【完結】極道聖女

志麻友紀

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【61】あとの始末

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 帝都に垂れ込めていた曇天の空が晴れ渡り。
 その光の中、神殿の塔に立つシグアンとジョウ、二人の姿を見て、スインの細い目から涙があふれた。

「お二人ともご無事で……」
「お前、そのスジみたいな目から、泣けたのかよ?」

 ジョウの言葉に「ひどうございますよ」とスインは泣き笑い。シグアンは「帰った」とひと言、告げた。
 帝都は【大蝕】が祓われた喜びに包まれた。周辺の街や村々もそれは同じで、そこから停止していた食料が帝都へと山のように運びこまれてきた。
 家の中や路上で静かに祈りを捧げていた人々は、今度は「祝いだ!」「祝いだ!」と明るい声をあげた。
 帝都は一気に祝祭ムードとなって、運びこまれた食料はすべての人々に平等に分け与えられた。山ほどの肉にパンに温かなスープにワインにエール。子供達には焼き菓子を。
 祝いは三日三晩続き、人々の声に応えて、神殿の広場側のバルコニーに、シグアンもジョウも何回出たかわからなかった。みんなが喜ぶ姿に、二人は微笑みを浮かべて、顔を見合わせた。
 そしてシグアンとジョウ、それにスイン達神官も、帝都民の歓声に送られて、大神殿へと帰った。
 【大蝕】が祓われたというのに、皇帝以下の貴族達は、三日間ついに帝都へ戻ることも、知らせ一つよこすこともなかった。
 これについて人々は。

「お偉いさん達が我先にと逃げ出して、今さらどんな顔で戻って来たらいいかわかんないんだろう」

 と馬鹿にしたように話していたが。
 さて、他に『戻って来られない事情』があるのかもしれない。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 大神殿。

「ほ、本当に生きて戻ってきたのか?」

 ドーム屋根の下の転送陣の祭壇にて、法王アディオダトが待ち構えていた。その顔色はなぜか真っ青だ。
 というか、シグアンとジョウが転送されてきて、その第一声がそれとは、ずいぶんと失礼ではある。
 が、ジョウはそれをさらり流して、優雅に腰を折って一礼した。

「猊下におかれましては、お出迎えありがとうございます。私達はこうして『神々の加護』によって生きて無事に戻ることが出来ました」

 『神々』の言葉に、アディオダトはさらに真っ青になって、ガタガタと震え出す。

「神の奇跡だと……聖女の力など本当にあるとは……」

「なにをおっしゃるのです? 猊下」
 そのぜい肉もぶるぶる震え出すのを、ジョウは笑いをこらえて続ける。

「神の一番の僕たる猊下が、その奇跡を信じなくてどうされるのです? そのような不信心なお言葉。神々より『天罰』が……」
「ぎゃあああああああ! ワシはまだ死にたくない!」

 とんでもない悲鳴をあげて、アディオダトは頭を抱える。「た、助けてくれ!」とこちらに両手を伸びるのを、ジョウは後ろに飛び退いてよけた。

「…………」

 シグアンが無言でジョウをその背に庇ってくれる。その彼に向かいアディオダトは「助けてくれ!」ともう一度くり返し、その腕をすがりつくように握りしめて。

「ワシは死にたくなどない! あれはやはり天罰なのか?」
「あれとは?」

 シグアンが訊ねる。

「あ、兄上が……皇帝陛下が亡くなった! それだけではない、大公も、公爵もだ!」

 【大蝕】が祓われた夜。全員が全員、いきなり苦しみ七転八倒した末、亡くなったのだという。
 皇帝以下の帝国の主な皇族、貴族の当主全員が……だ。

「死んだ者達の顔は、いずれも苦しみに歪んだ壮絶なものだったという。帝都を捨てて逃げた罰だと、みんな言うておる!」



『うん、知ってた』
 と、ジョウは内心でケロリと思う。
 なにしろ女神様に聖者と聖女の『契約延長』の取引条件としてジョウが望んだのだ。

「罪にまみれた彼らの魂を消滅させるなど、造作もないことよ。だけど、罪人であっても、たくさんの命。それを願うことは、あなた達の魂も転生の果てに闇にさまようことになるわ」
「それがどうした? 極道の行く先なんて、無間地獄に決まっている」
「私はこいつの手を離すつもりはない。二人ならば地獄だろうとどこだろうと構わない」

 「……本当にあなた達って」と女神オルテナは呆れた様にまたつぶやいていたが。



「猊下は帝都を逃げ出されたわけではないでしょう?」

 スインが告げる。その細目はやっぱり笑っているんだがいないんだか、なに考えているんだかわからない。

「そ、そうだ。ワシは逃げてはいない。ここにいた」

 ほうっとアディオダトは息をつくが。

「ですが、皇帝陛下以下方々のご葬儀でこれから帝国は大変にございましょう。猊下におかれては親しい方々のお悔やみもされたいでしょうし、一度帝国に戻られてはいかがでしょう?」
「あ、あのような恐ろしい場所に戻れるか! 今度こそワシは殺される!」

 安堵したのもつかの間、アディオダトはまた「ひいいっ!」と悲鳴をあげる。

 





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