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「いいえ。僕は気にしていないので頭を上げてください」
謝られる筋合いはないなと思い、取り繕うように笑う。
僕はむしろクレヤラという子供に謝らないといけない立場だ。嫌われ者のミルトニア男爵一家は当主と息子二人が銀髪で、そのやや印象的な色合いが嫌われないわけがないなと思った。クレヤラは何も悪くないのに僕たちと同じ髪色というだけでいじめられたのだ。
そんなこと、考えたこともなかった。
牢獄では捕らえた人間を恨むばかりでなぜそうなったのか、自分の非を振り返ることはなかった。
今となっては当時自分の行いを振り返ったとて、世間知らずの自分が非をわかったとも思わないが。
無知は罪だ。
握った拳に力が入る。
ミーアから目を逸らして俯きかけたとき、ウィリデ様の柔らかな声が聞こえて顔を上げた。
「ミーア。もしもエリュがいじめられても、わたしがいるからエリュは大丈夫だよ。ありがとう」
ミーアは視線を僕からずらして、大きな瞳をさらに見開いた。じわじわと丸い頬が紅潮していく。
「ウィリデさまがそうおっしゃるなら大丈夫ね!」
ようやく彼女に笑みが戻り、ウィリデ様も立ち上がった。
ちらりと振り向いた彼は僕を安心させるように少し微笑んだ。強張っていた身体から力が抜けた。
エンジュが肩を叩いてくれる。彼も僕を心配してくれていたようだった。
「エリュ様、申し訳ございません。ウィリデ様もせっかくお越しくださったのに娘が失礼いたしました」
「娘にはよく言い聞かせておきます」
セドラスとカルミアが勢いよく僕たちに頭を下げる。
「僕は本当に気にしていません!」
何度も謝られると心苦しく、胸の前で手を振った。
「セドラス、カルミアも。顔を上げてください。エリュが困っている」
ウィリデ様も助け舟を出してくれた。
「エリュ様の寛大なお心に感謝します」
セドラスは頭を上げると胸に手を当てて感謝を述べた。
「さあ、食事にしましょう」
ウィリデ様の提案で場の空気が緩む。
ミーアは母親にじゃれつきながら椅子へと座った。そこが彼女の定位置らしい。
セドラスが僕たちに席につくよう促した。元は4人がけなのだろう。種類の違う椅子がふたつ置かれている。
僕はウィリデ様の隣に座った。反対側はエンジュが座っている。
昼食はカルミアが作ってくれたという麦と野菜のスープと魚の白ワイン煮込みに、白いパンだった。麦が入ったスープは初めてだったが食べやすく、食感もおもしろいと思った。魚のワイン煮込みはどこか懐かしい味がした。味がじゅうぶんに染み込んでいて美味しい。どちらもパンと合わせて食べるとまた一段と美味しかった。
この魚料理はこの地域で一般的なおもてなし料理だそうだ。
「カルミアさんは料理がお上手なんですね。魚料理も懐かしい味がしてとても美味しかったです」
「俺、麦のスープって初めて食べました」
屋敷で作ってもらえないかな、とエンジュが考えている。
カルミアは嬉しそうに眉を下げた。
「母さんのごはんは世界一美味しいのよ!」
ね、父さん!とミーアが胸を張って言う。
「父さんも母さんの手料理が一番だと思うよ!お三方にも妻の手料理を召し上がっていただけて嬉しいです!」
食後のお茶をいただきながら、僕は内心ほっとしていた。それはカルミアとセドラスが僕に対して好意的だったからかもしれないし、温かな料理でお腹が満たされたからかもしれなかった。
謝られる筋合いはないなと思い、取り繕うように笑う。
僕はむしろクレヤラという子供に謝らないといけない立場だ。嫌われ者のミルトニア男爵一家は当主と息子二人が銀髪で、そのやや印象的な色合いが嫌われないわけがないなと思った。クレヤラは何も悪くないのに僕たちと同じ髪色というだけでいじめられたのだ。
そんなこと、考えたこともなかった。
牢獄では捕らえた人間を恨むばかりでなぜそうなったのか、自分の非を振り返ることはなかった。
今となっては当時自分の行いを振り返ったとて、世間知らずの自分が非をわかったとも思わないが。
無知は罪だ。
握った拳に力が入る。
ミーアから目を逸らして俯きかけたとき、ウィリデ様の柔らかな声が聞こえて顔を上げた。
「ミーア。もしもエリュがいじめられても、わたしがいるからエリュは大丈夫だよ。ありがとう」
ミーアは視線を僕からずらして、大きな瞳をさらに見開いた。じわじわと丸い頬が紅潮していく。
「ウィリデさまがそうおっしゃるなら大丈夫ね!」
ようやく彼女に笑みが戻り、ウィリデ様も立ち上がった。
ちらりと振り向いた彼は僕を安心させるように少し微笑んだ。強張っていた身体から力が抜けた。
エンジュが肩を叩いてくれる。彼も僕を心配してくれていたようだった。
「エリュ様、申し訳ございません。ウィリデ様もせっかくお越しくださったのに娘が失礼いたしました」
「娘にはよく言い聞かせておきます」
セドラスとカルミアが勢いよく僕たちに頭を下げる。
「僕は本当に気にしていません!」
何度も謝られると心苦しく、胸の前で手を振った。
「セドラス、カルミアも。顔を上げてください。エリュが困っている」
ウィリデ様も助け舟を出してくれた。
「エリュ様の寛大なお心に感謝します」
セドラスは頭を上げると胸に手を当てて感謝を述べた。
「さあ、食事にしましょう」
ウィリデ様の提案で場の空気が緩む。
ミーアは母親にじゃれつきながら椅子へと座った。そこが彼女の定位置らしい。
セドラスが僕たちに席につくよう促した。元は4人がけなのだろう。種類の違う椅子がふたつ置かれている。
僕はウィリデ様の隣に座った。反対側はエンジュが座っている。
昼食はカルミアが作ってくれたという麦と野菜のスープと魚の白ワイン煮込みに、白いパンだった。麦が入ったスープは初めてだったが食べやすく、食感もおもしろいと思った。魚のワイン煮込みはどこか懐かしい味がした。味がじゅうぶんに染み込んでいて美味しい。どちらもパンと合わせて食べるとまた一段と美味しかった。
この魚料理はこの地域で一般的なおもてなし料理だそうだ。
「カルミアさんは料理がお上手なんですね。魚料理も懐かしい味がしてとても美味しかったです」
「俺、麦のスープって初めて食べました」
屋敷で作ってもらえないかな、とエンジュが考えている。
カルミアは嬉しそうに眉を下げた。
「母さんのごはんは世界一美味しいのよ!」
ね、父さん!とミーアが胸を張って言う。
「父さんも母さんの手料理が一番だと思うよ!お三方にも妻の手料理を召し上がっていただけて嬉しいです!」
食後のお茶をいただきながら、僕は内心ほっとしていた。それはカルミアとセドラスが僕に対して好意的だったからかもしれないし、温かな料理でお腹が満たされたからかもしれなかった。
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