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【59】また会えたな
しおりを挟む二つの組の対立を煽った黒幕がわかった。
小ずるい知恵と逃げ足の速さだけでのし上がった政治家。
ジョウとヤツと二人だけで、その政治家のアジトへと乗り込んだ。金で雇われた外国人傭兵を蹴散らして、ジョウは私腹で太った身体に鉛玉をぶち込んでやった。
ヤツは舎弟の形見だった、ドスをその腹に突き立てた。
小男が血の海の中でのたうち回るのを、二人とも背を向けてその場を去った。
そして、夜の海岸。
二人しかいない。
ぽうっとヤツがライターで火をつけるのをジョウは見た。自分が口にくわえていたそれを寄せれば、ヤツが煙草の先と先をくっつけて火をつけた。
「なあ、来世ってヤツがあるとしたら」
ジョウ自身でもなんでそんなことを口にしたか、わからない。
「どうしたい?」
組もしがらみもない世界でという意味を込めた。
「お前と会う」
ヤツは即答した。ジョウは軽く目を見開いてから、くすりと笑う。
「いいな、じゃあ、今度は恋人にでもなってやるか」
これも冗談。
死んだヤクザに来世なんてあるものか。
行く先は地獄だ。
煙草を吸い終えた。それが合図。
肩を並べて暗い夜の海を見ていた二人は、離れて向かいあう。
ジョウは相棒の白い銃を構え。
ヤツは白木の愛刀を抜いた。
こちらに駆けてくるヤツの心臓に一発。
胸の中央に赤い花が咲く。
だが、ヤツは止まらない。
ジョウの胸を刀が貫いた。
「なぜ、腹を撃たなかった?」
口から血をこぼしながらヤツが訊く。
心臓を撃っても致命傷だが、しばらくは動ける。
腹に鉛玉を食らわせれば激痛となって、たいがいの人間は動けなくなる。
「腹ぁ撃ったって、お前は止まらねぇだろう?」
ジョウはごほりと血を吐きながら言う。
のたうち回るような痛みだろうと、絶対にコイツは止まらない。
「俺にトドメ刺したあと、地面で無様に転げ回るお前なんて見たくなかったんだよ」
どうせ死ぬなら潔く散る桜のように。
行き先が地獄の極道の死に様としては理想だろう?
先に膝から崩れ落ちるジョウを、ヤツが抱き留める。結局二人とも膝をついてしまったが。
「来世、約束だぞ」
「は、あんな冗談覚えていたのか?」
いつもながらの生真面目な頑固者に笑って、ジョウはカラリと白い銃を砂浜に落とした。その両手をヤツの背に回す。
先のクソ黒幕の襲撃でヤツのスーツの背は切り裂かれていた。指先ががさりと凹凸ある皮膚にふれた。
背中全体に広がる火傷の痕。
そして、ヤツの大きな手もジョウの引き裂かれたシャツの背に触れていた。そこには百合の花に囲まれた観音が微笑んでいる。
「綺麗だな」
「刺青か? この観音は極楽には送ってくれないぜ」
「お前がいればいい」
「……いいぜ、来世は本当に恋人にでもなんでもなってやるよ」
そして、二人顔を寄せ合って。
血濡れのキスをした。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「目が覚めたか?」
気がついたら、また夢の続きのようにヤツの……シグアンの腕の中。
ジョウは真っ先に、シグアンのなぜか着ているチュニックの合わせをがばりと開いて、その胸を確認した。
「傷が塞がっている」
「ああ、治った」
シグアンが返す。
そういえば自分もしっかり白のチュニックを着ていた。しかも血染めでもないし、下半身はシグアンだけじゃなくて、自分の吐きだしたものでぐちゃぐちゃだったはずだが……。
「お前が寝ているあいだに綺麗にしておいた」
「そりゃどうも」
生活魔法って便利だな~と思う。風呂に入らないでも一瞬で綺麗になる。汚れたり破れたりした衣も元通り。
「思いだした」
シグアンの言葉にジョウもうなずく。
「俺もな、どうして死んだのかわからなかったが、俺の心臓貫いたヤツが目の前にいるぜ」
二人ともに記憶が蘇ったのだと、確認するかのように顔を見合わせて、ニッと口の両端をつり上げる。
「会うと言っただろう?」
「しつけぇんだよ、お前は」
なんの因果か、ヤツは……シグアンはこの世界の遠い昔に転生したのだ。
「私が神々と交わした約束はお前に会うことだった」
「そいつを忘れるほど、生まれ変わりをくり返してか?」
「ああ、やっと会えた」
その言葉に知らずに涙があふれた。シグアンの唇がその頬の涙をぬぐい、そして、唇が重なりあう。
今度は血濡れではなく、胸に広がる甘い気持ちは幸せってやつなのだろうか? と照れくさくなる。
長い長い口づけだった。
それでもシグアンがくり返した転生の時間を埋めるように。
離れがたくて、息継ぎの度に唇を少し離しては、また重ねて、舌を絡めるをくり返す。
「……あの」
「…………」
「…………」
「あの……ちょっとよろしいかしら?」
そこにかけられた、野暮な声にジョウはシグアンが唇を離さずに、ギロリと横目で見た。
そこには困惑した表情の金色に輝く女性がいた。
そのキンキラの髪飾りや服の装飾には見覚えがあった。
ジョウの背中で微笑む、観音。
そう、女神オルテナだ。
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