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目を閉じて、捕まった日のことを思い出す。
僕が捕えられたのは青々した葉が揺れる、暖かい日だった。
普通の日だった。昼下がり、いつもの侍女がお茶の時間を用意してくれる。僕はそれを座って見ていた。並べられたお菓子も、淹れられたお茶も全て僕の好みに合わせてある。
僕の癒しの時間だった。
うっとりとお茶を楽しんでいると、騒がしい音がして突然僕がいるテラスに知らない兵士たちが押し入ってきた。止めに入った侍従は取り押さえられている。控えていた侍女が叫んだ。
僕は慌てて立ち上がり、カップを兵士に投げつけた。
「何のつもりだ!」
位の高そうな兵士が口を開いた。
「国王陛下の命でミルトニア男爵ご一家を横領罪で捕らえに参りました」
横領罪?!
しかも、国王陛下の命で捕らえるだと?!
何のことだ?
目を白黒させていると僕の近くまで来ていた兵士が僕の腕を掴み上げた。
「僕を誰だと思っている!汚い手で触るな!」
顔を顰めて腕を振り払おうとした。
ありえない、僕が何をしたと言うんだ。
父様が、母様が、兄様が何をしたと!
鍛えられた兵士の力は当然僕が敵うはずもなく、もがいても拘束が緩むことはなかった。
周りを見ると侍女だけでなく他の侍従たちも取り押さえられている。食器や食べ物が散乱して、お気に入りのテラスはめちゃくちゃになっていた。
「父は横領などしていない!集めた税を毎年国に納めていると言っていた!横領罪などそんなの嘘だ!」
このテラスは屋敷の奥まった位置にある。
ここまで兵士が詰め寄ったということは両親や兄様はすでに捕らえられているのだろう。優しい家族が自分と同じように捕まっていることを想像するとぞっとした。
「エリュ様。貴方はまだ幼いから知らないこともあるのでしょう。だが貴方の家族が税を横領していたことは事実で、これから審問にかけられる」
冷たく、厳しい声だった。
もうこの不幸から逃げられないのだと悟った。
僕が捕えられたのは青々した葉が揺れる、暖かい日だった。
普通の日だった。昼下がり、いつもの侍女がお茶の時間を用意してくれる。僕はそれを座って見ていた。並べられたお菓子も、淹れられたお茶も全て僕の好みに合わせてある。
僕の癒しの時間だった。
うっとりとお茶を楽しんでいると、騒がしい音がして突然僕がいるテラスに知らない兵士たちが押し入ってきた。止めに入った侍従は取り押さえられている。控えていた侍女が叫んだ。
僕は慌てて立ち上がり、カップを兵士に投げつけた。
「何のつもりだ!」
位の高そうな兵士が口を開いた。
「国王陛下の命でミルトニア男爵ご一家を横領罪で捕らえに参りました」
横領罪?!
しかも、国王陛下の命で捕らえるだと?!
何のことだ?
目を白黒させていると僕の近くまで来ていた兵士が僕の腕を掴み上げた。
「僕を誰だと思っている!汚い手で触るな!」
顔を顰めて腕を振り払おうとした。
ありえない、僕が何をしたと言うんだ。
父様が、母様が、兄様が何をしたと!
鍛えられた兵士の力は当然僕が敵うはずもなく、もがいても拘束が緩むことはなかった。
周りを見ると侍女だけでなく他の侍従たちも取り押さえられている。食器や食べ物が散乱して、お気に入りのテラスはめちゃくちゃになっていた。
「父は横領などしていない!集めた税を毎年国に納めていると言っていた!横領罪などそんなの嘘だ!」
このテラスは屋敷の奥まった位置にある。
ここまで兵士が詰め寄ったということは両親や兄様はすでに捕らえられているのだろう。優しい家族が自分と同じように捕まっていることを想像するとぞっとした。
「エリュ様。貴方はまだ幼いから知らないこともあるのでしょう。だが貴方の家族が税を横領していたことは事実で、これから審問にかけられる」
冷たく、厳しい声だった。
もうこの不幸から逃げられないのだと悟った。
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