【完結】デカい腹抱えて勇者から逃走中!

志麻友紀

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でかい腹抱えて勇者から逃走中!

【9】ニ○リのベッドと共に

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 聖なる白いドームの神殿、召還陣の真ん中に突如現れたニ○リのベッドの上には全裸の男二人。
 その全裸の男の片割れであるハルも呆然なら、そこにいた者達も呆然としていた。
 居並ぶ神官達や貴族達の向こうには唯一、椅子に座した女が一人。金泥の豪奢な椅子に揃いの足置きオットマンまであった。そこに投げ出された足には黄金のミュールサンダルが輝いていた。鑑定魔法など使わずとも、あれが本物の金張りだとわかる。
 高く結い上げた髪には、黄金のティアラが輝き、生白い首にはこれまたギラギラと宝石が連なる重そうな首飾り。目一杯、パニエで広がった小山のようなドレスにもゴテゴテとしたレースにリボン。
 こちらを険しい顔で見る女の見た目の年齢は三十代後半から四十代頭と言ったところか。美人に分類していいが、くっきり引きすぎたアイライナーと細い眉の化粧がどうにもキツすぎる印象だ。
 しかし、その顔にはどうにも見覚えがある。え? こいつミウ? 

「その者達を即刻殺せ!」

 幾つもの指輪がはまった白い手が伸びて指さした。尖った爪は真っ赤に染められていた。

「こともあろうに賢者召還の儀を穢すなど、偽勇者ダランベル! おめおめとその首をわらわに捧げにきたか! 悪賢者ハルよ!」

 偽勇者!?それに自分が悪賢者!?とハルはますます困惑する。それにどうして、年下だったミウが自分よりいささか年を食って、ここで偉そうにしてるんだ? 

「はっ! 大妃様!」

 胸にたくさん勲章つけた将軍が、ミウに向かい最敬礼したのに、ハルは驚愕した。
 ダランベルは言っていなかったか? 

大妃おおきさき一派の専横により、国は二つに割れている』

────あいつが外で魔王が復活してるのに、内輪もめの元凶かよ! 

 ざっと兵士達がベッドの回りを囲み、こちらに向かい槍を突き出す。
 しかし、それはダランベルの手に現れた、聖剣の一閃によって薙ぎ払われた。だけでなく、剣が起こした旋風によって、兵士達の鎧の囲いそのものが吹っ飛んだ。
 聖剣はただの剣ではない。勇者たる主人に忠実であるからどんなに離れていても、その手に戻る。だからこその聖剣と言える。

「ええい! なにをしているのです! 魔道士達よ! この者達を焼き払いなさい!」

 女がわめければ、召喚の儀に集った宮廷魔道士達が呪文の詠唱とともに火の弾を無数にぶつけてくる。
 が、それはハルが短い詠唱で手を頭上に掲げた。そこから放たれたドーム型の結界によって弾かれた。

「くそっ! 腰が立たねぇ」

 ハルにとってこんな結界など呼吸するように簡単だ。それよりベッドから降りたいのに、へたり込んだままぷるぷる子鹿のように震える自分の足が問題だった。
 はっきり言って腰が立たねぇ! 

「ああ、言い忘れていた」
「なんだよ!?こんなときに」

 ベッドの傍らで屈強な騎士と切り結ぶダランベルが言った。ハルも宮廷魔道士長が唱えた特大の火の弾を、片手でぺしんと跳ね返しながら怒鳴る。
 火の弾は神殿のドーム型の天井に激突して、バラバラと崩れ落ちる天井に、着飾った貴族達の悲鳴があがる。

「…………」

 ダランベルがハルの耳元に丹精な唇を寄せてささやく。低い声の響きに背筋がぞくりとする。いや、こんなときにそんな気になってなんかいないぞ! 
 彼がささやいたのは転移の座標だった。
 ハルの耳元から顔をあげたダランベルが切り結んでいた相手を蹴り飛ばす。相手のマントの房飾りは、王宮騎士団長の印じゃないか? とハルは思考の片隅で思う。

「先にそれを言え!」

 怒鳴ったあとに、素早く詠唱すれば、たちまち転移の魔法陣が、ニ○リのベッドの回りに大きく展開する。

「大ツボ爆弾でもなんでもいいから、奴らに投げ込みなさい!」
「大妃様、それではこの聖堂も半壊いたします!」

 てんやわんやの大騒ぎの中、ベッドとダランベルとハルの姿は王宮の神殿より消えた。



 そして。
 ニ○リのベッドともに転移した空間は、どこかの岩城の中庭のようだった。石の壁に囲まれた、菜園に井戸、緑の木陰がある空間。

「ようこそ! 聖賢者ハル様!」

 明るい青年の声が出迎えてくれた。ちょっと裾を引きずり気味のローブをまとい、トリネコの木の杖を持った上級魔道士だ。。
 しかし、現れた二人を見て、彼は「ええええっ!」と声をあげた。
 そりゃ、そうだろう。
 一人はベッドにへたり込み、一人は傍らに立つ。
 素っ裸の男達が現れれば。
 あわあわしている小柄な魔道士は「服、服、服」と慌ててローブの裾を踏んづけてスッ転びかけた。それを片手でひょいと支えた隣に立つガタイの良い剣士がダランベルに話しかける。

「ダラン様、これを」

 剣士は自分のまとっていたマントを肩から外して差し出した。

「ああ、すまん」

 グランベルはそのマントでハルを包みこんだ。自分は素っ裸のまま、堂々とそのハルを軽々と横抱きにする。
 腰は相変わらず立たないので、ハルも自分で歩けるとは言えない。

「とりあえず中に入って話そう」

 ダランベルの言葉にみんなうなずいた。
 たしかにくわしく話をするにしろ、真っ昼間の中庭にて、全裸で立ち話はつらい。





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