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06 俺、あやうく絆されそうになる
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数時間後、俺は巨大なキングサイズのベッドの上で目を覚ました。しかも隣には、なぜかガウン姿のイルフィール皇子。色気がムンムンである。
「気付いたかい。体は平気?」そんな事をあっけからんと言う皇子殿下に、俺は一発殴らせろと言いたかったのだが、それを言う前に胸に軽くキスを落とされ、しばらく体を触られ続けた。一番びっくりしたのは、あれだけ皇子に好きなようにされたあとなのに、まだ物足りなさを覚えている己の体だった。
そのあと聞かれたのは、やはり精霊祭の話。
どうやら皇子は、まだ俺と一緒に踊ることを諦めていないらしい。
「僕が悪い男だって分かったでしょ? ちょっとは考え直してくれた?」
さっきからずっとそんな風に言われて、胸を下から上に緩慢に揉みこまれている。耳もとで囁かれる。最初こそ、私は約束した相手がいます、と断り続けていたのだが、だんだん皇子のスキンシップが激しくなり、またさっきの続きをしそうな雰囲気になってしまった。
(第二ラウンドは困る……!!)
正直にいうと、さっきのアレは気持ちよかった。
とんでもなく気持ちよかった。
だからこそ、クセになってしまいそうな予感がしたのだ。
このままだと、高潔な悪役令嬢シスベルティアという大事なイメージが崩れてしまう。
「わ、分かりました! 分かりましたから、とにかく私の胸を揉んだり吸ったりするのはやめてくださいまし!! 皇子としての自覚を持ってくださいませ……!!」
「え、じゃあ一緒に踊ってくれる?」
「殿下に嘘をつきました。……本当は、先約がある、というのは嘘なんです」
てっきり、ウソを吐いた事を責められると思ったのだが、皇子は「ああ、それのことね」と笑っていた。
「もちろん、ウソだって分かっていたよ」
「へぁ!?」
「あれ、覚えてない? 僕に抱かれている時、その手の質問をいくつかしたんだよ。その男の容姿は、とか、同級生なのか、とか。でも君の回答には一貫性がなかった」
……そういえば、俺が意識朦朧としているときに、皇子が俺の体をまさぐりながら、そんなことを聞いてきたような……気がしないでもない。行為が激しくて覚えていない。
「安心したよ。君がまだ誰のモノにもなってないって分かったから」
へぇ……はぁ……さようでございますか。
(あぁ……やっぱこいつ、俺に惚れちゃってるなぁ)
俺だったからよかったものを、惚れた女に媚薬飲ませて抱きつぶすか普通。腹上死するかと思ったぞ。
(しっかたねぇな、これもシスベルティアが魅力的過ぎるって話だしな)
本来なら男子を一人もこちら側に入れず、きゃっきゃうふふな百合ライフを描く予定だったが、まぁ、攻略対象の一人とダンスを踊るくらい……目を瞑ってもいいだろう。
「……殿下が、“悪い男”だっていう事は分かりましたわ」
「え?」
「誉れある皇族からのお誘いですもの、そもそも断るような身分ではございませんものね」
けっして、けっして。
皇子とのえっちが気持ちよかったわけではない。
仕方なく、だ。仕方なく。
ヘンな男をひっかけてしまったという責任感である。
「精霊祭は、……参加せず、寮室に引きこもる予定でした」
ふと、そんな事を言ってしまった。
言い終わって、はっとする。
イルフィール皇子が怪訝そうな顔で見つめてきたからだ。
「それは……なぜ……?」
「なぜって、学友が……いなかったからですわ……」
──俺は“悪役令嬢”だ。
男子に嫌われ、女子にギリギリ嫌われない程度のムーブを放っていた俺だったが、実は友だちと呼べるような人間は一人もいなかった。
攻略対象に好かれないためにやっていたことだから、自業自得といえばそう。
好意的な目を向けられても、ヴィオンゾーラ侯爵令嬢という肩書が邪魔をするのか、表面的な付き合いばかり。向こうが踏み込んだ付き合いを望んでいないのなら、俺だって踏み込めない。そんな勇気もない。
──だって、それが陰キャの性根だろうから。
(なにがきゃっきゃうふふな百合ライフだよ……むかしと一緒のぼっちオブぼっちじゃんか……)
「じゃあ今日からは、僕がその学友の一人になるのかな……?」
「は?」
「一緒に参加してくれませんか、シスベルティア嬢。僕は、君と精霊祭を楽しみたい」
なんだ、こいつ。
「私にあんなことをしておきながら、学友だなんて。なんて“悪い男”なのかしらね」
でも、なんか。
悪役令嬢の学友として、皇子のような“悪い男”もアリなんじゃないかと思えるようになってきた。
「ああ、僕は悪い男だからね」
(あー、しゃぁねぇ)
「殿下と一緒に参加しますわ」
◇
(前言、撤回するわマジで)
迎えた精霊祭当日。
出店などを一通り巡り、パーティに参加してダンスを踊ったあとのこと。
俺は、一瞬でもこの砂糖皇子を「あ、なんかいいやつかも」と思った事を後悔していた。なぜならあの砂糖皇子は、ことあるごとに俺の体を触ってくるのだ。ちょっと触れて「きゃっ」くらいなら可愛いものだが、皇子のソレはがっつり胸を揉んでくるレベル。いつ外で襲われるか分からないと、無駄にドキドキしてしまった。
やはり男はだめだ。
この大事なシスベルティアの体を悪しき男どもの手から守らなければならない。
「男は、だめ。ぜったいに、だめ」
俺は、改めて心に誓いなおしたのだった。
<完>
「気付いたかい。体は平気?」そんな事をあっけからんと言う皇子殿下に、俺は一発殴らせろと言いたかったのだが、それを言う前に胸に軽くキスを落とされ、しばらく体を触られ続けた。一番びっくりしたのは、あれだけ皇子に好きなようにされたあとなのに、まだ物足りなさを覚えている己の体だった。
そのあと聞かれたのは、やはり精霊祭の話。
どうやら皇子は、まだ俺と一緒に踊ることを諦めていないらしい。
「僕が悪い男だって分かったでしょ? ちょっとは考え直してくれた?」
さっきからずっとそんな風に言われて、胸を下から上に緩慢に揉みこまれている。耳もとで囁かれる。最初こそ、私は約束した相手がいます、と断り続けていたのだが、だんだん皇子のスキンシップが激しくなり、またさっきの続きをしそうな雰囲気になってしまった。
(第二ラウンドは困る……!!)
