5 / 62
【1】屋根裏の落ちこぼれ その3
しおりを挟む「彼だって君のガイドを最後の的の直前までは務めていたんだ。当然、実績はつくよ」
口を開いたのはメディだ。
「それに最後の的は無しというハートリー先生の措置に僕も同意する。ならば、フェリックス君の“暴走”も演習の記録に残すにしても、それは問われないものとする」
二人の講師の宣言に生徒達が不承不承の様子で「はい」と返事をする。演習の得点と実績はつくのだからと。
「じゃあ、俺は本日の演習の最優秀得点者として、今学期のあいつのガイドは、今後拒否します」
スコルが宣言すると、釣られたように「二位の私も拒否します」「三位の俺も」と続けて手をあげる。
センチネルとガイドの組み合わせば、偏らないように講師が相性を見て決める。しかし、得点の優秀者にはガイドを選ぶ権利はないが、拒否権は与えられている。
「わかりました」とうなずき去るハートリーの背にあきらかに聞こえるようにスコルが言った。
「白黒犬のアニマルごときが大きな顔しやがって」
これは明らかにハートリーのアニマルであるダルメシアンに対しての言葉だ。しかし、ハートリーは取り合わず、彼のアニマルも涼しげな顔でその横を行く。
「幻想生物のアニマルだからって、生徒として目にあまるね」
それに憤って代わりに声をあげたのはメディだ。彼の肩にとまった白鳩もくるる……といささが不機嫌な声をあげる。
「“彼”のガイドとしての力も分からず、拒否権発動なんて、センチネルとしての見る目もないよ」
「あの演習場にいたすべてのセンチネルをシールドで囲い込むなんてね。それなのに、彼のアニマルはいまだ“雛”のままです」
これもフェリックスが“落ちこぼれ”といわれている原因だ。十八でこの学園にやってくる生徒のすべてのアニマルは成獣となっているのが普通だ。それが彼のアニマルは、いまだペンギンの雛のまま。
「さて次は“大演習”ですよ」
「やれやれ、今年は“問題児”ぞろいだ。どうなることやら」
「“プリンス”もいまだ固定のガイドが定まっていませんしね」
「いままで、二人体制だったのが、今度、もう一人ガイドをいれて三人にするらしい」
「その話は聞きましたよ。ガイド三人なんて前代未聞だ」
「それだけ彼の“蒼のサラマンダー”の力が強力だっていうことだろうけど」
「こちらもこちらで問題ですね」
「たしかに“プリンセス”が定まらないままなのもね」
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
“タワー”と呼ばれる学園の回りには“シティ”と呼ばれる市街が広がっている。ここで学園の生徒達は生活している。住宅街には貴族やブルジョア階級の生徒達の豪奢なタウンハウスや高級アパルトマンがならび、またごくごく一般的な平民の学生用の寮もある。
フェリックスの下宿はパン屋の三階の屋根裏。|孤児院出身の主人がやっている店で、家賃はタダ。朝食に夕食付きの小さいけれど快適な住まいだ。昼は学園無料の学食のカフェテリアがあるので、食事の心配はまったくいらない。
「ぴぃ……」
「お前のせいじゃないよ」
うなだれるチィオをフェリックスは抱きあげた。医務室に運んだチィオはすぐに元気になった。
「アニマルはセンチネルやガイドの心の現れなんだ。僕が“彼ら”を受け入れられないから」
誰と組んでも“違う”と感じる違和感。彼らの虚栄心や他者を押しのけたいという、“気持ち悪い”感覚だけではないと思う。
十八になって奨学金を受けて学園へとやってきた。壁にかかるぶかぶかのローブは、これから背を伸びることを見越しての孤児院のある村のみんなからの贈り物。大きな眼鏡は目が悪くなったときから使っている村の老村長のお下がりだ。不格好だと他の生徒達に笑われようと、フェリックスにとっては村長さんとの思い出の大切な宝物だ。
屋根裏の小さな窓からは、学園の象徴である尖塔がいくつも見える。中央にそびえるのが学園長のいる学園長室がそのてっぺんにあって、次に高い副塔が副学園長のものだ。
世界に数組しかいない、パーフェクトマッチングのお二人は滅多に姿を現すことはない。センチネルたるキングとガイドたるクイーンのアニマルはとても強力だというけれど。
「“運命”になんて出会えなくていいから、せめてもう少しうまくガイドをしたいな」
「うちの村からガイドなんてエリート様が出るなんて、村一番の大出世だ!」と村のみんなも喜んでいた。奨学金が受けられるとはいえ、制服のローブの仕立てに、ここまでの旅費と、貧しい中でみんなお金を出し合ってくれたのだ。この下宿のパン屋の夫夫のヨハンにハンスにもお世話になりっぱなしだ。
落ち込んでとぼとぼ帰ってきたフェリックスの顔を見て、ハンスは「今日はタルトタタンを作るぞ」といった。彼のタルトタタンはとびきりおいしい。ふちのカラメルの苦みさえも。今夜はその苦さが、失敗のほろ苦さに繋がりそうだけど。
「がんばらなきゃ」
から元気をだしていえば、チィオがこたえるように「ピィ」と鳴いて、フェリックスは笑ったのだった。
114
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
希望したのは、医療班だった。
それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。
「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。
誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。
……けれど、婚約者に裏切られていた。
軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。
そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――
“雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。
「君の料理が、兵の士気を支えていた」
「君を愛している」
まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?
さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる