【R18】悪役令嬢(俺)は嫌われたいっ! 〜攻略対象に目をつけられないように頑張ったら皇子に執着された件について〜

べらる

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02 俺、さっそく皇子に目を付けられる

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 ────ヴィオンリゼ魔法学院。

 俺ことシスベルティアが在籍しているのは、全寮制のマナ能力者養成学校。皇族や皇族に準ずる上級貴族が通っていることで知られ、下は幼等部から上は高等部まで存在するエスカレーター式の超名門校だ。

 そんな学院で、俺は悪役令嬢の“フリ”をしなければならなかった。
 ……いや、むっず……っ!
もともと俺は死んだばあちゃんから「人には優しくするんだよ」って教え込まれてきた人間で、陰キャぼっちで元いじめられっ子属性持ち。ゲーム通り誰かにいじめをするなんてばあちゃんに顔向けできねぇし、良心がいたむ。

 だから高飛車なお嬢様感を出す事でその点を回避しようとした。
 俺の試みは、半分は成功し半分は失敗した。

「おかしいな……女の子にギリ嫌われない程度の“悪役感”をキープしてたら、うっかり男にも好かれ始めてる気がする……」

 女の子に嫌われたくなくて、女の子には優しく、男にはどぎつい、というムーブをかましていたら、女の子に好かれるだけじゃなくて、一部の男からも好意的な視線を感じる。

 チョコレートを受け取らずに追い返した一件から、好意的な視線がさらに増したような……。

(ま、直接話しかけてくるような勇気ある男子はほとんどいないし、攻略対象に絡まれてる感じもないし、別にいっかなー)

 そもそも、攻略対象の顔と名前なんてほとんど覚えちゃいな──


「──こんな陰鬱な場所に、美しい銀の花が咲いているなんて思わなかったよ」


 背筋が、凍り付きそうになった。
 この砂糖菓子のように甘い声は……さすがの俺でも知っている。

「たまにはこういう場所に来てみるのもアリってことなのかな?」
「い、イルフィール殿下……?」
「久しぶりだね、シスベルティア嬢。一緒の学院に通っているというのに、学年もクラスも違うとなると、会う機会に恵まれなくて残念だったよ」

 ──イルフィール・ロゼオ・リゼバッファニア皇子。御年19。

 まごうことなき攻略対象様、超王道の皇子様キャラである。
 ゲームの設定上、シスベルティアはイルフィール皇子にぞっこんで、婚約者だった。それはもう熱烈に。毎日のように手紙を書き、身に纏うものはすべて皇子好みのもので着飾った。他の婚約者候補を家の権力と己の力で蹴落とし、婚約者の座をもぎとったと言われている。

 だが、いまのシスベルティアは俺だ。
 ヴィオンゾーラ侯爵の愛娘という立場上、社交場で皇子と言葉を交わした記憶はあるものの、当たり障りのない会話しかしていないし、恋愛感情なんて持ってない。

 だから今のシスベルティアとイルフィール皇子は、婚約関係ではない。
 普通の、生徒同士だ。
 しかも学年が一つ違いで、接点なんて何もない者同士。

(出会えればレアって言われる殿下となんで出会うんだ……)

 イルフィール皇子は分刻みで行動している。
 学業では生徒会を、終われば皇子としての英才教育をこなす彼だ。広大な敷地を保有する魔法学院では、卒業するまで出会わない自信があったのに。

(出会ったからには仕方ない、よな。悪役令嬢っぽく適当に会話して、さっさと向こうに興味を失ってもらおう……)

 それがいい。そうしよう。

「私としたことが失礼いたしました」
「おっと、かたっくるしい挨拶はなしだ。学院の中は無礼講。それに、こんなプライベートな場所にまで形式的なものは持ち込みたくない」

 制服のスカートの裾を持ち上げてカーテシーを披露しようとすると、止められる。

「楽にしてくれていいよ」
「ではそのようにいたします」
「ありがとう。ところで、どうしてこんな場所に? ここ、旧校舎だよ?」

 何年か前までは授業で旧校舎を使うことがあったらしいが、壁にヒビが入っているとか、魔法的な防御性能が経年劣化しているとかで、今は立ち入り禁止となっている場所だ。

 倒壊の恐れがあるため、近々取り壊す事が決定している。

「もしかして、何かイケナイ事でもしてた?」
「は?」
「例えば……気軽に会えないような男との逢瀬を楽しむため、とか?」

 なに言っちゃってんの、この皇子。
 
「あれ、ハズレ?」
「ありえませんわ……」
「ありえない?」
「そもそも好きな男なんておりませんわ。興味もございません」

 男? むりむりむりむりむりむりむり。
 心は男。体は女。
 男に迫られるなんて考えただけで体がモゾモゾする。

(俺はシスベルティア一筋を貫くんだ……っ!)

