【完結】極道聖女

志麻友紀

文字の大きさ
60 / 62

【60】女神の嘘

しおりを挟む

 

 女神オルテナは黄金に輝いていた。
 いや、彼女のいる空間そのものが……だ。
 どうやら、ここはシグアンとジョウが張った黄金の鳥籠の結界ではなく、神々のいる次元に招待されたらしい。
 そして、光輝く彼女の後ろには、豪奢な寝台があった。
 そこに横たわるのは、巨躯の鬼神。
 男神オルテガだ。
 両目もその額にある第三の目も閉じられている。
 深い眠りに就いているらしい。
 だが、その全身から立ち上るわずかな『邪気』に、シグアンもジョウもぴくりと肩を揺らした。
 これは【蝕】の気配だ。
 この世界の二柱である神がなぜ、そんな気を発している? 

「ええ、そう。人界を揺るがしている【蝕】は全て、彼の身体からこぼれ落ちたもの」

 女神は眠る男神こそが、厄災の源なのだと素直に認める。

「オルテガとわたくしが、この世界を創り上げてしばらく、異界より飛来した【悪神】と長い長い戦いとなりました」

 【悪神】とはいえ、神は神。互いに譲らない戦いとなったという。

「それでもわたくしたち二人は力を合わせて【悪神】を倒しました。ですがその亡骸から邪気があふれた」

 このままでは人界が穢れの地となる。
 男神オルテガは、迷いなくその悪神の亡骸を己の中に取り込んだ。
 彼の肌は青く染まり、額には第三の目が現れ、鬼神となった。
 そして、浄化のために長い長い眠りについたという。

「それでも、ときどき彼の身体から、わずかな黒い汗が人界へとこぼれ落ちてしまうの」

 あの【蝕】が『わずか』なのか? と思うが、神様スケールから言えばそうなるのだろう。

「そのときにシグ……【聖者】がやってきたと?」
「ええ、そう。彼はあなたに会いたいと、とても強い、強い願いを持っていたわ」

 ジョウの言葉に女神は頷き、横に立つシグアンを見る。

「異界から渡ってきた『モノ』は強い。それが本来不可能な『人』ならばなおさら」
「女神オルテナ、あなたは言った。今世ではおジョウに会えなくとも、【聖者】として【蝕】を祓い『転生』を続ければ、いつか巡り会うだろうと」

 シグアンが口を開く。淡々と女神との約束の内容だけを語る。気が遠くなるほどの繰り返しの転生で忘れていた『約束』をすっかり思いだしたようだ。

「ええ、そう。あなたの会いたい人がこちらに来るまでは、ほんの少しだけ時間ときのずれがあった」

 何百回なのか? それとも何千回なのか? 、その転生が『ほんの少し』なのかよ? とジョウは文句を言いたくなったが。

「彼の長い眠りにとっては、瞬きほどの時間」

 女神は切なくも愛しいという眼差しで、眠りつづける男神を見る。

「オルテガはわたくしと創り上げた世界を愛していたわ。それが自分からこぼれ落ちたものが災いとなったと目覚めたあとで知ったならば嘆くでしょう。だから、わたくしは少しでも、それを和らげたかった。それが刹那であっても」

 人間にとっては強い『願い』と『約束』を忘れるほどの長い長い時間。
 だが、神々にとっては刹那とは……。
 まるで蟻と象の時間のようだと、ジョウは思う。
 そんな女神に騙したな! と叫んだところで、彼女にはわからないだろう。

「おジョウに会えた。あなたには感謝している」

 シグアンが言った。
 ヤツこそ、女神の嘘の最大の被害者だろうに。
 長い時の果てで会えたのだから、たしかにヤツの『願い』は叶ったといえるのだろう。
 しかし、時間か掛かりすぎだ。
 それでも礼の言うのかよ。このクソ真面目め! 
 なら、俺も神様のフォロー不足を追及できねぇじゃないかよ! とジョウは内心の憤りを呑み込んで。

「それで、俺達が居なくなったあとはどうなるんだ?」
「人界は時々【蝕】に見舞われるわ。それでも、人も植物も動物も生きていくでしょう。穢れた大地もまた長い時をかけて自身を浄化し、元の暮らせる土地に戻る」

 女神は淡々と答えた。
 【蝕】で棲む土地を追われようとも、たしかにそれでも生きていくのだろう。
 生きているなら、生きていかねばならない。

「なら、俺達が【蝕】を祓い続けるのはどうだ?」
「え?」

 女神はわからないという顔をする。神様でもわかんないのかよ? とジョウは苦笑し。

「だから、俺達が【聖者】と【聖女】として転生して【蝕】を祓えば、地上は元通り平和ってわけだ」
「あなた言っている意味がわかっているの? オルテガが目覚めるのは、まだまだ先の話よ。人間にとっては、それこそ気が遠くなるほどの転生の果てだわ」

 シグアンがくり返した転生を『刹那』と例えたのに、女神様が慌てたように口にする。
 男神が目覚めるのは本当に神様でさえ、長い長い間なのだろう。
 しかし、それこそ『俺達の望むところ』だと、シグアンを見れば、ヤツもうなずく。

「それって、転生したその先もずっと、コイツと一緒ってことだろう?」
「ならばいい。おジョウとはもう離れる気はない」

 ジョウが横のシグアンを親指でくいと指させば、シグアンも女神に告げる。

「「地獄果てまで一緒だと約束した」」

 二人顔を見合わせて、ニイッと口の端をつり上げた。

「……あなた達、異界の人間ってそうなの? 信じられないわ」

 女神が呆然とつぶやいた。







しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...