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【59】秘密のお茶会

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 出された豪奢な夕餉にも、ダンダレイスは手を付けず食事はそのまま下げられた。監視の近衛騎士達はそんな彼に言葉をかけることなく、冷めた食事を満載したワゴンを押して出て行った。
 水差しに水もあるが、それも手をつけることは出来ない。鑑定魔法により微量の毒が入っているのは明らかだ。
 それも降りつもればやがてこの身体をむしばむ。
 しかし、飲まず食わずでいれば……とくに水をとらねば三日でこの身体も参るだろう。

 しかし、彼はとくに焦りは感じているそぶりもない。ソファーにこしかけて傍らのクッションにゆったりと目をやる。

「待っててくれといったのに、ついてきてしまうなんて」

 もそもそとクッションが動いて、そこから姿を現したのは小さなチンチラの姿のアルファードだ。

「大人しく俺がしたがうと思ったか?」

 と胸を張れば、大きな手が差し出されてその上に乗った。
 駅でダンダレイスを見送ったフリをしたアルファードは第三騎兵団の者達のなかに紛れ込み、小さな姿となってダンダレイスのあとを追いかけたのだ。
 彼が護送される馬車の荷台の下に身を隠し、王宮に潜り込んで近衛兵達に囲まれるダンダレイスのあとについて、この監獄塔までやってた。扉は目の前で閉められてしまったが、夕餉の食事のワゴンに潜り込んで、この部屋の中にまでたどりついた。

「腹が減ったし、喉もかわいた」

 ぽつりとアルファードがもらせば「その水は飲んでは駄目だぞ」とダンダレイスがいう。

「わかっている。誰が毒入りなど飲むか」

 こんなときは……と思えば、アルファードの前には瞬時にして透ける“例の画面”が現れる。
 神zonの画面にはなぜか、たった一つしか商品がなかった。

「チンチラちゃんお茶会セット。チンチラちゃんも彼氏も食べても大丈夫! って……彼氏ってなんだ?」

 ぶつぶつ、いいながらタッチパネルを押せば、瞬時にして銀の盆に並ぶサンドイッチにスコーンに、色とりどりのマカロン。そしてティーポットにチンチラサイズと人間様用サイズのカップが二つ現れた。
 さらに茶だけでは足りないだろうとばかり、ミネラルウォーターのボトルが置かれていた。横になぜか謎のスポイトが……。

 ペットボトルを手に首をかしげているダンダレイスに、「その青い蓋をねじるんだ」と教える。彼はよほど喉が渇いていたのか、一本一気飲みして「人心地ついた」と微笑んだ。
 スポイトは……もう一本開封したペットボトルの水を吸い上げてもらい、細い口からちゅうちゅうと今度はアルファードがのんだ。

 なるほど便利だ。

 サンドイッチもスコーンも、大好きなマカロンも食べて満足して、小さなカップでお茶飲みながらアルファードは「これからどうする?」と訊ねた。

「ここから出なければならない」
「……抵抗もせずに捕まっておいてか」

 まあダンダレイスがそうした理由はわかっている。
 あそこで彼が拒否すれば、第一騎士団の近衛と、第三騎兵団がぶつかることになる。
 そうなればレジナルド王子謀殺の“容疑”どころではない。宰相側はダンダレイスと第三騎兵団をただちに叛逆者と断じるだろう。
 もちろん大人しくやられるようなダンダレイスと第三騎兵団ではないが、そうなればモーレイ領も巻き込んだ内乱へと突入することになる。

 ダンダレイスはこの愚かな争いを避けるために、大人しく捕まった。
 それもあのずる賢い宰相も承知の上だとわかるのが腹立たしいが。

 「疑問がある」とダンダレイスがいう。

「なんだ?」
「レジナルドはもういないというのに、なぜストルアン宰相が私を陥れようとしたかということだ」
「それは、狂った親心という奴ではないか? 気の毒だがレジナルド王子は死んで、お前は生き残った。あの宰相夫妻からしたら、お前を憎たらしく思って当然だ。逆恨みもいいところだがな」
「もちろんそういう感情はあるだろう。しかしキャスリーン公爵夫人がいくら嘆こうとも、あの宰相が私情だけでこのような愚かなことをするとは、通常では考えにくい」

 ダンダレイスは続ける「ストルアンの治世は清廉潔白とはいえないが、治政者としてよくやっている」と。それは前にも聞いた言葉だった。

「レジナルドが倒れて王にならないとしても、私を陥れたところで意味などないんだ。私はモーレイの盾。けして王になることはない」

 そして、直系でないとはいえ、王族の男子は幾人かいるのだと、ダンダレイスは続ける。

「ストルアンならば、その王の下で宰相職を続けることも可能だろう。それを私をありえもしない罪で捕縛し、さらには毒殺しようとするなど……それをお爺さまが、陛下が黙っているはずもない」

 アルファードは別宮にいる老王を思い出した。たしかに王がなぜ動かない? と訊ねる前に、ダンダレイスが「お爺さまの身柄もおそらく拘束されている」と告げる。それにアルファードは息を呑む。

「叛逆を起こそうとしているのは、宰相のほうか?」
「そうだ。だがこんな“ずさん”な計画、成功するわけがない。ローマンの様子はおかしかったが、他の近衛団員達は戸惑っている風だった。ゴドフリーの第二騎士団はいくらでも丸め込めるだろうが、第三騎兵団は不可能だ。
 国を二つに裂くつもりなどないが、モーレイ領単独で国と長く戦える力は十分ある。逆にあちらのほうが損得尽くの貴族達とその私兵をまとめられるかどうか」

 やはりおかしい……とダンダレイスはもう一度つぶやく。

「この陰謀は後先など考えず、王家と国の混乱だけを望んでいるようだ。まるで破滅のみを欲するように……」





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