落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~

志麻友紀

文字の大きさ
6 / 62

【2】蒼のプリンス その1

しおりを挟む




 今日は“大演習”の日だ。
 魔獣を投入しての実戦。

 初めての大演習場にドキドキしながら足をふみいれたフェリックスは、腕からぴょんと飛び出したチィオに「あ!」と声をあげる。
 パタパタと短い足を動かして駆けていくチィオを「待って!」と追いかける。
 チィオの駆けていった先をみて、フェリックは思わず息を飲んだ。
 それはサフィアの美しい鱗に覆われた大きな犬ほどのトカゲ……いやサラマンダーだ。頭には二本の角。背中には小さなコウモリのような翼。
 あろうことかチィオはそのサラマンダーに向かって、くわっとくちばしを開けて威嚇して、ぺしぺし短いフリッパーでサラマンダーの前脚ひっぱたいた。サラマンダーは痛くもなんともないのか涼しい顔をしているが、威嚇しているチィオの顔面に自分の鼻面を近づけて。

 ちょん……。

 とそのデコを押した。それだけで雛のチィオの丸い身体は、ころりと地面に転がった。ひっくり返ったチィオは起きあがれずに短い手足をパタパタさせていたが、サラマンダーが今度はチィオの首根っこをくわえ、ぷらんととぶら下げてそっと地面に降ろして立たしてやる。
 転ばせておいて起きあがらせる。親切なのか不親切なのかわからない。
 一瞬呆然としたフェリックスだったが、ますますくちばしをくわりとあけて「ピィィィイィ!」と激怒しまくってるチィオを「ダメだって!」とあわてて抱きあげた。

「いきなり駆け出して、他のアニマルにケンカ売るなんてなに考えているの?」
「ロンユン、どこへ行ったと思ったが、お前が幼生をからかうなどらしくないぞ」

 チィオを叱る自分の声と、頭の上から降ってくる低い声が重なってフェリックスは顔をあげて、その黄色の瞳を見開いた。
 これほど綺麗な人がいるのかと思った。その人は自分より頭一つ背が高くて、肩幅も広いし手も足も長い。着ているのはこの学園の生徒でセンチネルであることを現す紺色のもの。ガイドは赤のローブだけど、センチネルの制服は詰め襟に左肩だけに翻るショートマントがカッコいいと評判だ。
 プラチナの光沢の長髪に、サファイアの蒼の切れ長の目。長いまつげも輝いている……なんて綺麗な人……と、フェリックスは見とれた。秀でた額に通った鼻筋、薄過ぎることも厚すぎることもない、きりりと引き結ばれた唇。その顔は完璧すぎて、美術館の見学でみた美神の彫像めいて見えた。

「うちのロンユンが、君のアニマルに失礼をしたようだ、すまない」
「いいえ、僕のチィオこそ失礼しました」
「チィオというのか、その幼生は。よい名前だ」

 彼がふわりと微笑む。一見すると整いすきていて冷たい印象さえ受ける人なのに、こうやって笑うと優しくみえてドキリとする。
 彼は「演習の準備がある、失礼」と蒼いサラマンダーを連れて、その場を立ち去った。
 おもわずぼんやりとその長身の後ろ姿が消えるのを見送る。

「プリンスとちょっと、言葉を交わしたぐらいで調子に乗らないほうがいいよ」

 いきなりかけられた声。振り返ると、立派なとさかのピンクのオウムを肩に乗せた、ピンクの髪の少年が、腕組みしてこちらをにらみつけていた。フェリックスと同じ赤いローブのガイドだ。

「プリンス?」
「知らないの? また馬鹿なガイドが、彼の専任ボンドの座を狙って近づいてきたのかと思った。
 だいたい、ウォーダンの顔を知らないなんて、お前、本当にこの学園の生徒?」

 「あ~あ、こんな無知に声かけるだけ、時間の無駄だった」と、それだけツンツン言い捨てて、ピンク頭の少年は去って行った。
 ボンドというのはセンチネルとガイドの専任契約のことだ。普通、センチネルもガイドも特定のパートナーを作ることはない。もちろん気の合う合わないはあるけれど、ボンドというのは夫夫の結婚の契約に匹敵するぐらい特別な繋がりだ。
 それこそマッチ率が安定して八割を越えていないと、ボンド契約はギルドから公認されないぐらいだ。
 学園に入学したばかりで、すでに落ちこぼれかけてるフェリックスからすれば、ボンドどころか自分と組んでくれるセンチネルがいるかどうか? という話なのだが、それより。

────ウォーダンって、え? あのウォーダン! 

 そもそも、蒼のサラマンダーの時点で気付くべきだった。珍しい幻想生物のサラマンダーのアニマルを持つだけで特別だ。その上に赤のサラマンダーよりもさらに強力な蒼のサラマンダーなんて一人しかいない。
 生徒会長プリンスウォーダンなんて、たしかに知ってるけど、入学式の挨拶で一度見たきりだし。
 それも、学園のすべての生徒達が通う巨大な講堂で、壇上に立つ姿を一番後ろの席から見ていた。髪の色はともかく、顔立ちだってなんとなく美形なのかな? ぐらいしか分からなかった。




しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

親友と一緒に異世界転生したら俺だけ神獣だった件 ~伝説の召喚術師になったあいつの溺愛が物理的に重すぎます~

たら昆布
BL
親友と異世界転生したら召喚獣になっていた話 一部完結

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

処理中です...