どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

文字の大きさ
34 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?

【10】フォートリオン三大巨頭会談

しおりを挟む



「はあ、逃げた?」

 王都郊外にあるジークの邸宅。もうコウジの家といっていい。しかし、こんなでっかいお屋敷を、自分の“家”ってどうなんだ? とコウジはいつも思う。

 とはいえ慣れというのは怖いもので、ジークと並んで朝の仕度を使用人達に手伝ってもらうのも、執事のケントンから、上着を着せかけてもらうのもすっかり馴染んだ。きっちり結ばれたネクタイに指を入れて、自分好みのゆるさにするのに老練な執事の視線を時折感じるが許せ。おじさんはこのネクタイのゆるさがないと落ち着かない。
 とはいえ今日はネクタイはない。ジークとそろいの黒の軍服で髭も綺麗にそられて髪は後ろになでつけられて、きっちり“整え”られていた。

 で、その仕度が終わったところで背の高い男性使用人がやってきて、ジークとコウジに知らせたのだ。

 例のキツネとたぬきの王子が逃げたと。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 あの襲撃事件から半月。元魔法騎士達は終身の魔封じのうえに、流刑地へと送られた。
 二人の王子に関しては、それぞれの主家預かり。

 一見、刑が軽そうに聞こえるが、そうではない。王命によってお前達の家の責任で、その者を一生封じ込めておけということだ。
 自由に外にでることは一生なく、王都から離れた領地の屋敷の一室に生涯押し込めというのが、よくある措置であった。

 二人の王子は、それぞれ所領の城の塔のてっぺんと地下の部屋に押し込められていた。
 その姿が同日に忽然と消えたという。

 王命によって預かった重罪人を逃がしたのである。それぞれの王子の主家の侯爵と伯爵は青い顔で、朝から弁明のために王宮へと駆けつけた。
 フィルナンド王はそれに不機嫌を隠そうともせずに「待たせておけ」とひと言告げた。
 王の一日は忙しく、今日はしっかりと予定が決まっていたからだ。

 場所は王室の私的なサロン。非公式な会談でもよく使うが、公式であっても相手に対しての親しさを示すために使われることがある。打ち解けて話したいと王の気持ちを表すために。
 今回は“家族”とはいえ王が公式に二人へと書状を出して招いたものだった。

 そこには正装の軍服姿のジークとコウジがいた。





「夜会では見慣れた姿だが、ジーク・ロゥとそろいで良く似合っているな。いつもその格好でおらぬか?」

 サロンの猫足の椅子にそれぞれ腰掛けて、フィルナンドが親しげにコウジに声をかける。彼もまた王様を前にして全く臆することもない態度で「よしてくださいよ」と顔をしかめる。

「たまにだから我慢できますが、毎日なんて肩が凝る。お行儀のよすぎる格好は、どうにも俺の性に合わない」

 綺麗に髭がそられたあごを落ち着かないとばかり、コウジが撫でてぼやく。王は微笑み。

「リットンとコークスの二人が青ざめて朝から王宮にきておる」

 第10王子と第11王子のそれぞれの当主の名だ。ジークが「どうしました?」と訊けば「どうもしない」とフィルナンドは答える。

「会う必要もないだろう。夜まで待たせて『しばらく顔も見たくない』と侍従に伝えさせておしまいだ」

 王の言葉ならばそれは、しばらく王宮への出入り差し止め、怒りが解けるまで謹慎処分となる。名門貴族としては大変な不名誉だ。

 「逃げた二人の追跡はします」とのジークの言葉にフィルナンドは「もちろんだ」とうなずく。
 「主家が二人の逃走を手助けした可能性は?」とコウジは訊く。しかし、フィルナンドもジークでさえ「それはない」と声を揃えて断言した。

「王命によって預けられた罪人を取り逃がすなど大失態だ。まして、その逃走を手助けするなど、どのような名門であっても即刻取り潰しとなっても、申し開きの一つも許されない」

 そのジークの言葉に続いてフィルナンドが「当主二人が真っ青な顔をして、余に申し開きをしにきたのが良い証拠よ」と茶をすする。
 なるほど、血のつながりの情よりも、お家存続が大事なのは江戸時代の殿様達も、お貴族様も変わらないか……とコウジは理解する。

