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7 俺がお前の望みを叶えてやるよ!
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次の日の朝早く、二人はひっそりと街へ出た。
ソモルはキョロキョロと、民家の隙間から周囲の様子をうかがった。まだ陽が昇って間もない朝の繁華街は人もまばらだ。
商人の朝は早い。市場の卸しから帰ってきた店主たちが、すでに開店準備を始めている。
ラオン姫捜索隊の姿は、どうやら見当たらない。
ソモルは安全を確かめると、背後のラオンにうなずいた。頭からマントを被ったラオンが、静かにうなずき返す。
顔を見られないように被ったマントだが、かえって怪しい。端から見ると、まるで赤ずきんちゃんのような出で立ちだ。完璧なカモフラージュだと、少なくとも本人たちは思っていた。
それでもかなり警戒しながら、目立たないように道の端を行く。
けど、なんだかおかしい。
ソモルはちらりと、店先に商品を並べる反物屋の親父の方へ視線をやった。
眼が合った。
親父が慌てて眼を逸らす。ソモルはその向かいの肉屋の方へ視線を移した。
眼が合った。
やはり焦って見ていなかったふりをする肉屋の夫婦。
変だ。どう考えても不自然だ。
それに、やたら通りすがる者たちからの視線を感じる。そんなに目立つわけでもないのに。まあ、目立たないわけでもなかったが。
「……ソモル、おかしいよ。さっきの人、僕らの事振り返ってまで見てたよ」
さすがに異変を感じて、ラオンが耳打ちした。
「平気だよ、きっとラオンの事見てたんだぜ。この辺じゃ、見かけねえから」
けれど、その憶測はどうも違うようだ。どうやらソモルの方が、圧倒的に視線を浴びている。
「……ソモル、君、僕が来る前に何か悪い事でもしたの?」
ソモルに集中する視線に気づき、ラオンがぼそっと尋ねる。
「……バカ! この街じゃ何もしてねえよ!」
他の街では何かしていたのだろうか。
その時だった。
「居たぞ! あいつだ!」
背後から聞こえた大声に、二人はびくりとして振り向いた。声の主は、体格の良い大の男三人だった。
ソモルの背中を、一筋の汗が滑り落ちる。
「あいつか! ジュピターの姫様をさらった奴はっ!」
えっ、なんだって。誰の事だ。
「という事は、あの隣の方が姫君か!?」
ラオンが、くっとマントを深く被り直す。
男たちの会話に、二人はヤバい空気を感じ取った。
「……ラオン、こういう時は……」
「うん、ソモル、僕もそう思う」
二人は眼で合図を交わし合うと、一目散にその場を駆け出した。
「あっこら、待て!!」
「この人さらいが!!」
太い怒声が追いかけてくる。
人さらい? 姫君をさらった? どうも、おかしな事になっているらしい。
ソモルは鈍足のラオンの手を引き、奥まった路地から路地へ駆け抜けていく。その間ソモルは、必死に自分の置かれた状況を考えあぐねた。
逃げ続けるにつれ人が人を呼び、追っ手の数もいつの間にか増えていく。
「姫と、その誘拐犯はっ!」
「あっちだ! あっちに逃げたぞっ!」
なんなんだ、これは。
昨夜のうちに、事態は思わぬ方向へ向かってしまったらしい。二人は路地裏のゴミ置き場の陰にうずくまって身を潜めた。
ドタバタドタバタ
足音はゴミ置き場のすぐ横を過ぎると、散り散りになって離れ、そして消えていった。
どうやら、追っ手をまけたようだ。
一難去り、二人はぐったりとしながら息を吐いた。昨夜から走ってばかりのラオンは、もうぼろぼろだ。
ソモルは額の汗を手の甲で拭いながら、周囲に視線を彷徨わせた。狭い路地、家々の屋根の間から、すっかり明るくなった空が覗いている。レンガの壁をなぞり、視線を下に降ろしていたソモルは、まだ新しい二枚の張り紙に気づいた。隙間から射し込む朝日に照らされた、鮮やかな色彩。
誰かの、似顔絵?
