異世界へはロイヤルカーペットにのって

志麻友紀

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【30】めくってもめくってもヴェール

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 毒入りボンボンを食べろ食べろと勧められているリョウだが、それより気になることがあつた。

「たしか、アイーシャ様でしたわね」

 手にはシロちゃんがいつのまにか現れて、すっぽりとはまっていた。ピンクのお口をぱくぱく動かして、リョウの心の声を代弁してくれる。

「ええ、砂嵐の討伐からご帰還なされた、最上階の竜のテラスでも、それから先日、開かれた宴でもお会いしてはずですけど」

 アイーシャはいささか不機嫌そうに、その細く形よく整え描かれた眉をしかめた。自分の名前を覚えていないなんて……と思っているのだろう。自己顕示欲の塊みたいな、父親同様のそのキンキラの姿からしてわかるが。
「あなたは今、わたくしのことを事実上の王妃とおっしゃいましたが、わたくしは神から使わされた、ただ役目を果たすためだけにこの世界にやって来た者。役目を果たせば帰るつもりです」
 いや、本当にシャルムダーンの嫁になるつもりはないんだけど……とリョウは胸の内でぼやく。
 アイーシャみたいな女性を妻にしたくはないシャルムダーンの気持ちは分かるけど、なにも男を選ぶことはないではないか。
 しかも、自分だって自覚ある、いまいち冴えない男をだ。

「そんなことをおっしゃっても、王があなたを大切にされているのは誰の目にも明らか」
「それはわたくしが王を助ける救世主だからです」
「ええ、ええ、ただの救世主様だったならば、この王宮には客間がございますのよ。なのにシャルムダーン様が、あなたをご自分のそば近くに、長い間使われて居なかった王妃の部屋を与えられた。それがなによりのあの方のお気持ちの表れですわ」
「王妃の部屋? この部屋が?」

 シロちゃんがぱくぱく口を動かして訊ねる。リョウとしてはシャルムダーンに計られた! という怒りがむくむくわき上がってくる。
 この部屋はそういうことだったのか!?と。

「まあ、ご存じありませんでしたの?」

 アイーシャはわざとらしくも驚き。

「王と王妃の寝室は秘密の通路で繋がっておりますのよ? 夜な夜なシャルムダーン様が、そこにある隠し通路であなたをお尋ねになっていると、わたくしは知っておりますのよ?」

 え? あの壁にある隠し扉って、王の寝室、つまりシャルムダーンの部屋に繋がっていたのか? 
 そんでもって、シャルムダーンは自分の寝台で眠りについたと見せかけて、隠し通路を使ってリョウがぐっすり寝ている、寝台へと忍びこんでいたと。
 これではどこからどう見たって夜這いではないか? 
 いやいや、王が王妃の寝室を訪れるのに夜這いもなにもない。が、シャルムダーンとリョウには今のところ何にも無い。
 毎日一緒のベッドですやすや寝てるだけだ。
 ベッドは大の男二人が寝たって十分な広さで、ぐっすり眠れている。
 というか、目が覚めるとシャルムダーンに腕枕されていたり、そのむきむきなのにふわんと柔らかい胸に頭を乗せていたりするけど。
 あくまでそれだけだ。
 それだけ。
 だけど、一緒の寝台で寝てる事実は変わらない。
 これって古風な言葉だと同衾ってことになるのかな? とどうでもいいことをつらつら考える。
 リョウはヴェールの中で呆然としていた。

「あ……」

 そこにわざとらしくアイーシャが声をあげた。彼女はリョウに詰め寄るように低い卓を挟んで前のめりになっていた。
 それで体勢を崩して、前へと倒れた。普通なら卓に身体をぶつけるところだ。
 ところが、彼女の身体はひらりとその卓を跳び越えたのをリョウはヴェール越し見た。前のめりに倒れながらの、見事な身のこなし。
 これが大勢の人々に傅かれている女性のものなのか? 護身術とか実は習っているとか? まさか。
 ともかく、ころりと卓の上を見事滑るように跳んだ彼女は、リョウの座る吊りソファーの足元へとその身を投げ出した。
 そして伸ばした手で、リョウのヴェールをはぎ取った。
 はずだった……。

「え?」

 アイーシャの間抜けな声が響いた。彼女の手にはたしかにヴェールがあったのだ。
 だが、目の前の救世主、リョウはヴェールを被ったままだ。

「二枚重ねなんてずいぶんと大仰ですわね! よほどお隠しになりたいことがあるのかしら!」

 目つりあげて叫んだアイーシャはもう片方の手を伸ばして、ヴェールを掴んで引いた。
 しかし。
 その下からはまたヴェールの救世主の姿があらわれた。
 ヴェールの外からはその姿は見えないが、しかし、ヴェールを三枚も被っているようには、誰の目にも見えなかった。これにはアイーシャの背後に立っていた侍女達も目を剥いている。

「ええい! どういうこと!?」

 アイーシャは癇癪を起こして叫び、そして、ヴェールに手をかけて次々に、それをはぎ取った。それこそ次々と、薄いヴェールが横に山となるまで。
 さすがに疲れ果ててはあはあと肩で息するアイーシャー。それをリョウの横で無表情で見ていたハキムが告げた。

「救世主様は余人にお姿をお見せにはなりません。それこそが神のご加護ですから」
「っ……! このっ! 召使いの分際で!」

 アイーシャが立ち上がり、ハキムに向かい手を振り上げる。リョウはハッと目を見開いた。





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