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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?
【26】終結
しおりを挟む「う、美しいわたしの顔が……見ないで、見ないで、見ないで!」
少女の声ではなく、しわがれた老婆の声が平原に響き渡る。「幕を下ろして!」というヒステリックな声に反応して、輿の周りの神官達があたふたと四方の薄布を下ろす。
十数年前に呼び出した聖女の身体を成長させずに、十代の少女の美貌のまま保ってきた女神だ。まして、自分が唯一でなければ気がすまないときているのだから、容姿へのこだわりも人一倍、いや、神一倍だと思っていたが、女が美にしがみつくのはこれほどとはね……とコウジはくわえ煙草をくゆらして、その光景を見る。
それでも女神モルガナは十七人の王子へ魔力連結を解かなかった。むしろ「こちらに、こちらに来なさい!」とジークとコウジの囲みをとかせて、自分の輿の周りへと呼び寄せる。
そうせざるをえないのだ。平原を制していた女神の魅了の力は失われた。あとには呆然とする民と正気に戻った兵士達。彼らは「どうなった!?」と混乱しながらも、先ほどまでの戦いを思い出して、聖女の輿を取り囲み槍を向ける。
十七人の王子がそのあいだの壁となって立ちはだかる。その盾を聖女は手放せるわけがない。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
コウジの世界の神に呼び出された空間。聖王の間でアルタナ女神の“影”である災厄、王妃アルチーナがすべての魔力を消失させたようにできるか? とジークが訊ねたときアルタナ女神はあっさりと「出来るわ」と答えた。
「あれはわたしの権能だもの。影はそれを一部行使したに過ぎない」
「それを行使した場合。モルガナ女神は十七人の王子達から一方的に魔力を吸い上げられるのではないか?」
「その通りね。しかも、魔力連結というのは互いの魔力を循環させることで輪を発生させて、増幅の効果もある。それも失われるわ。
そのうえに、先に言ったとおりモルガナは自ら作り出した創世の地を離れて新たに魔力を供給することは出来ない」
聖女という肉の器にその十数年分の蓄えはあるが、それも一気に無くなるだろうとアルタナ女神は続けた。
「魅了の力は一気に失われるでしょうねぇ。それでも女神の力で十七人の王子との魔力連結は保持せざるをえないでしょうけど」
肉の器に縛られている以上、女神といえど世界の理に縛られるという。フォートリンで結んだ魔力連結は解くことは出来ないらしい。
「王子と魔法少女の運命は“絶対”だもの。その命の契約を解くなんてこと、初めから想定していないわ」
「それで魔力を搾り取られた女神様はどうなるんだ?」とコウジが訊ねれば。
「肉の器は一気に衰えるわ。しわしわのお婆さんになるでしょうね」
「死ぬのか?」
「女神の魂を宿した身体よ。とんでもない! たとえ老婆の姿になったって、百年ぐらいは生きるでしょうね」
アルタナは意地悪く唇をつり上げて肩をすくませた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
老婆の姿となり魅了の力が使えなくなったモルガナは、十七人の王子と輿を担ぐ奴隷と側近神官達ともに敗走した。
呆然としている民はともかく、正気に戻った兵士達は、その輿を追いかけようとする。
が、そこに「全軍止まれ!」と声が響く。
ロンベラスだ。彼だけではない。その横には同じく馬にまたがったフィルナンド王の姿があり、コンラッドにピート、当然、シオンにマイアもいる。
王と将軍の姿に兵士達は直立不動で礼の姿をとる。フィルナンド王はロンベラス将軍に「追撃せよ」と命じる。
「ただし、奴らを捕らえる必要はない。国境まで追い詰め、虚海を渡るところまで見届けよ。また舞い戻ることがないように、しばらくは見張りの兵を残せ」
「聖女も王子達も捕らえなくてもよろしいのですか?」とロンベラスが確認すれば、王は「必要ない」と答える。
「この際だ。聖女に十七人の“婿”を引き取ってもらえばいいではないか」
十七人の王子のうち七人は名家の出の者だ。このまま国に置いておけば、三王子の地位を狙ってまた王位継承への野望が再燃するかもしれない。
ならばモルガナに厄介払いしたほうがいい。政治家としてどこまでも老獪な王だった。
そんなフィルナンド王をジークがらしくもなく、呆然と見ているのをコウジは気づいた。フィルナンド王もこちらを見て。
「なんだ。余がお前達を見捨ててさっさと王都に“逃げ帰る”と思ったか?
