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03 ダンスのお誘いを断ったら皇子が豹変したんだが?
しおりを挟むそれからというもの。
イルフィール皇子は毎週のように旧校舎に現れるようになった。できるだけ皇子との接触を避けねばと思うのだが、露骨に避けすぎると皇子の顰蹙を買ってしまう。適当に会話して、向こうが興味を無くしてくれることを祈っていたのだが、まったくそんな気配がなかった。
正直、マナが少ないので皇子に課題を手伝ってもらえるのはとても助かっている。さすが皇族といったところか、砂糖菓子みたいな顔をしているわりにハイスペック。トラブルに巻き込まれた時の対処法、特に魔導具関連で非常に助かってる。
それだけじゃない。
皇子はなぜか俺に色々な食べ物を与えるようになった。クッキーにケーキにアイスに……と、種類は豊富。
「私、菓子の類は自慢のパティシエに作らせたものしか食べませんの」って目をキリッとさせて断っても、「じゃあ捨ててもいいから、とりあえず受け取ってよ」と押し付けられる。死んだばあちゃんからの教えで「食べ物は粗末にしちゃいけないよ」と教えられている俺。当然、捨てる訳にもいかないので、寮でもぐもぐ食べた……。ちなみに味は抜群だったよ皇子。ありがとよ。
「おっかしいな……こんなはずじゃなかったんだけどな……」
当初、攻略対象を無視してきゃっきゃうふふな百合ライフを送る想定だった。
蓋を開けて見てみれば、肝心の女の子ではなく砂糖皇子が俺を懐柔しようとしている。おかしい……どこで道を間違えた……。
「ってか、皇子も皇子だよな……女の子なんて選びたい放題だろうに、なんで“悪役令嬢”なんかにちょっかいかけてんだ……。いくら俺が美少女だからって……」
────背後に、人の気配した。
「今日も麗しいね」
「殿下……っ!?」
「ん? そんなに驚いてどうしたんだい?」
「あ、いや……」
口から心臓が飛び出るかと思った。お願いだからステルス状態で俺に近付かないでくれ……。
「課題は昨日無事提出できましたよ?」
旧校舎を使ったマナ集めは終了したのだ。皇子と会う建前がなくなったのだから、もう会う事もないだろうと思っていたのに、まさかの遭遇。
「それは良かった。今日は個人的な用事で君に話があってね」
「はぁ……個人的な用事ですか……」
「来月、精霊祭があるだろう?」
「ありますね」
精霊──
あらゆる場所に確かに存在するものの、肉眼で捉えることが出来ない存在。
中には肉眼ではっきりと見えるくらい精霊もいて、その精霊のことを上位精霊と呼んでいる。
人間は、体内に存在するマナを使用して魔法という名の超常現象を引き起こす。
だが上位精霊は、空気中に存在するマナを無限に使用することができる。
何百年と昔、まだマナを使用した《魔法》という存在が知られていなかった時代、人々はあらゆる超常現象を精霊が引き起こした災いだと恐れていた。
そんなときに、精霊を従わせ、意のままに操ることのできる人間が登場した。
のちに精霊術師と呼ばれる彼らは、精霊から《魔法》というものを教えてもらい、人々に《魔法》の使い方を教えたと言われている。
魔法文明が発達し「精霊なんて見えないんだから本当は存在しないんじゃない?」と思われる現在でも、古いしきたりやお祭りの中に精霊というものが存在している。
学院で行われる精霊祭も、《魔法》を教えてくれてありがとう、という感謝の意味が込められている。
「最終日の夜はパーティが催されるだろう? そこで僕のパートナー役になってほしんだ」
「はぁ!? なんだってそんなこと俺……じゃなくて、私が……!?」
「見た目もマナーも完璧。ヴィオンゾーラ侯爵家のご令嬢なら誰も文句は言わないよ」
「他にも適任者がいるでしょう……?」
パートナー役なんて、普通は家族か親しい間柄、婚約者等が務めるものだ。イルフィール皇子に婚約者はいないが、婚約者候補と呼ばれるご令嬢が複数人存在するはず。
「君と一緒にパーティに出たいんだ。ダメかい?」
少しだけ眉をひそめて、切実な顔をしてくる砂糖皇子。
だが、もう絆されん……!
「申し訳ありませんが、他の方を探してください」
「……もしかして、すでに決めた相手がいるとか……?」
「え、ええいますわ」
わりと勢いででまかせを言ってしまったが、このウソが一番いいかもしれない。一番スマートな断り方だし、当日になれば「パートナー役の方は今日休んでしまって」とか何とか言って欠席扱いにすればいい。我ながら妙案だ。
「男に興味がないって言っていたけれど……」
(げ……っ。俺の本音がこんなところでブーメランに……っ!?)
「そ、その方は恋愛対象ではございません。ただの親しい友人です」
「ただの親しい友人、か……。だったら、今から僕が頑張っても遅くはないよね」
「申し訳ありませんが、先に約束してしまったので」
「……そうか。約束は、大事だね」
「え、ええ。その通りですわ……っ」
「だったらせめて、誰をパートナーにしたかだけ教えて」
(うっ、そんな気になるのか……っ!?)
ここでウソの名前をつくのは最大の墓穴だ。生徒名簿を調べられたら一瞬でウソだってバレる。そうなると皇族に嘘をついたことになる。それは……ちょっと怖くて出来ない。
(クラスメイトの名前を適当に使うか? でもこの皇子、名前を聞いたら本人に直撃するかもしれねぇし……)
その場合も、ウソついたってバレる。
(だったら出来る限りふんわり答えるしかねぇ……!)
「ふふっ。イルフィール皇子殿下ともあろうお方が、一介の貴族令嬢ごときのパートナーが誰かなんて、そのような事をお気になされるんですね? 彼のプライバシーの事も考慮して名前は伏せさせていただきますが……そうですわね、一つ言えることは、ちょっと“悪い男”、ですわね」
刮目せよ、素晴らしき俺の悪役令嬢っぷりを。
シスベルティアが表情筋の硬いクールな女で良かった。
じゃなかったら、今ごろ動揺が全部顔に出ていたことだろう。
(いま手を握られたら、手汗びっしょりだってバレるな……ははっ……)
「…………悪い、男。悪い男か……」
イルフィール皇子は、静かにその単語を繰り返していた。
なんだか不気味さも感じる皇子に、俺は「そうですわね」と返事をする。
「男にはそもそも興味ありませんが、もし……私が恋愛対象として殿方も見るのならば、彼のようなちょっと悪い男が好ましいと思うかもしれませんわね」
(だから皇子、おまえのようなちょっと抜けていて砂糖しか吐かねぇ男の出る幕はないんだよ)
その瞬間。
「良かった。それを聞いて安心したよ」
「え、な……?」
勢いよく腕を掴まれて。
気付いた頃には、眼と鼻の先に、イルフィール皇子の顔があって。
「僕、めちゃくちゃ悪い男だから」
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