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【1】屋根裏の落ちこぼれ その1
しおりを挟む「チィオ! チィオ! 待ってってば!」
草原の演習場を駆け回るほわほわ灰色のペンギンの雛をフェリックスは必死に追いかけていた。顔の半分をおおうような大きな眼鏡はずれているし、タンポポのような黄色の髪にもぶかぶかの赤の制服のローブもにも枯れ草がついている。分厚いレンズごしのやけに大きな黄色の瞳は涙目だ。
そんな一人と一匹の様子を、くすくすと笑って他の“ガイド”の生徒達が見ていた。フェリックスと同じ赤ローブをまとった彼らの横には、白鳥や鹿、狐の形をしたスピリット・アニマル、通称“アニマル”達が寄り添っている。
ぱたぱたと水かきのついた短い足のくせに、やけに逃げ足だけは速い相棒をフェリックスはやっと捕まえて抱きしめた。ふわふわの雛の綿毛をなだめるよう撫でてやる。
「“気持ち悪い”のはわかるけど、少しは我慢してくれよ」
周囲に聞こえない小声でフェリックスは告げる。
今日のパートナーと共感したとたん流れこんできた感情。ドロドロとした野心に虚栄心、人を見下す選民思考。
読心を使うまでもない、あまりにもくっきりととげとげしく攻撃的なそれに、チィオは過敏に反応して走り出してしまったのだ。
もっともチィオはどんなパートナーのアニマルであろうと、気に入らずに威嚇しまくるのだけど。
今日はたしかにとびきり“気持ち悪い”。
「え? あ? ここって……?」
そしてチィオを抱きかかえたフェリックスは回りをきょろきょろと見回して焦った。ここは演習場のど真ん中だ。本来ならガイドは戦うセンチネル達の邪魔にならないように、安全地帯にいなければならない。
「食らえっ! ゲッ! なんでお前がここにいるんだよ!」
怒声に振り返る。そこには今日のパートナーであるスコルが、自分の巨狼の背にまたがっていた。その狼の口から、演習場の中央に浮かぶ一番得点の高い的に炎が吐き出されようとしていた。
周りにはその的を目指して翔ぶ、他のセンチネル達がいるのにも関わらずだ。
これでは確実に巻き込み事故がおこる。
「いけない!」とフェリックスは叫ぶ。
「これじゃ、大勢の怪我人が出る! 今すぐブレスを止めて!」
「うるせぇ! 落ちこぼれガイドは大人しく俺様に従ってりゃいいんだよ!」
初めからスコルはフェリックスのガイドなど、まったく無視して、力づくで演習場の的を次々に破壊していたし、力を制御せずに他のセンチネル達を弾き飛ばしていた。実戦を想定した演習だから多少の乱暴なプレイは大目に見られているけれど、大勢のいるところでブレスを吐くなんて、確実に大事故になる。
「ダメだって! 周りをよく見て!」
「俺に指図するなって言ってるんだ! このノロマ!」
「っ!」
エンパスによって繋がっている彼の精神は、怒り荒れ狂い嵐のようだ。それでも少しは周りを考える理性を取りもどしてほしいと、テレパスによって癒やしの手を伸ばそうとしたが、それは振り払われた。だけでなく触れたとたん、まるで鋭いナイフで切り裂かれたような痛みさえ感じる。
いまにも調整もなにも考えずに吐き出されようとしているブレスと、それを知らずに的に突進している他のセンチネルがフェリックスの視界に映る。
フェリックスはぎゅっと目をつぶり心の中で巨大な盾を思い浮かべる。抱きしめたフェリがぽわりと輝き「ぴぃいいいいいっ!」と甲高く鳴いた。
「え?」
スコルの間抜けな声が口からこぼれた。
今にも巨狼の口から吐かれようとした黒炎がしゅうう……と消える。だけでなく、空中の的に向かって浮かびあがろうとしていた力も消えて、どちゃりと無様に巨狼とスコルの身体が落ちる。
だけでなく、的に一斉にむかっていた他のセンチネルとアニマル達も、次々に落下する。安全地帯のガイド達からは「エンパスが切れた」「誰! シールドを割りませたのは!」という叫びが聞こえた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
演習は中止になった。
フェリックスが暴走させたシールドの力によって、一時的にすべてのセンチネル達のアニマルが力を失ったからだ。
「まったく! だから落ちこぼれのお前と組むなんて、嫌だったんだ!」
スコルが苛立ったように怒鳴る。
「あと少しで中央の的を打ち抜けたんだぞ。役立たずは大人しくしてろって、俺は最初にいったよ
な?」
「でも、あのまま加減もなしにブレスを放ったら、他のセンチネル達を巻き込んで……」
「巻き込まれるほうがマヌケなんだ! 演習には多少の怪我はつきものだ!」
あれは“多少”なんてものではない。いくら癒し専門のガイドの力で、手足の一本ぐらいとんでもすぐにくっつくとはいえ、その恐怖がセンチネルのトラウマになることだってあるのに。
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