは思った。これならば魔道士の家系でなくとも、隠れた魔力を持つ子供を見つけ出すことが出来る。その後の魔道士の教育も国が無償で行うなど素晴らしい。

 「では陛下から」と所長のピムチョキンにうながされて、ヴォルドワンが装置の石版に手をあてる。
 当然反応はない。魔術が通じない身体のヴォルドワンは魔力もまたない。
 これは実に珍しいことで、どんな人間でも多少なりともの魔力はあるものだ。こちらには聞こえないささやき声で研究員達が「やはり皇帝陛下の特殊な体質というのは本当なのか?」「あらゆる攻撃魔術が通じないお身体だと聞いているぞ」「それは同じお名前の初代皇帝陛下もそうだったと」「さすが、あの魔剣に選ばれた唯一の皇帝」とそんな感嘆の声があがっている。

 次にカイの番となった。ヴォルドワンとリシェリードの横で行儀良く説明の声に耳を傾けていて彼だが、ここに着くまでの馬車の中では、明らかにはしゃいでいた。初めは会話もあまりしたことのない父親に緊張していた彼だが、毎朝の朝食だけでなく、ヴォルドワンが早く帰宅した時などは、晩餐も共にして、それなり
に会話するようになっていた。

 その二人の共通の話題が、リシェリードが今日、なにを食べたか? というのが、どうにも解せないのだけど。
 リシェリードとしては、自分が三食抜かずに食べているだけでも十分だと思っているのに、もう少し量を食べろだの、魚や肉を食べたほうがいいと言われるのは、どうかと思う。人間、その身にはいる食べ物の量は決まっていると、ヴォルドワンに言ったら「あなたの場合はその規定量を満たしていない」と言われた。規定量ってなんだ? 

 カイが石版に手を当てると、石版がほんのりと光り数値が出た。それは平凡な子供の数値より少し低いものだった。まあ、普通と言えるだろう。

 最後にリシェリードだった。彼がその白い手を石版にあてる。が、石版はなにも反応しなかった。
 ヴォルドワンのようにまったく魔力がないわけではない。出た数値はカイよりも遥かに低いものだった。
 いわゆる、魔道士としての才などかけらもないと、ただちに断定されるほどの。
 とたん、周囲が再びざわめく。

「あれが伝説の魔法王リシェリードの子孫か?」
「同じ名前だっていうのに、魔術の才能はからっきしってことか?」
「よくもあれでこちらの結界装置のことなどに口出しをしたな」
「もっともらしいことを言っていたが、あの魔力量では従う気にもなれないな」

 ささやき声は当然こちらに聞こえないように抑えられたものだったが、風の精霊によってリシェリードの耳には、ばっちり届いていることを、彼らは知らない。

 所長ピムチョキンもまたしたり顔で「魔道士ではない殿下ならば“ごく普通”の数値ですな。お気になさることはない」と慰めるようなことをあえて口にする。
 が、彼が先の結界装置の思わぬ利用について、リシェリードが“余分”な口出しをしたと。専門外のしかも他国の者が余分なことを言うなという、意趣返しなのはあきらかだ。
 まあ、初めからそれがわかっていたから“ワザ”と低い数字を出してやったのだが。

 しかし、リシェリードのことはともかく、少し聞き逃すことも出来ない、言葉がそこに混じった。

「しかし、カイ殿下もなあ」
「あんな平凡以下の中途半端な数値。あれではヴォルドワン陛下の得がたい体質を受け継がれていないということではないか?」
「まあ、我が国では皇帝の子が皇帝になるわけではない。だから陛下とて凡庸な自分の息子に関心がないのだろう?」

 ヴォルドワンとリシェリードの間に立つカイがうつむく。自分の様にはっきりと人々の言葉が聞こえるわけではないが、カイも人々が自分に対してよくないことを言っているのを感じ取っているのだ。
 さて、当初はリシェリード一人だけで“いたずら”をする予定だったが、カイにも手伝ってもらわねばならないと、作戦を変更する。

「カイ殿下、貴重な研究成果を見せて下さった“噂好き”の魔道士の皆様方に、お教えした我が魔法王国ラルランドに伝わる、おまじないを披露しましょう。
 悪気のないおしゃべりさんには、どんな“おしおき”をするんでしたっけ?」

 それだけでカイには通じた。帝宮においても冷遇されてきたカイを馬鹿にする女官達は、口さがない噂に花を咲かせていた。やはり今のように俯いていたカイに、リシェリードはちょっとした仕返しを教えたのだ。
 ご婦人に暴力を振るうのはよくないけれど、まあ、この程度の恥ずかしい思いならば、微笑ましいイタズラだと。
 「うん」とカイはうなずき「シルフィードよ、そよ風で意地悪な口をふさげ!」と命じる。

