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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?
【10】フォートリオン三大巨頭会談
しおりを挟む「はあ、逃げた?」
王都郊外にあるジークの邸宅。もうコウジの家といっていい。しかし、こんなでっかいお屋敷を、自分の“家”ってどうなんだ? とコウジはいつも思う。
とはいえ慣れというのは怖いもので、ジークと並んで朝の仕度を使用人達に手伝ってもらうのも、執事のケントンから、上着を着せかけてもらうのもすっかり馴染んだ。きっちり結ばれたネクタイに指を入れて、自分好みのゆるさにするのに老練な執事の視線を時折感じるが許せ。おじさんはこのネクタイのゆるさがないと落ち着かない。
とはいえ今日はネクタイはない。ジークとそろいの黒の軍服で髭も綺麗にそられて髪は後ろになでつけられて、きっちり“整え”られていた。
で、その仕度が終わったところで背の高い男性使用人がやってきて、ジークとコウジに知らせたのだ。
例のキツネとたぬきの王子が逃げたと。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
あの襲撃事件から半月。元魔法騎士達は終身の魔封じのうえに、流刑地へと送られた。
二人の王子に関しては、それぞれの主家預かり。
一見、刑が軽そうに聞こえるが、そうではない。王命によってお前達の家の責任で、その者を一生封じ込めておけということだ。
自由に外にでることは一生なく、王都から離れた領地の屋敷の一室に生涯押し込めというのが、よくある措置であった。
二人の王子は、それぞれ所領の城の塔のてっぺんと地下の部屋に押し込められていた。
その姿が同日に忽然と消えたという。
王命によって預かった重罪人を逃がしたのである。それぞれの王子の主家の侯爵と伯爵は青い顔で、朝から弁明のために王宮へと駆けつけた。
フィルナンド王はそれに不機嫌を隠そうともせずに「待たせておけ」とひと言告げた。
王の一日は忙しく、今日はしっかりと予定が決まっていたからだ。
場所は王室の私的なサロン。非公式な会談でもよく使うが、公式であっても相手に対しての親しさを示すために使われることがある。打ち解けて話したいと王の気持ちを表すために。
今回は“家族”とはいえ王が公式に二人へと書状を出して招いたものだった。
そこには正装の軍服姿のジークとコウジがいた。
「夜会では見慣れた姿だが、ジーク・ロゥとそろいで良く似合っているな。いつもその格好でおらぬか?」
サロンの猫足の椅子にそれぞれ腰掛けて、フィルナンドが親しげにコウジに声をかける。彼もまた王様を前にして全く臆することもない態度で「よしてくださいよ」と顔をしかめる。
「たまにだから我慢できますが、毎日なんて肩が凝る。お行儀のよすぎる格好は、どうにも俺の性に合わない」
綺麗に髭がそられたあごを落ち着かないとばかり、コウジが撫でてぼやく。王は微笑み。
「リットンとコークスの二人が青ざめて朝から王宮にきておる」
第10王子と第11王子のそれぞれの当主の名だ。ジークが「どうしました?」と訊けば「どうもしない」とフィルナンドは答える。
「会う必要もないだろう。夜まで待たせて『しばらく顔も見たくない』と侍従に伝えさせておしまいだ」
王の言葉ならばそれは、しばらく王宮への出入り差し止め、怒りが解けるまで謹慎処分となる。名門貴族としては大変な不名誉だ。
「逃げた二人の追跡はします」とのジークの言葉にフィルナンドは「もちろんだ」とうなずく。
「主家が二人の逃走を手助けした可能性は?」とコウジは訊く。しかし、フィルナンドもジークでさえ「それはない」と声を揃えて断言した。
「王命によって預けられた罪人を取り逃がすなど大失態だ。まして、その逃走を手助けするなど、どのような名門であっても即刻取り潰しとなっても、申し開きの一つも許されない」
そのジークの言葉に続いてフィルナンドが「当主二人が真っ青な顔をして、余に申し開きをしにきたのが良い証拠よ」と茶をすする。