あの混乱のなか、一旦は退くのが道理ではある。だが少し離れた場所で戦況を見極めるのも、将の務めであろう」
実際フィルナンド王は平原から退くもその場所で留まり、物見のものを放ってこちらの様子を見ていたのだろう。王は馬から降りてジークに近寄り、自分より上背のある息子の胸をその手の甲でトンと叩く。
「死ぬ覚悟でここに残るような“愚か者”とは、余はお前を思ってはおらんぞ。お前のパートナーもまた、しぶといからな」
そう言ってちらりとジークの横に立つコウジを見た。
「お前達が“戻ってくる”ぎりぎりまで待つつもりだった」
「俺達が来なかったらどうするおつもりだったんですか?」
「戻るどころか、どんなワザを使ったのか、聖女はほうほうの体で逃げたではないか」
結果論ではあるが、たしかに勝った。それも一人の死傷者もない奇跡的なものだ。
「一体どうやったのだ?」と訊ねるフィルナンド王にジークが「アルタナ女神の力を借りました」と説明する。
コウジの世界の神に呼ばれたことは省いてだ。コウジがこの世界に詳しい事情はジークしか知らない。秘密というよりは、説明するのがややこしくも小っ恥ずかしいからだ。
自分で考えた最強のキャラ“おじさん”になりました……なんてだ。
フィルナンドは聖女の正体について「まさか、神そのものだったとは……」とうなり「兵糧攻めとはよく考えた」と、ジークの作戦にうんうんとうなずく。
「それで十七人の王子に魔力を吸い取られた聖女はどうなったのだ? 輿の薄布が下ろされていて、その姿は見えなかったが」
「しわくちゃの婆さんになりましたよ。女神の権能で十代の若さを保っていたんでしょうが。その力も底をついたようで」
コウジが答えればフィルナンド王は「では死んだのか?」と訊ねる。コウジは首を振る。
「そこは腐っても女神様ですよ。アルタナ女神によると、そんな姿でも百年は生きるそうで」
そしてアルタナいわく「たかだか百年しわくちゃの老婆の身体に閉じこめられるだけよ」とのことだ。まあ神様の時間からすれば、百年など一瞬ではある。
が、人間にとっては百年は長い。フィルナンドは「百年」とうなるような声をあげて。
「それではその百年のあいだに再び力を蓄えて、このフォートリオンに攻めてくることは?」
「それはありません」と答えたのはジークだ。
「災厄によって、一時的にアルタナ女神の結界が弱まったとはいえ、その期間は十年ほど。
モルガナ女神が再び力を蓄えるにしろ、もう二度とかの女神の魂を宿した聖女はこの国にはやって来られないでしょう」
『常に十七人の王子に魔力を吸い取られながらですもの。肉体の皮を脱ぎ捨てるまで、ご自慢の美貌を取りもどせるかしらね』とアルタナ女神は冷ややかに言っていた。自分の創造した大地を勝手に横取りされようとしたのだ。あの女神様もそうとうお冠らしい。
そして、怒れる女神ならぬ少女がコウジの目の前にいた。シオンだ。その横には瞳を潤ませたマイアがいる。
「コウジさんひどいです。わたし達に黙ってジーク・ロゥ殿下と二人で残るなんて」
「ご、ゴメン、マイアちゃん。いや、女の子に泣かれるとおじさん弱いな」
「そうです。二人だけ抜け駆けしてかっこいいところさらうなんて、ズルイです」とピート。コンラッドはジークに向かい「今後は無断でこのようなことはしないでもらいたい」と言っている。それにジークは「考える」と返しているが、それ『考えるかもしれないが、やっぱりやりたいようにやる』って返事だぞ。
そして、腕組みをしたままじっとコウジを見ているシオンは。
「あなたっていつも勝手な人よね。どうでもいいことはからかうように話すクセに、肝心なことは話してくれない。
あげく、自分達は戦うけど、わたしたちには安全な場所に逃げろですって!」
「いや、それはなあ、シオンちゃん」とコウジは言いかけたが「馬鹿!」という言葉にさえぎられる。そして、どんとコウジの肩にぶつかり腕をぎゅっと握りしめる両手。
「……死んじゃうかと思った」
泣き顔を見られまいと、うつむくシオンに「おじさんは死なないよ」と答える。マイアもまた「わたしもコウジさんのこと心配で」ともう片方の手を握りしめられる。
「おじさんモテモテだなぁ」なんて茶化してみたが、周囲を見てギョッとした。
コンラッドがこっちをにらみつけているのは怖くない。真面目王子様がますます真面目な顔になって、さてはまだシオンちゃんの手も握ってないのか? ってこの王子ならありえそうだ。
「ホント、コウジさん人気ですね」と笑っているピートだが、目は全然だぞ。怖いぞ、おい。
いや、それよりなによりじっとこっちを見ている、剃刀色の瞳がやばい。なんにも言わないけど、コウジにはジークの心の中の声が手にとるようにわかった。
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コウジはとりあえず、明け方まで眠れない覚悟は決めた。
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