【R18】悪役令嬢(俺)は嫌われたいっ! 〜攻略対象に目をつけられないように頑張ったら皇子に執着された件について〜

べらる

文字の大きさ
1 / 6

01 世の中には、どれだけ頑張ってもどうしようもないことがある

しおりを挟む




 世の中には、どれだけ頑張ってもどうしようもないことがあると、俺は思っている。

 一つは、生まれた時に性別を決められないこと。


「シスベルティア様! よ、よよよかったらっ、こ、こここれを受け取ってください! 昨日、朝から並んで、やっとの思いで手に入れたんです!」



 俺は振り返った。
 目の前にいるのは、男子生徒二人。
 一人は、俺にチョコレート菓子を渡そうと顔を真っ赤にしている可愛い系男子。
 もう一人の細身系男子は、そんな可愛い系男子の肩を掴んで、あわあわしている。

「いらないわ」

 扇を口元に添え、目を細めて笑んでみせる。

「チョコレートはうちのパティシエが作ったものしか食べない主義なの」
「え、そんな……」
「ほら、だから言っただろ! 相手は学園一の美少女、シスベルティア様だぞっ! この前、クラスのイケメン男子がシスベルティア様に告白してこっぴどくフラれたんだぞ! おまえみたいなパッとしない男のプレゼントなんて貰ってくれるわけないだろっ!?」
「そうよ。プレゼントは貰い飽きてるの」
「ほら!」
「でもそうね、手ぶらで帰るのはつまらないわよね」
「「はい???」」

 男子二人は、ぽかんと口を開けていた。

「アブリッツェルってご存じ?」
「も、もちろん知ってます! 有名なアップルパイのお店ですよね!? 一度食べたらやみつきになるって、二カ月先まで予約が埋まっていて中々食べられないっていう!!」
「後で食べようと思ったのだけれど、あなたにあげるわ」
「え、しかも二個も!?」
「ちょうどいいじゃない。あなたと、あなたで、二人で食べればいいんじゃない?」

 細身男子と可愛い系男子の二人が、揃いも揃って俺の顔をガン見してきた。

「俺も!?」
「そ、そんないただけないですよ……! これものすごく高いんですよ!?」
「あげるって言ったらあげるのよ。それともなに、チョコレートをあげようとしたくせに私のプレゼントは受け取れないって言うの?」
「め、め、滅相もございません……っ!」

 持っていたバスケットを可愛い系男子生徒に押し付け、「失礼するわね」とだけ言い残してその場を去った。

「なぁ……シスベルティア様って」
「うん……見た目はキツそうだけど、実はめっちゃ優しいよね……」
「ああ……」
「俺、あの感じなら推せるわ」
「うん……僕も同感……」


 ────そんな二人の声は、俺の耳には届かなかった。

 なぜなら。

(よしよしよしよしよし……っ!)

 心の中でニマニマしながら、廊下を歩いていたから。

(どう!? どうどうどうどう!? 今の、俺史上最高の悪役令嬢っぽさが出てたんじゃね!? 庶民をみくだした悪女っぽい感じでいけたんじゃね!?)

 さっきの男子生徒も、俺のあまりの“悪役っぷり”に嫌気がさしたに違いない。
 
(長かった……! ほんっと、長かったぜ……!!)

 思い返せば汗と涙とヒヤリの連続。
 に慣れるまで、とんでもない苦労の連続だった。



 *



「あ、やべ。ここ乙女ゲームの世界だわ」

 シスベルティアとして生を受け、十八歳の誕生日を迎えたその夜。
 何の前触れもへったくれもなく、ここが乙女ゲームの世界であることに気付いた。といっても、俺は乙女ゲームなんてやったことのない彼女いない歴=年齢な陰キャ男子大学生。ここが乙女ゲームの世界であることに気付いたものの、メイン攻略対象の顔と名前すらうろ覚えの状態だ。

 そんな俺がどうして、ここが乙女ゲームの世界だと気付いたのか。
 それは俺の顔──正確にはシスベルティアの顔を見たからだ。攻略対象には興味が無かったが、“シスベルティア”というキャラクターだけはマニア級に知っていた。

 シスベルティア・ルート・ヴィオンゾーラ。

 ヴィオンゾーラ侯爵令嬢にして、学園一の美少女と謳われる最高に顔のイイ女。身長は165センチ、胸はDカップ。出るトコロは出て、しまるところはしまっている抜群のプロポーション。腰まで伸びた銀髪はエレガントで、紫の輝きを放つ瞳は灰簾石タンザナイトのように美しいキャラである。

『え、ドストライクなんだけど???』

 シスベルティアは、ヒロインでもヒロインの親友枠でもなく、ヒロインの恋路を邪魔する悪役令嬢的なポジションだった。

 俺が彼女を好きになったのは、ただ顔が良かったからだけじゃない。

『このゲームって、魔法がある世界だよな。それを使うのはマナっていう力……』

 ヴィオンゾーラ侯爵家は、豊富なマナを保有した能力者軍団だった。
 母は豊富なマナでどんな怪我もたちどころに治してしまう天才治癒師。
 父は豊富なマナでどんな強敵も打ち倒してしまう強面の剣豪。
 親族一同もそれぞれ得意分野があり、各界で富と名声と得ている。

 そんななか、シスベルティアはマナをほとんど持たずに生まれてきてしまった。

 シスベルティアは幼少期の頃、仲の良い友だちの陰口を聞き、そこから人間不信が始まった。

『なんてかわいそうな子なんだ、シスベルティア……いやここは、シスたんと呼ばせてもらおう……!』
 
 グッときた。
 だから乙女ゲームの世界に転生したと分かった時は、諸手を叩いて喜んだものだ。

(なんで男じゃないんだよ! せっかくシスベルティア……略してシスたんを生で拝めるチャンスだったのに!)

