落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~

志麻友紀

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【1】屋根裏の落ちこぼれ その3

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「彼だって君のガイドを最後の的の直前までは務めていたんだ。当然、実績はつくよ」

 口を開いたのはメディだ。

「それに最後の的は無しというハートリー先生の措置に僕も同意する。ならば、フェリックス君の“暴走”も演習の記録に残すにしても、それは問われないものとする」

 二人の講師の宣言に生徒達が不承不承の様子で「はい」と返事をする。演習の得点と実績はつくのだからと。

「じゃあ、俺は本日の演習の最優秀得点者として、今学期のあいつのガイドは、今後拒否します」

 スコルが宣言すると、釣られたように「二位の私も拒否します」「三位の俺も」と続けて手をあげる。
 センチネルとガイドの組み合わせば、偏らないように講師が相性を見て決める。しかし、得点の優秀者にはガイドを選ぶ権利はないが、拒否権は与えられている。
 「わかりました」とうなずき去るハートリーの背にあきらかに聞こえるようにスコルが言った。

「白黒犬のアニマルごときが大きな顔しやがって」

 これは明らかにハートリーのアニマルであるダルメシアンに対しての言葉だ。しかし、ハートリーは取り合わず、彼のアニマルも涼しげな顔でその横を行く。

「幻想生物のアニマルだからって、生徒として目にあまるね」

 それに憤って代わりに声をあげたのはメディだ。彼の肩にとまった白鳩もくるる……といささが不機嫌な声をあげる。

「“彼”のガイドとしての力も分からず、拒否権発動なんて、センチネルとしての見る目もないよ」
「あの演習場にいたすべてのセンチネルをシールドで囲い込むなんてね。それなのに、彼のアニマルはいまだ“雛”のままです」

 これもフェリックスが“落ちこぼれ”といわれている原因だ。十八でこの学園にやってくる生徒のすべてのアニマルは成獣となっているのが普通だ。それが彼のアニマルは、いまだペンギンの雛のまま。

「さて次は“大演習”ですよ」
「やれやれ、今年は“問題児”ぞろいだ。どうなることやら」
「“プリンス”もいまだ固定のガイドが定まっていませんしね」
「いままで、二人体制だったのが、今度、もう一人ガイドをいれて三人にするらしい」
「その話は聞きましたよ。ガイド三人なんて前代未聞だ」
「それだけ彼の“蒼のサラマンダー”の力が強力だっていうことだろうけど」
「こちらもこちらで問題ですね」
「たしかに“プリンセス”が定まらないままなのもね」



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 “タワー”と呼ばれる学園の回りには“シティ”と呼ばれる市街が広がっている。ここで学園の生徒達は生活している。住宅街には貴族やブルジョア階級の生徒達の豪奢なタウンハウスや高級アパルトマンがならび、またごくごく一般的な平民の学生用の寮もある。
 フェリックスの下宿はパン屋の三階の屋根裏。|孤児院出身の主人がやっている店で、家賃はタダ。朝食に夕食付きの小さいけれど快適な住まいだ。昼は学園無料の学食のカフェテリアがあるので、食事の心配はまったくいらない。

「ぴぃ……」
「お前のせいじゃないよ」

 うなだれるチィオをフェリックスは抱きあげた。医務室に運んだチィオはすぐに元気になった。

「アニマルはセンチネルやガイドの心の現れなんだ。僕が“彼ら”を受け入れられないから」

 誰と組んでも“違う”と感じる違和感。彼らの虚栄心や他者を押しのけたいという、“気持ち悪い”感覚だけではないと思う。
 十八になって奨学金を受けて学園へとやってきた。壁にかかるぶかぶかのローブは、これから背を伸びることを見越しての孤児院のある村のみんなからの贈り物。大きな眼鏡は目が悪くなったときから使っている村の老村長のお下がりだ。不格好だと他の生徒達に笑われようと、フェリックスにとっては村長さんとの思い出の大切な宝物だ。
 屋根裏の小さな窓からは、学園の象徴である尖塔がいくつも見える。中央にそびえるのが学園長キングのいる学園長室がそのてっぺんにあって、次に高い副塔が副学園長クイーンのものだ。
 世界に数組しかいない、パーフェクトマッチングのお二人は滅多に姿を現すことはない。センチネルたるキングとガイドたるクイーンのアニマルはとても強力だというけれど。

「“運命”になんて出会えなくていいから、せめてもう少しうまくガイドをしたいな」

 「うちの村からガイドなんてエリート様が出るなんて、村一番の大出世だ!」と村のみんなも喜んでいた。奨学金が受けられるとはいえ、制服のローブの仕立てに、ここまでの旅費と、貧しい中でみんなお金を出し合ってくれたのだ。この下宿のパン屋の夫夫のヨハンにハンスにもお世話になりっぱなしだ。
 落ち込んでとぼとぼ帰ってきたフェリックスの顔を見て、ハンスは「今日はタルトタタンを作るぞ」といった。彼のタルトタタンはとびきりおいしい。ふちのカラメルの苦みさえも。今夜はその苦さが、失敗のほろ苦さに繋がりそうだけど。

「がんばらなきゃ」

 から元気をだしていえば、チィオがこたえるように「ピィ」と鳴いて、フェリックスは笑ったのだった。




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