正直にいうと、さっきのアレは気持ちよかった。
とんでもなく気持ちよかった。
だからこそ、クセになってしまいそうな予感がしたのだ。
このままだと、高潔な悪役令嬢シスベルティアという大事なイメージが崩れてしまう。
「わ、分かりました! 分かりましたから、とにかく私の胸を揉んだり吸ったりするのはやめてくださいまし!! 皇子としての自覚を持ってくださいませ……!!」
「え、じゃあ一緒に踊ってくれる?」
「殿下に嘘をつきました。……本当は、先約がある、というのは嘘なんです」
てっきり、ウソを吐いた事を責められると思ったのだが、皇子は「ああ、それのことね」と笑っていた。
「もちろん、ウソだって分かっていたよ」
「へぁ!?」
「あれ、覚えてない? 僕に抱かれている時、その手の質問をいくつかしたんだよ。その男の容姿は、とか、同級生なのか、とか。でも君の回答には一貫性がなかった」
……そういえば、俺が意識朦朧としているときに、皇子が俺の体をまさぐりながら、そんなことを聞いてきたような……気がしないでもない。行為が激しくて覚えていない。
「安心したよ。君がまだ誰のモノにもなってないって分かったから」
へぇ……はぁ……さようでございますか。
(あぁ……やっぱこいつ、俺に惚れちゃってるなぁ)
俺だったからよかったものを、惚れた女に媚薬飲ませて抱きつぶすか普通。腹上死するかと思ったぞ。
(しっかたねぇな、これもシスベルティアが魅力的過ぎるって話だしな)
本来なら男子を一人もこちら側に入れず、きゃっきゃうふふな百合ライフを描く予定だったが、まぁ、攻略対象の一人とダンスを踊るくらい……目を瞑ってもいいだろう。
「……殿下が、“悪い男”だっていう事は分かりましたわ」
「え?」
「誉れある皇族からのお誘いですもの、そもそも断るような身分ではございませんものね」
けっして、けっして。
皇子とのえっちが気持ちよかったわけではない。
仕方なく、だ。仕方なく。
ヘンな男をひっかけてしまったという責任感である。
「精霊祭は、……参加せず、寮室に引きこもる予定でした」
ふと、そんな事を言ってしまった。
言い終わって、はっとする。
イルフィール皇子が怪訝そうな顔で見つめてきたからだ。
「それは……なぜ……?」
「なぜって、学友が……いなかったからですわ……」
──俺は“悪役令嬢”だ。
男子に嫌われ、女子にギリギリ嫌われない程度のムーブを放っていた俺だったが、実は友だちと呼べるような人間は一人もいなかった。
攻略対象に好かれないためにやっていたことだから、自業自得といえばそう。
好意的な目を向けられても、ヴィオンゾーラ侯爵令嬢という肩書が邪魔をするのか、表面的な付き合いばかり。向こうが踏み込んだ付き合いを望んでいないのなら、俺だって踏み込めない。そんな勇気もない。
──だって、それが陰キャの性根だろうから。
(なにがきゃっきゃうふふな百合ライフだよ……むかしと一緒のぼっちオブぼっちじゃんか……)
「じゃあ今日からは、僕がその学友の一人になるのかな……?」
「は?」
「一緒に参加してくれませんか、シスベルティア嬢。僕は、君と精霊祭を楽しみたい」
なんだ、こいつ。
「私にあんなことをしておきながら、学友だなんて。なんて“悪い男”なのかしらね」
でも、なんか。
悪役令嬢の学友として、皇子のような“悪い男”もアリなんじゃないかと思えるようになってきた。
「ああ、僕は悪い男だからね」
(あー、しゃぁねぇ)
「殿下と一緒に参加しますわ」
◇
(前言、撤回するわマジで)
迎えた精霊祭当日。
出店などを一通り巡り、パーティに参加してダンスを踊ったあとのこと。
俺は、一瞬でもこの砂糖皇子を「あ、なんかいいやつかも」と思った事を後悔していた。なぜならあの砂糖皇子は、ことあるごとに俺の体を触ってくるのだ。ちょっと触れて「きゃっ」くらいなら可愛いものだが、皇子のソレはがっつり胸を揉んでくるレベル。いつ外で襲われるか分からないと、無駄にドキドキしてしまった。
やはり男はだめだ。
この大事なシスベルティアの体を悪しき男どもの手から守らなければならない。
「男は、だめ。ぜったいに、だめ」
俺は、改めて心に誓いなおしたのだった。
<完>
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