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【60】女神の嘘
しおりを挟む女神オルテナは黄金に輝いていた。
いや、彼女のいる空間そのものが……だ。
どうやら、ここはシグアンとジョウが張った黄金の鳥籠の結界ではなく、神々のいる次元に招待されたらしい。
そして、光輝く彼女の後ろには、豪奢な寝台があった。
そこに横たわるのは、巨躯の鬼神。
男神オルテガだ。
両目もその額にある第三の目も閉じられている。
深い眠りに就いているらしい。
だが、その全身から立ち上るわずかな『邪気』に、シグアンもジョウもぴくりと肩を揺らした。
これは【蝕】の気配だ。
この世界の二柱である神がなぜ、そんな気を発している?
「ええ、そう。人界を揺るがしている【蝕】は全て、彼の身体からこぼれ落ちたもの」
女神は眠る男神こそが、厄災の源なのだと素直に認める。
「オルテガとわたくしが、この世界を創り上げてしばらく、異界より飛来した【悪神】と長い長い戦いとなりました」
【悪神】とはいえ、神は神。互いに譲らない戦いとなったという。
「それでもわたくしたち二人は力を合わせて【悪神】を倒しました。ですがその亡骸から邪気があふれた」
このままでは人界が穢れの地となる。
男神オルテガは、迷いなくその悪神の亡骸を己の中に取り込んだ。
彼の肌は青く染まり、額には第三の目が現れ、鬼神となった。
そして、浄化のために長い長い眠りについたという。
「それでも、ときどき彼の身体から、わずかな黒い汗が人界へとこぼれ落ちてしまうの」
あの【蝕】が『わずか』なのか? と思うが、神様スケールから言えばそうなるのだろう。
「そのときにシグ……【聖者】がやってきたと?」
「ええ、そう。彼はあなたに会いたいと、とても強い、強い願いを持っていたわ」
ジョウの言葉に女神は頷き、横に立つシグアンを見る。
「異界から渡ってきた『モノ』は強い。それが本来不可能な『人』ならばなおさら」
「女神オルテナ、あなたは言った。今世ではおジョウに会えなくとも、【聖者】として【蝕】を祓い『転生』を続ければ、いつか巡り会うだろうと」
シグアンが口を開く。淡々と女神との約束の内容だけを語る。気が遠くなるほどの繰り返しの転生で忘れていた『約束』をすっかり思いだしたようだ。
「ええ、そう。あなたの会いたい人がこちらに来るまでは、ほんの少しだけ時間のずれがあった」
何百回なのか? それとも何千回なのか? 、その転生が『ほんの少し』なのかよ? とジョウは文句を言いたくなったが。
「彼の長い眠りにとっては、瞬きほどの時間」
女神は切なくも愛しいという眼差しで、眠りつづける男神を見る。
「オルテガはわたくしと創り上げた世界を愛していたわ。それが自分からこぼれ落ちたものが災いとなったと目覚めたあとで知ったならば嘆くでしょう。だから、わたくしは少しでも、それを和らげたかった。それが刹那であっても」
人間にとっては強い『願い』と『約束』を忘れるほどの長い長い時間。
だが、神々にとっては刹那とは……。
まるで蟻と象の時間のようだと、ジョウは思う。
そんな女神に騙したな! と叫んだところで、彼女にはわからないだろう。
「おジョウに会えた。あなたには感謝している」
シグアンが言った。
ヤツこそ、女神の嘘の最大の被害者だろうに。
長い時の果てで会えたのだから、たしかにヤツの『願い』は叶ったといえるのだろう。
しかし、時間か掛かりすぎだ。
それでも礼の言うのかよ。このクソ真面目め!
なら、俺も神様のフォロー不足を追及できねぇじゃないかよ! とジョウは内心の憤りを呑み込んで。
「それで、俺達が居なくなったあとはどうなるんだ?」
「人界は時々【蝕】に見舞われるわ。それでも、人も植物も動物も生きていくでしょう。穢れた大地もまた長い時をかけて自身を浄化し、元の暮らせる土地に戻る」
女神は淡々と答えた。
【蝕】で棲む土地を追われようとも、たしかにそれでも生きていくのだろう。
生きているなら、生きていかねばならない。
「なら、俺達が【蝕】を祓い続けるのはどうだ?」
「え?」
女神はわからないという顔をする。神様でもわかんないのかよ? とジョウは苦笑し。
「だから、俺達が【聖者】と【聖女】として転生して【蝕】を祓えば、地上は元通り平和ってわけだ」
「あなた言っている意味がわかっているの? オルテガが目覚めるのは、まだまだ先の話よ。人間にとっては、それこそ気が遠くなるほどの転生の果てだわ」
シグアンがくり返した転生を『刹那』と例えたのに、女神様が慌てたように口にする。
男神が目覚めるのは本当に神様でさえ、長い長い間なのだろう。
しかし、それこそ『俺達の望むところ』だと、シグアンを見れば、ヤツもうなずく。
「それって、転生したその先もずっと、コイツと一緒ってことだろう?」
「ならばいい。おジョウとはもう離れる気はない」
ジョウが横のシグアンを親指でくいと指させば、シグアンも女神に告げる。
「「地獄果てまで一緒だと約束した」」
二人顔を見合わせて、ニイッと口の端をつり上げた。
「……あなた達、異界の人間ってそうなの? 信じられないわ」
女神が呆然とつぶやいた。
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