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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?
【25】残酷な女神へのアンチテーゼ その2
しおりを挟む「腕に傷が!」
「お前だって男前になっただろう?」
ジークはコウジの腕に手を伸ばし、コウジはジークの頬にその指先を伸ばし、お互いに治癒魔法をかけあう。傷口はすぐに塞がって跡形もなくなった。
「この程度かすり傷だってのに、大げさだぞ」
「それを言うなら、私の傷など放置しておいていい」
「王子様の綺麗な顔に傷が残るのが、俺は嫌なの」
答えておいて「おい」と人の輪の向こう、黄金の輿に乗っている聖女に呼びかける。
「大切な信者を突っ込ませるとはどういうことだ?」
「彼らは殉教者となり偉大なるモルガナ女神の元にいち早く逝けるのです。これ以上に光栄なことはないでしょう?」
偉大なるって自分で言ってりゃ、世話がねぇぜと、コウジは胸のうちで毒づく。輿に乗っているのは聖女の身体を借りたモルガナ女神そのものだ。
その女神はほほほ……と高らかに笑う。
「あなた達はとても強いのね、気に入ったわ。殺さないで必ず捕らえて、わたくしの忠実なる僕にして差し上げるわ。
とくにその銀髪の王子は噂に違わぬ美形ね。あなたは私の聖騎士にして、そばに置いてあげる。
そこの男はくたびれているけど、見られないわけではなし、同じく聖騎士にしてあげるわ」
「断る」とジークがすかさず返す。
「私がそばにいたいと思うのはコウジだけだ。あなたではない」
「俺も自己中で我が儘なガキのお守りなんてゴメンだぜ」
神様なんだからコウジよりは遥かに長く生きているだろうが、アルタナ女神はモルガナは自分の小さな国で、駄々をこねている子供だと表現した。
たしかにこの女神は悪い意味で子供だ。神である自分が中心で当然と思っており、すべてのものは己を満足させる駒でしかない。
「このわたしの慈悲を断るというの!」
そして思い通りにならない相手には癇癪を爆発させる。
「命を助けてあげるばかりか、栄光あるモルガナ女神の聖騎士に取り立ててあげると言っているのに」
「なにが栄光あるだ。あんたのための、あんただけの小さな小さな国の騎士なんぞ、ジークの器にゃ狭すぎる」
コウジが肩をすくめれば、聖女はますます怒気に赤く顔を染めて「無礼者!」とキイキイ甲高い声をあげる。
「このわたしを侮辱するなど万死に値するわ! でも慈悲深きわたしは、お前を生かしてあげる。そして、一生この輿を担ぐ奴隷としてこき使ってあげるわ」
「だから、俺達はあんたの奴隷になるつもりはないって言ってるだろう?」
「その臭い匂いで近寄りたくもないぜ」とコウジがさらにあおれば「周りを見なさい!」と聖女は叫ぶ。
「ここに残されたのはあなた達二人のみ。周りを取り囲んでいるのはわたしの信徒よ。
今、あなたはわたしの国を小さな小さなと馬鹿にしたわね。でも、ここはもう既にモルガナも同然。あなた達は王の軍勢に見捨てられ、さらには女神アルタナにも見捨てられるのよ。
あの女神はこの地にはもはや、自分を信じる者はいないと切り捨てるでしょうから」
もはや聖女ではなく、モルガナ女神そのものの口調で少女の姿をした女神は勝ち誇ったように言う。
「モルガナ女神よ」とジークが呼びかける。
「やはりあなたの目的はそれだったか。このフォートリオンの地を穢し、かすめ取る」
「取るなんて聞こえが悪い。ちょっと譲っていただくだけよ。あの勤勉な姉様なら、大地なんてすぐに増やせるでしょう?」
だったら自分も取り巻きばっかり増やさないで、女神として己の国を育てて大きくしろよとコウジは思ったが、同時にそれが無理なガキだから他人のモノを欲しがるのかとも思う。
ジークは「アルタナ女神よ!」とその通る低い美声で呼びかける。
「あのときの私の頼みに応えられよ! あなたの権能をここに!」
「なに? 今さら、私の可愛い聖騎士となった王子達に、あの女神が力を行使出来ると思うの? 彼ら、そしてあなた達も私の僕になるしかな……」
そこでモルガナ女神の言葉は途切れた。
天から雷が降り注いだわけでも、大地が割れた訳でも無い。それはまったく目に見えない変化だ。
「ど、どういうこと!? この空間の魔力が消失した!? あああああ……!」
聖女の身体を借りたモルガナ女神の悲鳴が響く。
そうただアルタナ女神は、王子達への恩恵を止めただけだ。彼らがこの国の王子として生まれもった魔法騎士としての力を。
そして、王子達の魔力が失われた今、その負荷は一気に聖女へとかかった。すべての王子達と契約した魔法少女となった彼女に。
「力が、力が吸い取られる。い、嫌ぁぁぁあ!!」
少女の身体が呼ばれたのは十数年前。本来ならば、その呼び出された若さのままでいるはずがない。その変わらない若々しい美貌は女神の権能によって保たれていたのだろう。
少女の艶やかな髪は一気に艶のない白へと変わり「見ないで……」と言った声はしわがれ、顔をおおった両手はしなびた老婆のものとなった。
そして、あちこちから再び「俺達はなにを……」という声が聞こえ始める。モルガナ女神の魅了の力が急速にしぼんでいっているのだ。
これがジークが考えた魔力遮断による、モルガナ女神への“兵糧攻め”だった。
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