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【29】王妃対寵姫対決!?
しおりを挟むある日、シャルムダーンが王都の視察へと出て、ノワルもその共で王宮を開けていた。そこを明らかに狙って“敵”はやってきた。
「お待ちください。今、救世主様にお取り次ぎを……」
リョウ付きの衛兵達の慌てた声が聞こえる。いや、彼らはわざと大きく声をはりあげて、突然の招かれざる客の来訪を知らせたのだ。
小姓のハキムが素早く、吊りソファに腰掛けるリョウの頭に、ヴェールを被せる。
「そのようなもの、不要です。ハレムを預かるこのわたくしが、このお部屋にいらっしゃる方へご挨拶に参っただけなのですから」
ねっとりとしたその声には聞き覚えがあった。隣室にいるというだけで鼻先をかすめる強い麝香の香りにもだ。
先導の侍女の後ろに立つ侍女に挟まれるようにして現れたのは、やはりアイーシャだった。今日も雲のように高々と結い上げた髪には金銀と宝石の髪飾り、顔を隠す役目などまったく果たしていないヴェール越しには、毒々しいぐらいの真っ赤な紅。切れ長のつり上がった目には、派手な紫に金色のアイシャードーがギラギラと光る。
紫に金の刺しゅうのドレスの胸元は相変わらず二つの膨らみを強調するように開き過ぎというか。そこに幾つもの首飾りが輝く。金銀に、ギラギラとした宝石。もろちん、腕輪もじゃらじゃらと、アンクレットもそんなに付けて重くないか? と思うほどだ。
「救世主様におかれてはご機嫌麗しゅう。一度ごゆっくりとお話してみたかったんですの」
彼女は勧められてもいないのに、吊りソファーに腰掛けるヴェールを被った救世主、リョウに相対するように低い卓を挟んだ、反対側の長椅子へと腰を下ろした。先を先導していた侍女と後を付いてきた侍女が彼女の左右に分かれて立つ。
「今日は救世主様に、いえ、王がそれだけでなく【お大切にされている方】に美味しいお菓子を持ってまいりました」
彼女自ら手にしていた小さな銀器を小卓へと置いた。細かい彫金がほどこされた蓋を、赤く染めた爪先の指が取る。
そこには色とりどりの丸い砂糖細工が入っていた。
そこにハキムが銀のトレイに載せたお茶を運んできた。まずリョウの前の卓へとお茶を出し、次にアイーシャへと出した。
客ならば順番が逆ととられるが、リョウは救世主でありこの部屋の主人である。愛妾であるアイーシャより立場は上なのだと、ハキムはそれで示したのだ。
アイーシャはそれにギロリと鋭い視線をハキムに送った。しかし、賢い小姓は平然とした態度で、リョウの横へと控えた。
「とても美味しいお菓子ですのよ、お一つどうぞ」
そう言いながら、アイーシャは赤い爪の手を伸ばして、ボンボンを一つ摘まんで口に入れた。
まるで毒など入っていないと示すように。
とはいえ、その毒を仕掛けた当人ならば、自分が食べるボンボンには毒など入れないだろうが。
「失礼します」
ハキムがそう断り、懐より紙を取り出すと、その上にボンボンを三粒ほど載せる。そして、リョウの被るヴェールの中へと差し入れた。
腰掛けている吊りソファーの横へと置かれた、ヴェールの内のそのボンボンというより、その下に敷かれた紙をリョウは見る。
ボンボンの下からじわりじわりと白い紙に広がっていく、青いシミ。
これは毒が入っているという証だ。
このようなことがあった場合にと、シャルムダーンより教えられていた。自分との食事やハキムが確認したもの以外は口にしてはならないと。
もし、万が一このようなときはハキムがこれで知らせてくれるとも。
まさか、自分が歴史小説の中で見るような、毒殺を仕掛けられるなんて……とリョウは思う。ごくごく普通の役人だった頃なら、こんな悪意には単純に震え上がったことだろう。
だけど、今は落ち着いていた。シャルムダーンはそばにいないけれど、ハキムの気転を心強く思う。
だからこそ、自分も目の前の毒蛇のような女に相対せねば。
「お食べにならないのですか? このアイーシャの差し上げた菓子に毒が入っているとも?」
いや、まさしくその通りなのだが、アイーシャは「酷いですわ」と弱々しくつぶやき。
「この国の希望たる救世主様にして、すでにこのお部屋に入られた、事実上の王妃様に対して、側室たるこのわたくしが、どうしてそのような不忠をいたしましょう。これは疑いをもたれた、わたくしの恥、この身をもって証明いたしますわ」
涙声でしかし、その瞳にはちっとも涙が浮かんでいなかったが、アイーシャはボンボンがはいった銀器に手を伸ばすと、ボンボンを幾つかわしづかみにして、その口に運んだ。
高貴な婦人ならば、一つずつ摘まんで上品に食べるべきそれを、ボリボリとかみ砕いて、茶を飲んで流しこんだ。
「さあ、毒など入っておりませんわ」
アイーシャはにっこりと微笑む。が、リョウの横にあるボンボンがのせられた紙は真っ青に染まっている。
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