「……興味もない、か」
「ええ、そうですわ」
「そっかそっか。それならいいんだけど、だったらなおさらどうしてここに? 君のような美しい女性ひとが、理由もなく足を運ぶ場所じゃないと思うよ」

 うお、さすが砂糖皇子。褒め方が自然すぎ。
 俺じゃなきゃ惚れちゃってるね。

「魔法実技の課題ですわ」
「あぁ、特別課題か」

 シスベルティア・ヴィオンゾーラ侯爵令嬢はマナが少ない。
 ヴィオンリゼ魔法学院に在籍する生徒なら、一度は耳にしたことがある話だ。

 マナが少なすぎて、他の生徒と同じレベルの魔法授業を受けられないくらい。魔法実技の成績がつけられないっていう理由で、特別な課題を毎週提出することでカバーしてもらっている。

「どんな内容?」
「魔法実技の成績で学年一位……いえ、あくびまじりでも学院一番の成績をとれる殿下からすれば、何を遊んでいるんだと思われるかもしれないような内容ですわ」
「僕のマナの多さは運が良かっただけだよ」

 さらっと言った俺の嫌味も華麗にかわされ、屈託のない笑みを向けられる。

なんだよこの皇子サマ……鈍感なのか? 人畜無害そうな砂糖菓子みたいな顔しやがって……羨ましいな。俺だってできることなら、あんたみたいなイケメン皇子にでも生まれ変わって、マナの少ないシスベルティアたん最推しに会いに来たかったよ。しくしく。

「それで? 課題の内容は?」
「……空気中に存在するマナを集め、その成分について魔法科学的知見に基づいてレポートにまとめ、提出するというものですわ」
「なるほど、だからここなんだね。確かにここは生徒が立ち入る場所じゃないから、空気中のマナも多い。……というか、立派な課題じゃないか。しかも大変そうだ」

 マナを集めるのも専用の魔導具を使用している。
 ちなみに魔導具というのは、動かすときに大なり小なりマナが必要となる代物だ。中にはマナを蓄積して動くタイプもあるけれど、初動には必ずマナが必要。

(これなぁ、地味に面倒なんだよな。すげぇ時間かかるし……。少ないマナで動かせるっていう意味じゃありがたいんだけど……)

「見た感じ、全然マナが集まってないように見えるね?」
「……まぁ、そうですわね」
「魔導具の調子が悪いんじゃないかな。貸して」
「え?」
「壊したりしないよ」
「そんなこと誰も気にしておりませんが……」

 急接近してくるイケメン皇子の顔面。

(さすが乙女ゲーム、男でもイケメンの肌って白くてきめ細やか…………っておい、なに感心してるんだ俺……相手は男だぞ……)

 上目遣いしてくるイルフィール皇子に、水晶のような見た目をした魔導具を渡す。

「あぁ、やっぱりマナを内側に取り入れる部分がおかしくなっているね。これじゃあ丸一日ここにいても、レポートを書けるような量にはならない」
「うげ、マジかよ」

 あ、やべ。
 と思った頃には、時すでに遅し。
 砂糖皇子は、ポカンっと口を開けて俺を見ていた。

「……こほん。あー、どうやらここには悪戯好きの犬か猫でもいるみたいですね」
「…………精霊じゃないんだし、動物は『マジかよ』なんて言わないよ?」
「そ、空耳ですわね、きっと。おほほほほ……」
「…………」

 高飛車で悪役令嬢なシスベルティアは「うげ、マジかよ」なんて言わない。今まで……今まで素が出ないように、頑張って耐えてきたのに……よりにもよって、皇子の前でボロが出るなんて……。

「そんなことより、で、殿下ならその魔導具を直せるんですか?」

 内心で冷や汗をかいていると、イルフィール皇子が「うん」と頷くと、魔導具がぼんやりと光り始めた。

「ここをこうして……っと。ほら、見てごらん」

 なんと、あっという間にお目当ての量を集めることが出来た。
 俺のここでの数時間の粘りはいったい……。
 
「ね?」
「あ、ありがとうございます……」
「そうだ、ここで会えたのも何かの縁だし、これからもここで僕が課題の手伝いをするってのはどうだい? 一人だと何かと大変だろうし、二人ならもっと楽が出来る。それに、きっと楽しいよ?」

 え。
 
「お忙しいのに、そんな手間まで煩わせるわけには……」
「僕の心配をしてくれてるんだね。でも大丈夫。なんにも心配はいらないからね」
「別に心配しているわけでは」
「じゃあ毎週この時間になったらここに来るよ」
「いや、まだイイって言って……」
「ダメ、かい?」

 なぜかしゅんとした顔で俺を見つめてくるイルフィール皇子。
 どことなくその顔が、チワワっぽいような……。

「……いい、ですけど……」

 思わず、頷いてしまった……。

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