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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~
【14】ダイヤモンドより美しいもの※ その1
しおりを挟むコウジを見たジークは「無事か?」も「会いたかった」の言葉もなく、いきなりコウジを抱きしめて口づけた。
この王子様の暴挙? にコウジは目を見開いたものの、すぐにその首に手を回して目を閉じて応える。
目の前で繰り広げられる濃厚な抱擁に、デクスは固まり、リンベイは尖った耳の先まで真っ赤になり、背中の四枚の透ける羽もぷるぷる震えている。
口づけを繰り返しながら、首に回ったコウジの左手をジークが掴み、その手首にはまる金の輪を感触だけで確認して、眉間にしわを寄せた。
魔封じのその輪をジークは己の手で握りつぶすように外した。おいおい聖剣も使わずに引きちぎりやがったよ……とコウジは思う
────こいつ、ますます力強くなってねぇ?
そんなことを思えたのは一瞬だった。舌がするりと入りこんできて絡め取られる。くらりとめまいがしてヤバいと思った。
「舌、入れるんじゃねぇよ!」
ぺしりと秀でたデコをたたきながら、ぷはっと口を離す。
「我が主のときは懐かぬ猫のように噛みついたのに、その男のときは子猫がじゃれるように軽く叩くだけとは……」
呆然としたままデクスがつぶやく。おい、お前、こだわるのはそこか? いや、人を猫扱いするんじゃねぇよ! あげく、子猫とはなんだ! 子猫はさらにねぇ!
しかも、まずいのは目の前の剃刀色の瞳が剣呑に光ったことだ。
「あの男に口づけられたのか?」
「いや、ありゃ枯れかけた魔力供給の応急措置で、舌入れようとしたから噛みついたんだが……おい! だからもうキスはいいって!」
ぐいぐい迫ってくる端正な顔を、これまたぐいぐいと乱暴にコウジは押しのける。この芸術品みたいな顔をなんて乱暴な扱いをするのか! と怒られそうだが、これは俺のモノだからいいんだ!
「あの男にされたのだろう?」
「たった今、お清めのキスは済んだからいいだろう! これ以上お前にちゅーちゅー吸い付かれて、舌入れられたら俺が腰砕けになって、お前が抱えて逃げなきゃならないぞ!」
「……ずいぶんと楽しそうだな」
ギギギ……ときしむ音でも立てるかのように首を回してコウジは、そちらを見た。そこにはフィラースが立っていた。
彼を見たとたん、剣の柄に手をかけ臨戦態勢となるジークに「馬鹿! ここは逃げるぞ!」と叫んで、コウジは両手をつなぐ。
とたん、二人の姿は転移によって消えた。それに「二人のみだ。そう遠くには跳べまい」とフィラースは言い「追っ手の手配をしろ」とデクスに告げる。
「王子は殺しても構わん。だが、コウジは必ず生きて私の前に連れてこい」
「お言葉ながら……あの男は危険です」
デクスが「生かしておいてよいことがあるとは思えません」と続ける。それにフィラースは。
「だから、コウジを逃がすふりをして、ここで魔物に襲われたように見せかけて始末するつもりだった」
「はい」
デクスはうなずく。説明せずともすべてわかっているだろう主に彼は「死を賜る覚悟は出来ております」とフィラースの前に両膝をつく。
「最後に一つ、主に逆らった愚昧な下僕の言葉をお聞き下さるならば、ちっぽけな男ごときにこだわらず、あなたには大いなる道があることをおわかりください」
「私がコウジと関わって甘くなったと、お前も思うのか?」
「あの男はあなたの覇道の障害にしかなりません」
そこに「お待ちください」と健気な声が割って入る。メイドの少女はデクスの横に膝をついて、震えながらもしっかりとフィラースを見上げる。
「わたくしがコウジ様をこの城から逃がそうとしたのです。デクス様はそれを止めようとなされました。すべての罪はわたくしにあります」
「なにを言いだすのだ、リンベイ。お前は私に命じられて、あの男をここに連れてきたにすぎない」
「いえ、コウジ様を逃がしたいと思った、わたくしの気持ちは本当です」
「フィラース様、リンベイは私をかばってこのような偽りを申しているのです。この娘はただ私に命じられて、あの男をここまで連れてきただけのこと。すべての責は私にあります。この娘には寛大なるご処置を……」
そんな二人に「やれやれ」とフィラースはため息をつき。
「主従でかばい合うとは美しいな、デクスよ。部下など都合の良い道具として切り捨てる者が多いなか、お前も十分に“甘い”ぞ」
逆に自分が“甘い”と指摘されて虚を突かれたような顔をする魔族の青年に、フィラースはくくくと笑う。
「沙汰を言い渡す。リンベイ、お前は変わらずこの魔王城にて仕えろ。本日より、私付きのメイドとする。
デクス。お前は逃げたコウジとあの王子の行方を追え。絶対に逃がすな」
「フィラース様!」とデクスが、まだあの男にこだわるのかと、声をあげるのにフィラースは「そうではない」と返す。
「お前は私がただあの男にこだわっているように見えるか? あれは私の閃光の直撃を受けても無事だった。これを偶然だと思うか?」
「それは……」
勇者として何回もの召喚と魔勇者としての覚醒を繰り返してきたフィラースの力は絶大だ。それをコウジという男が傷一つ負わずに耐えたのは事実だ。
「さらに瞬発的といえ、私の魔封じを一度突破した。ああ、今回は破壊されたか」
「金の腕輪を破壊したのは、あの王子です」
「どうやって?」
「……片手で握りつぶしました」
これもよく考えれば信じられないことだ。魔勇者の強力な封印を受けて、なお魔力を使ったこと。そして、本来ならば封印をとけるのはフィラースのみのそれを、片手だけで解除したこと。
「あの王子はまだ覚醒する前とはいえ、勇者の私と互角に戦った。あと二人、魔法少女と契約した王子はいたがな。しかし、その力には格段の差があったぞ。むしろ異様なほどにな」
そしてそれはコウジにもあてはまる。
「王子の力は雷光、すなわち光。そしてコウジは闇だ。本来、パートナー同士の属性は同じらしいがな。
光と闇。相反する性質を制御したものが、どれほどの力を持つか、それはお前がよくわかっているだろう?」
それはデクスの目の前にいる人物だ。光の勇者と堕ちた闇の力を双方の力を持つ、魔勇者。
「あの王子の力はコウジと契約したからだ。あれが闇だから、光となったのか。もとからあの王子が光だから、コウジが闇となったかは知らないがな。
もう一ついうならば、コウジは私と同じ異世界から召喚されたものではない。あれの魂はたしかに異世界人のものだが、身体と能力を与えたのはあの世界の神だ」
「それも我らが侵略してきたどの次元よりも古いな……」とフィラースは続ける。
「人々は神話の時代を忘れ、科学という魔法を手に入れた。神々の手から人の運命は完全に離れ、すべては幻想の彼方にあると思っている。
だから、神の力は弱いと思うか? とんでもない。神々は確かにあの世界にあって、人の営みを見続けている。
その神がひさかたに手ずから創造したのが、あの男だ。本人には“御使い”の自覚などかけらもないがな」
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