【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第三章 愛した人

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 あの出来事から、半年が過ぎた。その間、Ωという理由だけで就職先が見つからず六年生となった拓海は焦り始めた。
 そんななか、これまで音沙汰無かった南からメッセージが届いた。大学の近くのカフェで会おう、と。
 秀也の実家にも耳に入っていた記者の話を、医療関係者から南も聞いただろうと拓海は考えた。彼に謝罪も兼ねて、会うことにした。
 
 南先輩にも、周りの人に迷惑をかけてまで、医者になる必要って……。俺には人を救う権利は無いのか? 

 拓海は講義が終わった後、カフェに向かった。カウンターに席を取っていた南が、拓海に気づいたようで手を振った。
 レジカウンターで頼んでいた珈琲を受け取って、南の隣の席に腰掛けた。
 拓海の謝罪から二人の会話は始まった。南は記者の話を直接理事長から聞いたらしかった。拓海は南の親の会社や彼の勤め先の病院に打撃はなかった話を聞いて安堵した。
 しかし、南の話を聞いてすぐにその安堵は驚きに変わった。どうやら、南が理事長から話を聞いた時に拓海の就職先の話を知ったらしかった。
「親のツテでΩを受け入れる病院を探したんだけど……」
 拓海は心の中で、やはり経営の仲介をしている南の家でも、Ωを受け入れてくれる病院を探すのは困難なのかと思い、握りしめた手に力が入った。しかし、南の話は続くらしく、「そのことで」と言った彼から病院の資料が入った紙袋を南から渡された。
「その……俺が働いている病院の院長が君にぜひ来てほしいって」
 拓海は目を見開いた。彼の勧誘は拓海にとったら願ってもない話だ。しかし、拓海はすぐに応える事は出来なかった。
「でも、俺は南先輩にもご迷惑をかけてしまいました」
 あの夜の出来事は彼ら三人の仲で目を逸らしてはいけない問題だからだ。しかし、それよりも【運命の番】である南の傍に自分がいる事を秀也が知ったら嫌な気分になってしまうのではないか、自分が【運命】に否定的でも、秀也は【運命】に肯定的だ、と頭を悩ませてしまう。
 南が小さく溜息をついた。カップの中を見つめていた拓海の肩に南の大きな手が置かれた。少し力強く感じたそれは、気のせいかと思えるほどだった。
「拓海も……【運命の番】に縛られずに生きていく道を選ぶ事が出来るんだ、それに拓海はすでに心を決めたんだろ? ……俺の事は気にするな」
「でも」
「それと、経験だと思って気軽に就職してきてよ。……医者になるしか道は無いだろう? きっと、池上も分かってくれるさ」
「……」
「んー、実はな、俺が今いる病院さ人が足りなくて、俺ひとりじゃ流石に持たないんだよ、だから人助けだと思って! な!」
 南は顔の前で両手を合わせる。

 むしろ自分が頼み込む方なのに、南先輩はこんな俺を……見捨てずにいてくれるなんて。

 拓海は南の手に触れて両手を離す。
「……南先輩、ありがとうございます。俺病院に迷惑をかけないよう、精一杯つとめさせていただきます」
「頼もしい後輩を持って……俺は幸せもんだな」
 南はそう言ってあまり見ることのない、ふんわりとした甘い笑みを目元に浮かべた。
 拓海は南の目を見て、「本当にありがとうございます」と言ってから頭を下げた。
 南はすぐに「頭を上げろ!」と小声で言った。周りの目が自分達に集中していることに気づいて拓海は慌てて頭を上げた。
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