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【15】白か黒か その1
しおりを挟む大演習が始まった。
今回は地下のダンジョンではなく、雲を貫くようならせんの塔だった。
一番最初に飛び出したのはやはりスコルだった。“やっぱり”最短ルートがわかっているかのように塔のダンジョンを移動し、瞬殺で妨害の魔獣を撃破する強さを示し、外壁を回って次の階へと。
二位で追いかけるウォーダンとはみるみる、五層以上の差がついていく。これにはガイドの待機所がざわめいた。このままではプリンスが敗北するんじゃないか? と。
「だ、大丈夫なの?」とマルディーヌが声をあげ、ピエリックが「フェリックスの集中を乱してはいけない」と注意する。ロワイが「彼は落ち着いてガイディングしているよ。信じるんだ」とフェリックスを見る。
たしかにフェリックスは「やった! 三十階! 次はラストフロア!」なんてネラの声にも、まったく表情を変えることなく、繋がったウォーダンにのみ集中していた。同調によって感覚を共有し、読心によってセンチネルが受ける、強すぎる刺激を和らげケアし、ときにシールドをもって余分な情報と判断したものを遮断する。
フェリックスにとって順位など関係なかった。ただウォーダンが十全に能力を発揮できるかということに、集中していた。
「エンパス率も百ではないけど、九十以上の青を維持している。プリンスの動きも以前より各段に速い」
そのメディのつぶやきは、ざわめくガイド待機所の喧騒に消えて、他の人々の耳には聞こえることはなかった。
「ヤッホー! 三十一階ラストフロアだ! 俺が一番乗り! って……なんだこりゃ!」
メインの魔導モニターのなかでスコルが歓声をあげた。続く戸惑いの声もガイドの待機所に響く。
モニター画面には広大なフロアが広がっていた。半透明の白黒のチェスの盤みたいな床。その遥か彼方に階の上に豪奢な椅子が見えた。
それは玉座だ。
「なんだよ、ラスボスがいないのか?」
戸惑いの声をあげるモニターのスコルと、明らかに驚愕の表情を浮かべるネラ。そこに「あ、言い忘れていた」とメディが口を開く。
「ラストフロアだけど、大演習直前に仕様が変更されました」
「そんな! 前日までなんのアナウンスもないなんて!」
はじかれたように振り返り文句をいうネラに「なにか問題あるの?」とメディが返す。
「もともと演習は当日まで、ダンジョンなのか広大なフィールドなのか、今回のような塔なのか、関係者以外一切情報公開しないのが決まりだ。
もちろん、演習直前に変更してはいけないなんて決まりもない。どんな状況にだって対処するのも、訓練の一つだ」
ネラにゆっくりと近づいたメディが耳元で「それとも“前もって”知っておかないとマズかった?」とささやく。ネラがぐっと唇を噛みしめる。
フロアにはハートリーの声でラストフロアの仕様変更がアナウンスされる。
ラスボスを倒すのではなくフロアの奥にある“玉座”に腰掛けること。それが一位の勝利条件であると。
「なんだ、だだっ広いフロアを抜けて椅子に座るだけか」
簡単だとばかりスコルがまたがっている巨狼を白黒の床に進ませる。ネラが「馬鹿! ラストフロアが簡単なものか! どんなギミックがあるのかわからない!」という声と、ハートリーの声が重なる。
「なおこのフロアはアニマルによる飛行は出来ないように制御されている。“落とし穴”に落ちたら、一つ下のフロアに戻される」
「え?」
同時にスコルが声をあげた。彼のまたがる巨浪の足下がなくなって、浮かぶこともできずにすとんと落下する。
「なんだよ! これは!」と落ちた十階でさけぶスコルに、ハートリーの説明がさらに続く。
落とし穴はセンチネルの目でも普通の床に見えるよう魔術偽装されていること。五感のすべてを使い床が本物か偽物か判断しなければならない。
なお落とし穴は“固定”ではなく、ランダムに切り替わり法則性もない。目の前の白と黒の床が本物か偽物か、あまりに慎重になってそこに留まり続ければ、今度は足下の床が無くなるということだ。
「見破りゃいいんだろう! 見破りゃ! そんなの簡単だ!」
スコルがすぐに上のフロアに戻る。ネロが「もう落ちるんじゃないよ」と不機嫌に告げる。それにスコルが「わかってるよ!」と苛立った声で叫ぶ。ガイドならばここでセンチネルの精神を落ち着かせる言葉をかけるべきなのだが。
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