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『とある乙女のお話』

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私はずっと王子様に憧れを抱いていた。
きっと運命の王子様が、この、暗い暗い世界から、助けてくれる、と。
だが、もう半分以上諦めていた。
いつまでたっても王子様は現れず、誰もこの暗い世界には、来なかった。
「なんで?見えないの?助けてよ・・・」
辛い辛い辛い辛い。ひとりばっちになって、もう2年はたった。
そう、私は奴隷だ。
奴隷は、買われ、売られ、その対価として、痛ぶられ、殺されたりする。
この子は、まだ、買われない。
だからこそ、王子様を待っていた。
助けてくれる、王子様。
誰でもいい。女でも。でも、出来るなら王子様。
奴隷だって、欲望を持ったっていいじゃないか。
なにがいけないんだ。だから、お願い。
私を、救って。


          ☆


『俺はお前の剣だ』
「知ってる。だから、名前は?」
『ないよ』
カードから出てきた、2本の剣。
ひとつは刀、ひとつは剣。
『名前な・・・。考えたことないよな』
『そう、だね』
「へぇ、剣同士で会話できるんだ」
『まあな』
(名前か・・・。)
その時、狼竜にピンッ、と来るものがあった。
「王牙と、インクルシオは?」
『王牙?』
『インクルシオ?』
「うん。いや、か?」
少しだけ、沈黙が続く。
『いや、じゃない。嬉しいんだ』
『そうだね』
すると、突如剣たちが光った。
(また、光るのか?)
いや、今度は瞑らない!
かすかに見える。
剣が・・・動いてる?
光がいっそう増した。
だめだ・・・。眩しい・・・。
目を瞑った。
「お、これが人間の身体が・・・」
「そう、だね」
2人の、裸の、女の子がいた。
「なん、でだああああああぁぁああああ!」
と、外面では叫び、きちんと身体を見ていた狼竜。
ひとりは肌が程よく黒く、何よりも巨乳。
もうひとりは肌は白く、幼い感じがある。
そして、何よりも。
(かわっいい~~!!!)
サクラよりも、いや、同じぐらい可愛い。
この子たちが剣?笑わせんなよ。
最高だあああああああ!!
(と、取り乱したな。男の本能だ、しゃーない)
「変態が」
「変、態」
もうなんで俺の周りはこうして、人の心が読めるの?何なの?酷くない?
『酷くないぞ、貴様と私達の意思は繋がっている。あと、巨乳とか言うな』
『そう、だよ?私、幼く、ないよ?』
(ううぅ。全部聴こえたのかよ、あああああもう可愛いなぁ!可愛いな!可愛いよ!ねえ!)
ちょっといたずらをしてみた。
どちらも赤面をしていた。
「かわっいいだなんて、そんにゃ・・・」
「・・・」
「つうかさ、君たちだけ心読めるって酷くないですか?」
『なら、読んで、見れば?』
「うん」
王牙の心を読んだ。
(え、どうしよう。可愛いなんてそんな・・・。恥ずかしいヤツめ!サラッと言うなんて!たらしめ!死んじゃえ!)
(せ、精神的に傷つくよ・・・)
「こ、心を読むって怖いな・・・」
「それより、話、あるんじゃ、ないの?」
「あ、ああ。名前は王牙と、シオンね」
「おう」
「うん」
3人になり、やっと本題に入れた。
「なんで最初から武器になってくれなかったの?」
「認めてないから」
「よわ、そう」
ガクッ、と膝をつく狼竜。
(ド、ドストレートやぁ!)
「い、今は?認めてくれたから?出てきたの?」
「まぁ、そうなるな」
「うん」
今度は2人の心を読んだ。
(強いのは分かったけど・・・。か、可愛いって・・・)
(幼い・・・。私ってそんな幼いかな・・・?)
「ま、全く本題と関係ないこと考えてる・・・」
「ま、私は王牙でいいよ」
「私も、インクル、シオでいい、よ」
「お、おっけー」
これで、狼竜の周りに女の子と、武器の名前が決まった。
屋敷内を歩いていると、ミラにあった。
「おーす。ミラ」
「おはようございます狼竜様。いったいどんな女の子の裸を見たんです?」
「だから心を読むなって!」
「くすっ。・・・おや?その剣はどうしたんですか?」
「俺の剣。出てきた」
「なるほど」
ミラと一緒に歩きながらサクラの元に向かう。
ミラによると、詳しくはわからないが、とりあえず酸素欠乏症が発生しているらしい。とりあえずは、医師が見ている。
医療室に着いた狼竜達は中に入る。
そこには、横たわるサクラがいた。
「それで、何があったんですか?」
「アスカと、クレイと一緒にモンスターを狩りに行った」
「はい」
「それで、スライムを狩っていたんだが、親スライムが来て、どんどん大きくなった。それで、サクラが飲み込まれたんだ」
「すぐに助けられなかったのですか?」
「ああ。殴るとサクラが苦しがった。衝撃をサクラに送っていた。剣も、切れ味が良くないと、斬れなかった」
「それで、その剣たちが現れた、と」
ミラはチラッ、と王牙達を覗きこむ。
「わかりました。セルム様には伝えておきます」
そう言い残し、医療室を出て行った。
(サクラ・・・)
すると、王牙とシオンが話しかけてきた。
『この娘、死んじゃうのか?』
「いや、大丈夫だと思うけど、心配で・・・」
『笑顔で、おかえりって、言って、あげなよ?』
「うん」
これで狼竜も医療室をあとにする。


          ☆


「サクラちゃん、復活です!!」
眠いまぶたをこじ開け、サクラを見る。
「あぁ、ただいま」
「いやなに、ただいまって・・・」
(いやでも本当によかったよ)
「今日は友達のところに行こう」
「友達?」
「うん」
玄関に向かい、靴を履いた。
外に出て、歩き出した。
太陽の光が眩しかった。
「友達って?男?」
「女だよ。ヨミ・フリースト」
「ふーん。俺、初めて会うよ?」
「私だって2年ぶり」
「2年?」
「1回引越しをしたんだ。それで、戻ってきた」
それで2年かと、思った。
「変わっているかな?」
家に着いて、ベルを鳴らす。
「あれ?いないのかな?」
「・・・」
ガチャ、と扉を開けて中に入る狼竜。
「ちょ、ダメだよ狼竜!」
「・・・」
やはり、な。玄関に軽くだけど血がついていた。殺されたか?
「どう?いた?」
「いや、多分殺されたか、奴隷か?」
「え・・・。嘘?」
「いや、奴隷だ」
1枚の紙を見つけた狼竜。それをサクラに見せる。
「ッ!?」
手紙にはこう書いてあった。
サクラへ。
あなたがここに遊びに来た時、私はいないはずです。もう会えません。ごめんなさい。
私は奴隷にされてしまうことになりました。
親に、私の親に売られました。
だから、会えません。
ごめんなさい。ごめんなさい。
「なんで、なんでヨミが謝るのよ・・・」
「・・・」
狼竜は黙って拳を握る。
(奴隷だと?ふざけるな・・・)
無言で立ち上がり、どこかへ行こうとするサクラ。
その手を掴み、止める。
「どこに行くんだ?」
「屋敷」
「見つけないのか?」
「無理だよ、見つけるのは不可能だよ」
「サクラが、か?」
「みんなだよ!見つけられるわけないじゃん!」
「サクラが望めば見つけだす。俺は君の・・・姫の騎士だ」
「なら、ヨミを・・・助けて!」
サクラの瞳から涙が零れた。
頭に手を置き、優しく撫でた。
「任せろ」
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