復讐しようとして上手くいかなかった話

菫野

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「また、どうしてそんなことを?」
彼は不思議そうに瞬いた。
知り合って間もない頃はこの反応をされると彼の機嫌を損ねてしまったのかと思ったけど、そうじゃないことは知っていた。

「今さらで恥ずかしいのですが、あの領地がどうなったのか知りたくなったのです。暮らしている人々の様子を見てみたいと思いました」

「なるほど」
ウィリデ様は腕を組んで納得したようだった。
そして僕に微笑みかける。

「話してくれてありがとう。わたしだけの判断で決められないから確認してみるね。エリュがわたしを頼ってくれて嬉しいよ」

快く受けてくれて安心した。
エンジュはああ言っていたけど無理だと断られるかもと不安だった。
ウィリデ様はでも、と続けた。

「君はここに来たばかりのころは全然他人に興味がなさそうだったのに。どういった心変わりがあったのか聞いてもいい?」
萌黄色の瞳が興味深そうに見ている。

「ええと。先生やウィリデ様に色々なことを教わったりこの屋敷で働く方々と関わって周りの人に興味が出てきたのです。情けない話ですが、ようやく他人にも感情があることを知りました」

取り繕う必要がないので素直に思っていたことを述べた。

「以前は家族以外の人は人でないような感じがしていて、僕もそのように振る舞っていました。家では使用人たちも僕たち家族に怯えて感情を隠していたので、ここの人たちから気遣う気持ちを向けられているのがわかるとくすぐったい気持ちになります。嬉しいです」

家族以外から優しくされることに慣れなくて、はじめは落ち着かなかった。慣れてきた頃に他人のことを考えられるようになったと思う。

「でも、あの屋敷にも領地にも僕のことを考えてくれている人がきっといたかもしれないのに僕は気が付きませんでした。詫びても仕方のないことですが、僕たち家族がいなくなったことであの領地の人々が幸せに暮らしていたらいいなと思ったんです」

ただの自己満足なんですけど、と付け加えた。
ウィリデ様は嬉しそうに頷いた。

「エリュの視野はずいぶん広がったんだね。世界が広がっていくと悲しいことに気がつくこともあるけど、嬉しいことにもたくさん気づけるよ」

「そうなれるように頑張ります」
「その気持ちがあれば大丈夫。知りたいって思わないと知ることもないんだから。わたしはエリュがたくさんのことに興味を持って、たくさんのことを学んで、早く立派な従者になってくれることを待っているんだ」

「嬉しいです。僕に期待してくださっているんですね」
ウィリデ様は僕が思ってた以上に僕に期待してくれているようだ。口元が緩んでしまう。

「もちろん期待している。……今まで言葉が足りていなくてすまなかった。わたしは君の成長に期待しているし、君を大切に思っている。正直に言うともう少し肉をつけて安心させてほしいとも思っている」

見た目のことをあんまり言うのも良くないかなって思って、とウィリデ様は続けた。

「先日、母に呼び出されてエリュに手を出したことを叱られてしまった。気がはやって我慢できなかったわたしが完全に悪かった。ついでに言葉足らずなところも良くないと言われてしまってね」

ごめんね、と言う仕草が美しいというより失礼ながらも可愛らしいと思ってしまい、心がざわめいた。

「いいえ!ウィリデ様が僕に尽くしてくださっていることは十分に伝わっています」

謝られると落ち着かない気分になった。
そもそもあの時、先に手を出したのは自分だ。
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