なるほど、血のつながりの情よりも、お家存続が大事なのは江戸時代の殿様達も、お貴族様も変わらないか……とコウジは理解する。
「それで罪人を取り逃がした処分は、しばらくの王宮出入り差し止めの謹慎処分だけじゃないんでしょうね?」
「そうよな。リットンとコークスの家はどちらも名門。降格も取り潰しも出来ないとなれば、あとは金ということになるな」
「金ですか」
賠償金ということだ。いくらなのかはわからないが妥当というところだろう。そこでコウジは「そうだ」と思いつく。
「災厄の騒ぎやらなんやらで、王都の民が暮らす下町の道は穴があいているんですよ。水道管も点検を怠って老朽化が心配されてる。
その工事をまるまる彼らに任せたらどうですか?」
「罰として役目をかすと?」
「王都の道がぴかぴかになって、濁りのない水がどこの家の蛇口からも出てくるまでは、目通りまかりならんと王様が言えば、工事も迅速に進むんじゃないですか?」
コウジは人の悪い顔でニタリと笑う。
道の修繕も水道管の補強も、やるとなれば金がかかる。それこそ結構な費用なのだ。
災厄の被害であちこちの手当が必要な今は、少しでも国庫の負担を軽くしたいところだ。
「それは良い考えだな。なるほど貴族達に公共工事を負担させるか」と名案を得たとばかりのほくほく顔のフェルナンドにジークが「陛下」と口を開く。
「軍の工兵部隊を“監督官”としてつけましょう」
「そうだな。王都の道や水道のことは彼らが一番良く知っているだろう」
監督官というが、ようは監視だ。すべての道や水道の工事に手抜きがなかったか、きっちり監査されるだろう。それこそ完璧な仕事がなされるまで侯爵と伯爵は王宮に足を踏み入れることは敵うまい。
「しかし、あのきつねとたぬきがいきなり部屋から消えたってのは気になりますね」
「きつねとたぬき?」とフィルナンドに不思議そうに訊かれて「ああ、あの王子達のことですよ」と答える。フィルナンドは「そんな獣に似ておったかな?」とつぶやいているが、好物のカップ麺から説明するのが面倒くさいとコウジは話を変える。
「どこに逃げたか知りませんが、まだ馬鹿なことを企んでいないといいんですがね」
「王命に背いた彼らはもはや叛逆者だ。見つかれば、今度こそ即刻処刑の対象となる」
ジークがその剃刀色の瞳に隠しきれない怒気をちらりとのぞかせる。彼はいまだ、コウジに彼らがしたことに憤っているのだ。おそらくは一生許すことはないだろう。
フィルナンドもまた「大罪人として追われる彼らに、手を貸す者はいまい」と断ずる。「それより」と彼は続けて口を開く。
「このごたごたで、前置きが長くなってしまったが、今日二人を招いたのは他でもない。
このあいだの夜会のことでな」
ついにきたとさすがのコウジも思わず身構えた。
自分の襲撃事件やらなんやらで、この半月先延ばしになっていたが、ジークがコウジとの関係を公言したことは、とんでもない爆弾発言だったに違いない。
いままでそういう噂話はあったが、本人自らカミングアウトしてしまったのだから、ごまかしもきかない。
二人そろって王様に呼び出されたのは、当然この話題に違いなかった。
「コウジには卿どころか、伯爵、侯爵でも足りぬな。廃絶した公爵家の名前を起こして継がせることにするか」
「陛下、私達のことは放っておいてくださいと申し上げたはずです」
フィルナンドの言葉にジークがすかさず反応する。自分達を引き離そうとするならば、自分こそコウジの手を取って“逃亡者”となる覚悟だと言わんばかりだ。
フィルナンドは「お前達に別れろとは言っておらん」と苦い顔をする。
「余が言いたいのは、序列第2位の王子の“配偶者”となるならば、爵位が必要だろうということだ」
「はい?」と今度はコウジが素っ頓狂な声をあげた。フィルナンドは続けて言う。
「結婚の前に婚約ということになるだろうが、その婚約者としてこの王国における格付けは必要ということだよ、コウジ」
結婚? 婚約? という言葉が、コウジの頭の中で反響した。
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