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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~
【18】優しさだけでは…… その2
しおりを挟む魔王はそれを狙っているのかもしれない。民衆による支配者の排除のあとの、魔王様の善政は大歓迎されるだろう。さすが元革命家らしい考えだ。
フィルナンド王は「それに魔王支配となれば、王家が“領主”として管理できるのは、直轄領のみとなる」と続ける。
「貴族達もまた魔王の直属の領主として、独立した運営となろうな。そのときに奴らが自分の取り分を減らすとは思えん。必ず魔王への上納を増やすどころか、それを口実に領民に重税を課しかねん」
貴族の領地は王家から独立はしているが、その税率はフォートリオンの法により、国と同じと定められており、それ以上の領主の搾取は禁じられている。
贅沢に溺れ借金まみれの領主の中には、自分の領地でなぜ好きにとりたて出来ないのか。不満を漏らす者も多い。とはいえ強い王権の目が光っているために、好き勝手出来ない現状ではある。
「余は民が農奴同然の重税にあえぐ様などみたくもないぞ」と憂い顔で嘆息するフィルナンド王は、老獪ながら良き統治者といえるだろう。影の災厄であった正妃アルチーナからもたらされた毒の影響とはいえ、愛妾をとっかえひっかえし四十五人もの王子をもうけた恥知らず……もとい艶福家の王が、それでも国民に愛されているのはこの理由がある。私生活はともかく、彼は政においてはよい統治を築いてきた。
「全面降伏を受け入れないならば戦争ということになりますね。その前に条件交渉の引き延ばし策が出来るかどうかですが……」
そのピートの言葉に「無理だろうな」とコウジは返す。
「フィラース……魔王の性格からすると、あいつは無駄なことに時間はかけねぇよ。こちらが拒絶した途端に、先頭きって軍を率いてくるはずだ」
フィラースと名前を口にしたとたん、となりの王子様の剃刀色の瞳が剣呑な光を放ったのに『このヤキモチ妬きが』と思う。テーブルの下のお手々の甲をなだめるようになでなでしてやれば、当然のように握りしめられた。よしよしとこちらも握り返す。
「魔王軍との戦いとなれば、我が軍は圧倒的に不利であろうな」
フィルナンド王が悲観するでもなく淡々と言う。
フォートリオンは豊かで平和な国だ。虚海で隔てられているために、いままで他国との戦争など一度もなかった。先のモルガナの聖女襲来という例外はあれどだ。
軍があるのは百年に一度の災厄への備えと、魔獣対策。治安維持や要人警護のためだ。それに工兵によるインフラ整備とまったく平和な軍隊といえた。
当然兵士の数も少なく、これだけの大国で予備役も含めて五千がいいところだろう。魔王軍相手となればまともに戦えるのは魔法騎士となるが、その数はさらに少なく、およそ五百人あまりとこれでは話にもならない。
「なにもまともに戦う必要はねぇ」とコウジは口を開く。
「狙うは大将首一つ。奇襲だろうがだまし討ちだろうが、魔王の首をとればいいことだ」
その発言にシオンが「わたしは反対よ」と口を開く。それにコンラッドが。
「その奇襲攻撃が成功する確率はどれほどのものだ? 話によれば魔王は万ともいえる軍に守られているというではないか? どうやってそこまで到達する?」
「万の兵をかき分けるなど、それこそ愚かだ」と言ったのはジークだ。
「勇者として、私は魔王に一騎打ちを申し込む」
その言葉に円卓会議の間は一瞬静寂に包まれた。フィルナンド王が口を開く。
「魔王がそれを受けるか?」
「受けるさ」とコウジが答えた。「魔王として勇者の挑戦を奴は受けざるをえない状況に追い込む」とざっと、神域経由で自分達はこのフォートリオンにきた。そのときアルタナ女神と話し合ったことを説明する。
コウジの世界の神が同席していたことは話さなかった。まあ、これは話し出すと自分の恥ずかしい暗黒の中二病設定にまでおよびそうだし、ややこしいからだ。
その話を聞いてフィルナンド王が再度訊く。
「勝機は?」
「勇者ってのは魔王に勝つように出来てるもんです」
コウジは続けて「どっちにしろ魔王の首をとらなきゃ、この世界はおしまいだ」と肩をすくめる。魔王と魔界の侵攻を退けるには、この方法しかないのだと。
「わたしは反対です!」
「マイアちゃん……」
円卓会議においてまず発言をしたことのない、少女が口をひらいたのにコウジは目を丸くする。マイアは、その瞳を潤ませて。
「だって魔王を倒したら勇者は、次の魔王になるんでしょう? ジーク・ロゥさんがそんなの……わたしは嫌です」
マイアの涙ながらの言葉に円卓は再び重苦しい沈黙に包まれる。
フィラースの急変と魔王との関係を、コウジとジークは先にみんなに説明していた。驚愕の勇者召喚の真実や、魔勇者となったフィラースがたどってきた道のりもだ。
そして、そのフィラースが今度こそ真実の魔王となって、ジークが勇者として選ばれたこともだ。
「マイアちゃんは優しいな、ありがとう」とコウジは、無言のジークに変わって口を開く。
マイアだけではない。シオンとコンラッドが反対したのも同じ理由だろう。彼らもまた沈鬱な表情で黙りこんでいる。
しかし、優しさだけではこの国を、世界を守れないのも事実だ。
「魔王を倒し、次の魔王となったお前はどうなる?」
「しばらく眠りにつくという話です。目覚めたときには次の魔王となっていると」
フィルナンド王の質問にジークが静かに答える。コンラッドが「父上」と声を荒げる。
ピート王子は苦しげな表情で沈黙したままだ。この幼い王子は生真面目で激情家の兄よりも、冷静というより達観しているが故にわかっていて、だからこそ苦しいのだろう。
いや、コンラッドがわからないわけではない。フィルナンド王の静かな視線を向けられて「我らは国と民を守らねばならぬ」と言われると、それ以上はなにも言えずにうつむく。
「コウジ、お前はどうなる?」
「俺は相棒に付き合うことになりますよ。もともとも一蓮托生のパートナーだ」
「それに一人より二人のほうが長い旅もつまらなくないだろう?」とコウジが言えば、フィルナンド王は「そなたらしい」と微笑む。
そして「息子をよろしく頼む」という王にコウジは「ん……」とうなずく。
「ロンベラス」とフィルナンドは次に将軍の名を呼び。
「二日後の期限の日に、王宮にて魔王との交渉の場を設ける。万が一の場合にそなえて、王都の民を全員避難させよ。そなたに指揮を任せる」
ロンベラスは「御意」とフィルナンド王に応え、次にジークに向い深々と一礼して円卓の間を出て行った。
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