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でかい腹抱えて勇者から逃走中!
【8】土木の王子様!?
昔捨てた勇者の孫勇者が空から落っこちてきた。
事故みたいなヒートから三日目。
ようやくハルの意識もゆるゆると戻ってきた。引き寄せたスマホは充電が切れて真っ暗で、連休明けの初日、無断欠勤は確実だ。
それと。
「しっかり噛んでくれたな」
うなじに手をあててぼやく。そこにはバッチリ自分を腕に抱く男の歯形が付いているだろう。
「あなたは私の運命だ。もちろんこの責任は」
「腹減った」
それ以上聞きたくなくてハルは遮る様に言った。
やっぱり“運命”って言葉は、この顔から聞きたくない。
まして“責任”なんてだ。
「そういえば、三日間、水と食料はどうしてたんだ?」
「干し肉と水筒は持ってきていた。だから、私が口移しで与えていたが」
「あ、ああ、そりゃ、ありがとう」
無限に水が湧く魔道具の銀色の水筒がかみちぎった干し肉とともに、枕元に転がっていた。
魔獣の干し肉は一口で一食分という、強壮剤の作用もあるものだ。魔物討伐の冒険にはよくお世話になっていた。
ただ、ハルが耳まで赤くなったのは、それを口移しで……与えられたことだ。それもたぶん干し肉は噛んで柔らかくしてから。
セックスしながら、ひな鳥に給餌するみたいにされていたなんてだ。
よく考えなくたって死ぬほど恥ずかしい。
「冷蔵庫になんかあったはず……っ」
ベッドから立ち上がろうとして、がくりと膝から力が抜けた。それを力強い腕に支えられる。ふわりと身体が宙に浮いて、お姫様抱っこされていた。
「どこに行きたい? 不浄か?」
「いや、そいつもお前が、魔法でなんとかしてくれたんだろう?」
実際、汗やなにやらでドロドロのはずの身体もさっぱりしていた。それから生理的現象も、浄化の魔法を使えば体内を綺麗に出来るのだ。
もっとも、これは戦闘中や強行軍などの非常時に使われるものだ。普通の生活ならば風呂に入りたいし、トイレだって……その行きたい。
「俺が用があるのはそっちだ」
ワンルーム、ベッドから見える冷蔵庫を指させば、そこまで軽々と運ばれた。身長も体格差もあるとはいえ大の男がお姫様抱っこで……と思ったが、腰が抜けたのはコイツが原因だと開き直って、冷蔵庫の扉を開ける。
「まるで雪山のような冷気だな」
「そういう機械なんだよ。これで食料を長期保存出来る」
「氷室のようなものか」
「そうだな」
冷凍庫から焼きおにぎりを出して、横のレンジに入れる。
「出来たぞ」
「もうか?」
ほかほかと湯気を出す焼きおにぎりを去り出せば、目を丸くしているのに、くすりと笑ってしまう。
「熱いから、気を付けて食べろよ」
「わかった」
ベッドに戻って、向かいあって食べる。
「それでお前はどうやって、元の世界に戻るつもりだ?」
「一緒に来てくれるのか? いや、あなたはもう私の番なのだから、共にいるつもりだが」
「待て。俺はまたあっちに行くとは言ってない。お前のほうこそ、どうやって戻るつもりなんだ? と聞いているんだ」
こいつがこっちにやってきた方法はわかっている。ハルは帰還の方法の術式を日記に記して、マールに渡したのだから。
マールは子孫に伝えると言っていた。
だが、あの魔法は歴代一と言われる賢者ハルの全魔力を引き替えにして道を開けたものだ。
あちらの世界で孫の代となって異世界転移の研究が進んだとしても、膨大な魔力を注ぎこまなければならないことには変わりない。
そう容易にひょいひょいと行き来出来ないはずだ。
「番だから俺と共にいるって言うけどな、俺がこっちにいるって言い張ったらどうするんだよ? 勇者様は国を救わなきゃならないだろう」
「そのときは私、一人で国へと帰り、戦う」
「そうか」
まあ、そうなるよなと思う。
「魔王を倒したならば、国のことがあるが、それでも人は生きていけるだろう。再び番のあなたの元へと私は戻る」
「はい?」
素っ頓狂な声をハルはあげてしまった。目の前の男はあくまで真剣な顔で。
「あなたと生まれた子と共に暮らす」
「子供って先走りすぎつうか、あのな? この異世界で、どうやって暮らしていくつもりなんだよ! 王子様!?」
「私は父から辺境伯を継いだ身だ。王子ではない」
「いや、じゃなくて、お貴族様でもいいが、ここでは地位も金もあんたにはないんだぞ。どうやって暮らしていくんだよ」
ハルは呆れて言う。やっぱりあの甘ちゃん王子様の孫だと思いつつ。
「そうだな。この世界での私の持っているものは、この身体一つだ。木こりでも猟師でも、荷運び人でもやって、あなた達親子を養うつもりだ」
「え? いや、やけに地道つうか、具体的だな!?」
こんな王子様が道路工事していたら、たちまちSNSで話題になって、芸能事務所かモデル事務所からスカウトが駆けつけるぜと、思いつつ。
「いや、それより今は魔王で内乱の危機なんだろう? 今すぐにでも、戻らなきゃならないだろうが!?」
「それは『あちらの召喚』がそろそろあるだろう。あなたが以前、我が世界に招かれたように」
「は? それって召喚の儀式が行われるってことか?」
そのとたん、ぴかっとまばゆい光にハルの小さなワンルームは包まれた。
そして、そのまぶしさに目を閉じて開いたときには見慣れたドームに、長い衣を着た神官達の輪の中心。
ニ○リのベッドごと、その上に乗ったダランベルとハルは転移していた。
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