 人間不信になって性格が歪みに歪みまくったシスベルティアの傍に寄り添い、あわよくば恋人面できるかもって思っていたのに!

(なんでよりにもよって俺がシスベルティアなんだよ!!)

 しばらく、枕を手でバンバンした。わ……力まで女って感じ……俺、可愛い……。

「ってか俺……本当にシスベルティア、なんだよな……?」

 鏡の前で胸を揉んだりする作業を一通り行ったあと、俺はとある考えにいきついていた。

 とある考えというのは、ゲームの世界のシスベルティアと、いま鏡の中で俺を見つめているビューティフルレディ・シスベルティアは、微妙に違うのではないか、と。

 シスベルティアは歪んだ性格の持ち主で、メイド全員から怖がられているという設定だった。なのにさっき俺が大声をあげた時には、メイド達が大慌てで俺の部屋に入ってきたのだ。怖がられている人間が、メイド達にあんな心配されるわけない。

 つまり──
ゲームの世界に転生したものの、俺自身は悪役令嬢シスベルティアとして生きてない、ということになる。

(え、それ……まずくね……?)

 悪役令嬢ではないシスベルティアは、ただちょっと目つきが鋭いだけの美少女だ。

 シスベルティアの魅力が、攻略対象どもに伝わってしまう……!
 攻略対象に目をつけられたら、ヒロインなんて目もくれないスピードでモテてしまうに違いない。現に何年か前、パーティ会場で年上の男子たちに話しかけられ、アピールされまくったのだ……。

 おそらくこの容姿があれば、ちょっと笑いかけただけで攻略対象がホイホイ釣れる。まさしくイケメンホイホイ……シスベルティア、恐ろしい子……ッ!

(男に目をつけられるなんてありえねぇ……ッ)

 最悪だ、男から好かれるなんて願い下げだ。
 そこでふと、考える。
 悪役令嬢として登場していたシスベルティアは、攻略対象から嫌われていた。
 じゃあ自分もゲームの悪役令嬢っぽく悪女感を出せば、攻略対象──しいては男たちから嫌われ、かわいい女の子の友だちだけ作ってきゃっきゃうふふな幸せ百合ライフが送れるのではないか、と。

「これだ……!」

 こうして俺は、攻略対象から嫌われるために悪役令嬢の“フリ”をすることにしたのだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世話焼き幼馴染と離れるのが辛いので自分から離れることにしました

小村辰馬
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、エリス・カーマインに転生した。 幼馴染であるアーロンの傍にに居続けると、追放エンドを迎えてしまうのに、原作では俺様だった彼の世話焼きな一面を開花させてしまい、居心地の良い彼のそばを離れるのが辛くなってしまう。 ならば彼の代わりに男友達を作ろうと画策するがーー

この悪役令嬢には悪さは無理です!みんなで保護しましょう!

naturalsoft
恋愛
フレイムハート公爵家令嬢、シオン・クロス・フレイムハートは父に似て目付きが鋭くつり目で、金髪のサラサラヘアーのその見た目は、いかにもプライドの高そうな高飛車な令嬢だが、本当は気が弱く、すぐ涙目でアワアワする令嬢。 そのギャップ萌えでみんなを悶えさせるお話。 シオンの受難は続く。 ちょっと暇潰しに書いたのでサラッと読んで頂ければと思います。 あんまり悪役令嬢は関係ないです。見た目のみ想像して頂けたらと思います。

面食い悪役令嬢はつい欲に負けて性悪クズ王子の手を取ってしまいました。

トウ子
恋愛
悪役令嬢に転生したことに気づいた私は、いつか自分は捨てられるのだろうと、平民落ち予定で人生設計を組んでいた。けれど。 「まぁ、とりあえず、僕と結婚してくれ」 なぜか断罪の代わりに王太子に求婚された。最低屑人間の王太子は、私も恋人も手に入れたいらしい。断りたかったけれど、断れなかった。だってこの人の顔が大好きなんだもの。寝台に押し倒されながらため息をつく。私も結局この人と離れたくなかったのよねぇ……、と。 ムーンライトノベルズでも公開。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

転生悪役令嬢と可愛いわんこたち

てんつぶ
恋愛
転生したら悪役令嬢(10)だったので、将来の自分の為に周囲と良い関係を築こう。そう思って行動したはずなのに8年後、何故か攻略対象であるはずの婚約者の王子も義弟も懐きまくる可愛いワンコに仕上がってしまった。頭を抱えるものの、やってくるであろう聖女のためにお邪魔虫は逃亡しましょう――と思っていたのに!? ワンコだったはずの王子と義弟に、強い執着をぶつけられる話。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

処理中です...