恐る恐る張り紙に近づいたソモルは、仰天して立ち尽くした。
そこには、ソモルの似顔絵がでかでかと描かれていたのだ。隣のもう一枚は、もちろんラオンの写真である。
それだけではない。ソモルを仰天させたのは、そこに書かれた文字だった。
ラオンの方には、ジュピターの姫君と書かれている。これは判る。
問題は、ソモルの方だ。
『指名手配中』
『凶悪! 極悪非道』
『姫君さらい』
などという文字がおどっていたのだ。つまりこれは、まぎれもない手配書。
「なっ……なんなんだぁ、これは!」
ソモルは半ば混乱しながら叫んだ。追われる身なのに、声を出していいのだろうか。
まあ、無理もない。たった一夜にして、極悪非道の犯罪者に仕立てあげられてしまったのだから。
とんでもない濡れ衣である。
「ソモル……」
ラオンが申し訳なさそうに、上目遣いでソモルを見た。謝って済む問題ではない。前科がまた増えてしまったのだ。しかも、今度は凶悪犯だ。
ソモルはうつ向いたまま、体を震わせていた。相当、怒っているのだろうか。
ラオンは、罪悪感を覚えた。
「……やってやろうじゃねえか」
けれど、ソモルの口元から洩れたのは、怒りの抗議ではなく不敵な台詞だった。
ソモルの鋭い両眼が、覗き込んでいたラオンを捉えた。ラオンが、茫然と見詰める。
「こうなったら、もう自棄だっ! とことんお前の旅に付き合ってやるぜ、ラオン! 宇宙の果てまでだろうが、お供してやろうじゃねえかっ!」
突然ソモルが、高々と宣言するように叫んだ。だから、大声を出していいのか。
それは、自分を犯罪者に仕立てあげた、ジイやたちへの宣戦布告でもあった。
なにがなんでも、ラオンは渡さない。ラオンの希望を、絶対に叶えてやるんだ。
ラオンはただただ、眼を丸くしている。
「居たぞ! こっちだ!」
ほら、云わぬ事ではない。ソモルの大声に駆けつけた街の人々が、二人を指差している。
「ほ~ら来た! 逃げるぞぉ!」
ソモルはもうどうにでもなれという調子で云い放つと、ラオンの腕を掴んで勢い良く走り出した。気合いの入ったソモルのスピードに圧倒されながらも、懸命に後に続くラオン。
このぶんだと、ソモルの仕事場にもジイやたちの手配が伸びている事だろう。親方に声をかけてから旅立つのは、どうやら無理のようだ。
ソモルは走りながら、様々に思考を巡らせた。
ソモルはキョロキョロと、民家の隙間から周囲の様子をうかがった。まだ陽が昇って間もない朝の繁華街は人もまばらだ。
商人の朝は早い。市場の卸しから帰ってきた店主たちが、すでに開店準備を始めている。
ラオン姫捜索隊の姿は、どうやら見当たらない。
ソモルは安全を確かめると、背後のラオンにうなずいた。頭からマントを被ったラオンが、静かにうなずき返す。
顔を見られないように被ったマントだが、かえって怪しい。端から見ると、まるで赤ずきんちゃんのような出で立ちだ。完璧なカモフラージュだと、少なくとも本人たちは思っていた。
それでもかなり警戒しながら、目立たないように道の端を行く。
けど、なんだかおかしい。
ソモルはちらりと、店先に商品を並べる反物屋の親父の方へ視線をやった。
眼が合った。
親父が慌てて眼を逸らす。ソモルはその向かいの肉屋の方へ視線を移した。
眼が合った。
やはり焦って見ていなかったふりをする肉屋の夫婦。
変だ。どう考えても不自然だ。
それに、やたら通りすがる者たちからの視線を感じる。そんなに目立つわけでもないのに。まあ、目立たないわけでもなかったが。
「……ソモル、おかしいよ。さっきの人、僕らの事振り返ってまで見てたよ」
さすがに異変を感じて、ラオンが耳打ちした。
「平気だよ、きっとラオンの事見てたんだぜ。この辺じゃ、見かけねえから」
けれど、その憶測はどうも違うようだ。どうやらソモルの方が、圧倒的に視線を浴びている。
「……ソモル、君、僕が来る前に何か悪い事でもしたの?」
ソモルに集中する視線に気づき、ラオンがぼそっと尋ねる。
「……バカ! この街じゃ何もしてねえよ!」
他の街では何かしていたのだろうか。
その時だった。
「居たぞ! あいつだ!」