「うわっ!」
「な、なんだ!?」

 カイに対して、ぼそぼそ話していた魔道士三人のローブの裾が突然の突風にめくれ上がる。風の精霊の仕業だ。
 王宮の女官達ならばドレスの裾がめくれて、膝から下の足が露わになる程度だ。それでも帝宮に仕える婦人としてはくるぶし以上の足を見せるなど、裸を見せるのと同然に恥ずかしいことだ。

 しかし、今回の相手は魔道士だ。だから、カイとしては女官達のようにローブの裾をせいぜいめくり上げる程度のつもりだっただろうが、リシェリードはもっと派手にやれと風の精霊達にささやいていた。

 実際、カイだけでなく、リシェリードへの批判の言葉をささやいていた、魔道士達の長衣の裾は揺れるどころではない。尻のあたりまでめくれ上がることになった。
 魔道士達の正装は裾をずるずる引きずるようなローブ姿だ。その下に下履きを履いている者もいたが、見えない気安さか、下着をまったく身につけていない者もいた。

 リシェリードは思わず顔をしかめて「シルフィード、醜いものは縛って隠していい!」と思わず言った。とたん丸出しとなっていた魔道士達のローブの裾はぴたりと降りて、今度はその裾がぐるりとすぼまり、文字通りに縛られて、彼らは足を取られてスッ転んで立ち上がることも出来ずもがいている。

 下履きを履いていた者達は、逆にローブの裾が上に持ち上がったまま頭の上まですっぽり包みこまれるようになり、これはこれで突っ立ったまま動けずにいるのだから、履いていたのがよかったのか悪かったのか。いや、醜いものを晒さなくて済んだのだからよかったのだろう。

「わ、わっ! なんだ! 火が!」

 ピムチョキンの声がそこに重なる。なんと彼のローブの裾でなく、尻に火がついている。「サラマンダー、やりすぎだぞ」とリシェリードはあきれ。

「ウンディーネ、消してあげなさい」

 そう言うと、見えない空中に水の玉が現れて、ザバンとピムチョキンの頭の上ではじける。全身ずぶ濡れとなった彼は、寂しい頭髪がさらに寂しく哀れな様子になっていた。
 お尻の火を消すだけなのだから、これもやりすぎなのだが、当然、リシェリードはわかってやっている。

「あらあら、衣がびしょ濡れになってしまいましたね、シルフィード」

 そのひと言でピムチョキンは小さなつむじ風にまかれて、くるくると……服は乾いたが目を回してへたり込む。頭髪も乾いたが、くしゃくしゃに乱れて、まばらな草原に見えるのは仕方ない。
 ローブの尻には無残な焼け焦げと穴が。これも「ドワーフの緑のお手々!」とリシェリードがひと言いうと見事に修復された。

 「い、今のは?」といまだ目を回したままのピムチョキンの代わりに、要らぬ陰口を叩かなかったために、今の騒動に巻き込まれずに無事だった魔道士の一人が、リシェリードにおずおずと訊ねる。

「これが、我が始祖にして、魔法王と呼ばれる私と同じ名前のリシェリード直伝の、精霊魔法です」

 そう告げれば魔道士達はざわざわと「今のが伝説の精霊使いか?」「カイ殿下もお使いになっていたぞ」「では、殿下も……」というささやきの中、リシェリードは「カイ殿下」とその小さな手を取り、もう一度計測器の石版にその手を載せる。

「今度は“解放”してこの石版に力を注ぎましょう」

 実は精霊使いは魔力の放出をその身に抑えることが出来る。これも精霊の息吹が、その身を包んでいるせいだが。
 カイはまだそれを自在に操ることは出来ないがリシェリードが肩に手を置いて後押ししてやれば、石版に彼の魔力が注ぎこまれて、まばゆく光る。その数値の高さにどよめきが起こる。

「では次は私の番」

 リシェリードが石版に手をやれば、カイ以上にまばゆく発光し、そして、ドカンと音がして機器は煙をあげた。
「計測の限界を越えた魔力に耐えきれず壊れたようです」
 計測の係の魔道士がぽつりとつぶやく。今度はざわめきどころか、場がしーんとしずまった。そのなかでリシェリードが一人だけ「どうしよう」と明るい声をあげて。

「お高い機械を壊してしまいました、陛下」
「……それは俺が弁償するから安心しなさい」

 ヴォルドワンを見れば、口の端がひくひくとひくついて完全に笑いをこらえている。リシェリードがわざと派手なイタズラをやらかしたことをわかっていて当然だが。「よかった」とリシェリードは微笑んだ。





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