「それで罪人を取り逃がした処分は、しばらくの王宮出入り差し止めの謹慎処分だけじゃないんでしょうね?」
「そうよな。リットンとコークスの家はどちらも名門。降格も取り潰しも出来ないとなれば、あとは金ということになるな」
「金ですか」

 賠償金ということだ。いくらなのかはわからないが妥当というところだろう。そこでコウジは「そうだ」と思いつく。

「災厄の騒ぎやらなんやらで、王都の民が暮らす下町の道は穴があいているんですよ。水道管も点検を怠って老朽化が心配されてる。
 その工事をまるまる彼らに任せたらどうですか?」
「罰として役目をかすと?」
「王都の道がぴかぴかになって、濁りのない水がどこの家の蛇口からも出てくるまでは、目通りまかりならんと王様が言えば、工事も迅速に進むんじゃないですか?」

 コウジは人の悪い顔でニタリと笑う。
 道の修繕も水道管の補強も、やるとなれば金がかかる。それこそ結構な費用なのだ。
 災厄の被害であちこちの手当が必要な今は、少しでも国庫の負担を軽くしたいところだ。
 「それは良い考えだな。なるほど貴族達に公共工事を負担させるか」と名案を得たとばかりのほくほく顔のフェルナンドにジークが「陛下」と口を開く。

「軍の工兵部隊を“監督官”としてつけましょう」
「そうだな。王都の道や水道のことは彼らが一番良く知っているだろう」

 監督官というが、ようは監視だ。すべての道や水道の工事に手抜きがなかったか、きっちり監査されるだろう。それこそ完璧な仕事がなされるまで侯爵と伯爵は王宮に足を踏み入れることは敵うまい。

「しかし、あのきつねとたぬきがいきなり部屋から消えたってのは気になりますね」

 「きつねとたぬき?」とフィルナンドに不思議そうに訊かれて「ああ、あの王子達のことですよ」と答える。フィルナンドは「そんな獣に似ておったかな?」とつぶやいているが、好物のカップ麺から説明するのが面倒くさいとコウジは話を変える。

「どこに逃げたか知りませんが、まだ馬鹿なことを企んでいないといいんですがね」
「王命に背いた彼らはもはや叛逆者だ。見つかれば、今度こそ即刻処刑の対象となる」

 ジークがその剃刀色の瞳に隠しきれない怒気をちらりとのぞかせる。彼はいまだ、コウジに彼らがしたことに憤っているのだ。おそらくは一生許すことはないだろう。
 フィルナンドもまた「大罪人として追われる彼らに、手を貸す者はいまい」と断ずる。「それより」と彼は続けて口を開く。

「このごたごたで、前置きが長くなってしまったが、今日二人を招いたのは他でもない。
 このあいだの夜会のことでな」

 ついにきたとさすがのコウジも思わず身構えた。
 自分の襲撃事件やらなんやらで、この半月先延ばしになっていたが、ジークがコウジとの関係を公言したことは、とんでもない爆弾発言だったに違いない。

 いままでそういう噂話はあったが、本人自らカミングアウトしてしまったのだから、ごまかしもきかない。
 二人そろって王様に呼び出されたのは、当然この話題に違いなかった。





「コウジにはロードどころか、伯爵、侯爵でも足りぬな。廃絶した公爵家の名前を起こして継がせることにするか」
「陛下、私達のことは放っておいてくださいと申し上げたはずです」

 フィルナンドの言葉にジークがすかさず反応する。自分達を引き離そうとするならば、自分こそコウジの手を取って“逃亡者”となる覚悟だと言わんばかりだ。
 フィルナンドは「お前達に別れろとは言っておらん」と苦い顔をする。

「余が言いたいのは、序列第2位の王子の“配偶者”となるならば、爵位が必要だろうということだ」

 「はい?」と今度はコウジが素っ頓狂な声をあげた。フィルナンドは続けて言う。

「結婚の前に婚約ということになるだろうが、その婚約者としてこの王国における格付けは必要ということだよ、コウジ」

 結婚? 婚約? という言葉が、コウジの頭の中で反響した。





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。