背後から聞こえた大声に、二人はびくりとして振り向いた。声の主は、体格の良い大の男三人だった。
ソモルの背中を、一筋の汗が滑り落ちる。
「あいつか! ジュピターの姫様をさらった奴はっ!」
えっ、なんだって。誰の事だ。
「という事は、あの隣の方が姫君か!?」
ラオンが、くっとマントを深く被り直す。
男たちの会話に、二人はヤバい空気を感じ取った。
「……ラオン、こういう時は……」
「うん、ソモル、僕もそう思う」
二人は眼で合図を交わし合うと、一目散にその場を駆け出した。
「あっこら、待て!!」
「この人さらいが!!」
太い怒声が追いかけてくる。
人さらい? 姫君をさらった? どうも、おかしな事になっているらしい。
ソモルは鈍足のラオンの手を引き、奥まった路地から路地へ駆け抜けていく。その間ソモルは、必死に自分の置かれた状況を考えあぐねた。
逃げ続けるにつれ人が人を呼び、追っ手の数もいつの間にか増えていく。
「姫と、その誘拐犯はっ!」
「あっちだ! あっちに逃げたぞっ!」
なんなんだ、これは。
昨夜のうちに、事態は思わぬ方向へ向かってしまったらしい。二人は路地裏のゴミ置き場の陰にうずくまって身を潜めた。
ドタバタドタバタ
足音はゴミ置き場のすぐ横を過ぎると、散り散りになって離れ、そして消えていった。
どうやら、追っ手をまけたようだ。
一難去り、二人はぐったりとしながら息を吐いた。昨夜から走ってばかりのラオンは、もうぼろぼろだ。
ソモルは額の汗を手の甲で拭いながら、周囲に視線を彷徨わせた。狭い路地、家々の屋根の間から、すっかり明るくなった空が覗いている。レンガの壁をなぞり、視線を下に降ろしていたソモルは、まだ新しい二枚の張り紙に気づいた。隙間から射し込む朝日に照らされた、鮮やかな色彩。
誰かの、似顔絵?
恐る恐る張り紙に近づいたソモルは、仰天して立ち尽くした。
そこには、ソモルの似顔絵がでかでかと描かれていたのだ。隣のもう一枚は、もちろんラオンの写真である。
それだけではない。ソモルを仰天させたのは、そこに書かれた文字だった。
ラオンの方には、ジュピターの姫君と書かれている。これは判る。
問題は、ソモルの方だ。
『指名手配中』
『凶悪! 極悪非道』
『姫君さらい』
などという文字がおどっていたのだ。つまりこれは、まぎれもない手配書。
「なっ……なんなんだぁ、これは!」
ソモルは半ば混乱しながら叫んだ。追われる身なのに、声を出していいのだろうか。
まあ、無理もない。たった一夜にして、極悪非道の犯罪者に仕立てあげられてしまったのだから。
とんでもない濡れ衣である。
「ソモル……」
ラオンが申し訳なさそうに、上目遣いでソモルを見た。謝って済む問題ではない。前科がまた増えてしまったのだ。しかも、今度は凶悪犯だ。
ソモルはうつ向いたまま、体を震わせていた。相当、怒っているのだろうか。
ラオンは、罪悪感を覚えた。
「……やってやろうじゃねえか」
けれど、ソモルの口元から洩れたのは、怒りの抗議ではなく不敵な台詞だった。
ソモルの鋭い両眼が、覗き込んでいたラオンを捉えた。ラオンが、茫然と見詰める。
「こうなったら、もう自棄だっ! とことんお前の旅に付き合ってやるぜ、ラオン! 宇宙の果てまでだろうが、お供してやろうじゃねえかっ!」
突然ソモルが、高々と宣言するように叫んだ。だから、大声を出していいのか。
それは、自分を犯罪者に仕立てあげた、ジイやたちへの宣戦布告でもあった。
なにがなんでも、ラオンは渡さない。ラオンの希望を、絶対に叶えてやるんだ。
ラオンはただただ、眼を丸くしている。
「居たぞ! こっちだ!」
ほら、云わぬ事ではない。ソモルの大声に駆けつけた街の人々が、二人を指差している。
「ほ~ら来た! 逃げるぞぉ!」
ソモルはもうどうにでもなれという調子で云い放つと、ラオンの腕を掴んで勢い良く走り出した。気合いの入ったソモルのスピードに圧倒されながらも、懸命に後に続くラオン。
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