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第2話-転生先は悪役法師陰陽師
*
**
***
「満成さま!」
「満成様!」
「橘香澄って男かよ!」
「へ?」
「え?」
「え?」
「み、みつなり?」
勢いよく起き上がったとき、見知らぬ男と二人の少年の驚いた顔が目の前にあった。
誰だ?
なんか、すっごい見た事のある服を着てる、けど。
え、どうゆうこと?
目覚めたばかりというのに、目の前に存在しているありとあらゆるものが脳をフル稼働させる。
え? え?
……え? 待って、嘘だろ。
寝起きとは思えないほど冴え切った脳で、視界にある人達を認知した。
一人は自分の父だった。───いや、本当のではなく、この身体の、と言った方が正解だ。
全く同じ顔をしている幼い二人は自分の式神だった。
まって……式神?
俺は彼女無し、一般のなかの一般サラリーマンなのに?
いつから、式神?
頭の中が混乱している。
知っている。
彼らが誰で、自分が誰なのか、すべて分かっている、だが完全じゃないけど俺、光弘の記憶があって、数日前までの蘆屋満成の記憶があっ……て?
蘆屋満成? もしかして、極悪非道なクソ法師陰陽師の……
まさか、俺『恋歌物語』の世界に転生したのか!?
悩んで確認してを繰り返していると父は、心配そうな顔をしながら言った。
「頭を強く打ったから、まだ安静にしておいた方が良い」
「頭……?」
「お前の元服の儀をあげて、日をあけずに左大将様のご令息と式神らを連れて裏の森に行っただろう? そこで妖に襲われて、式神らがお前を連れて帰ってきたのだ、何も覚えていないのか?」
「……」
「……何日もうなされていたんだ、疲れているのだろう。 しかと休め」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
目の前の父と呼ぶべき男は驚いた表情を浮かべている。
やべ、不自然に思われたか?
「満成、お前」
異世界転生物ばかり見てきた光弘は、頭をフル回転させ、よくある悪役のテンプレのようなセリフを言った。
「父上、俺の軽率な行いで心配をお掛けして申し訳ありませんでした。俺は此度の件で心を入れ替える経験をしました。成人の身としてこれからは己の行動を蘆屋家の行いと自覚し、今後は──」
「良い、……責めているわけではないのだ。私は今のお前が幼いときに戻ったみたいで嬉しいのだ。そのままでいなさい、まだ完治していないゆえ体に障る」
そう我が子を慈しむような目で優しく肩に触れてから、父は部屋から出ていった。父が出ていく際に簾の隙間から、降り積もった雪が庭を隠している景色が見えた。
父が出て行った後、芦屋光弘いや、蘆屋満成である俺は頭を軽く振って、落ち着くように深呼吸をした。
「ふう」
それにしても、本当に『恋歌物語』に入ってしまったのか?
自分の顔を見るために、恐る恐る銅色の鏡に近づく。
しかし、そこに映る姿は自分の知る蘆屋満成の姿ではなかった。
乙女ゲームに登場する蘆屋満成の姿は悪く言えば、浮浪者に近い。顔は無精髭に覆われ、手入れのされていない白色の髪の毛はシラミが飛んできそうだった。
身に着けている衣の裾は破け、素足に近い草臥れた草鞋で、腰には酒を下げていた。
窪んだ眼もとの奥から覗く黄色く濁った眼、しゃがれた声で相手を見下すような態度、貴族たちを不快な思いにさせる、そんな男だった。
だが、今の蘆屋満成の姿は何だ?
元服済みということは、十五あたりか?
エキゾチックな雰囲気があって、少し大人びて見える。
しかし、体格や顔の輪郭が幼さを残し、年相応に見せている。
健康的な肌に艶のある茶色の髪は緩いウェーブがかかっている。
子供ながらの丸顔に彫りの深い目元、鼻筋の通った端正な顔立ち。
大粒の瞳を埋めた垂れそうな目はぱっちりと開き、大きな茶色の瞳が情報を得ようと忙しなく動いている。
目を縁取るほどの濃くて長い睫毛のせいか、伏し目がちになるとその顔からは幼さが消え妖しい雰囲気が漂うのだ。
さらに顔の力を抜くと厚い唇は誰それ構わず挑発するような笑みを自然に浮かべている。
鏡を見ながら思ったこと、それは蘆屋満成はBL世界なら傾国の美男だ。
ゲームの世界だからか美的感覚が現代よりで、だが髪型や衣服は歴史を意識しているのか趣があってまた良い。
満成の本当の姿がこんなに美しかったら主人公として攻略したかった!
この顔は、どの角度から見ても死角がないじゃないか!
どうして蘆屋満成はあんな酷い格好になってしまったんだ?
記憶を遡ろうとするとどんどん前世と満成としての記憶が遠くなっていく気がした。恐ろしい、霧の中にいるようだ。
俺が唯一分かる事は、乙女ゲーム『恋歌物語』の攻略したルートだけだった。
死ぬ前の俺は誰かに、この『恋歌物語』を伝えようとしていた。その前に、彼を助けて死んでしまったが。
"彼"のことだけは覚えている。死ぬ直前に助けた男。
この乙女ゲームの主人公と全くと言っていいほど、同じ美しい顔をした"男"だった。
この世界がゲームの世界だということは理解した。
なら前世でゲームをやり込んで全ストーリーを開放し、ストーリー中の裏ルートの攻略を纏め上げた俺ならこの異世界の事情は誰よりも詳しいはず!
それに、……このゲームの極悪非道な人間の内の一人、法師陰陽師 蘆屋満成なら全ての鍵を握っていると言っても過言ではない!
あの惨劇さえ起こさなければ、貴族の身である今なら陰陽寮に属して、安倍善晴と源雅峰の推しCP鑑賞出来んじゃね?
悪役だけど優良物件に当たったも同じ!
「っしゃあ!!……あ」
またもや失態に気がついた時、時すでに遅し。
蘆屋満成の式神である火の玉の双子の童が、またもや驚いていた。
父と話していたから気を遣って離れて座っていたのか。まったく気配を感じなかったのは、彼らが気配を消していたからなのだろう。
「「満成様?」」
この式神らは、俺が成り代わったと気づいていないのか?
いつもの主人と同じように従っているのか?
……一応、ゲーム通りの蘆屋満成を演じるか。
「何でもない」
その一言で双子の童はまた、静かに座していた。
そういえば、蘆屋満成って式神には素っ気なくて、あまり深く関わろうとしていなかったな。
この世界の蘆屋満成には、一体どんな闇があったんだ?
悪役だからか、彼のルートには全くと言っていいほど開放の反応が無かったし、重たい鎖で固く閉ざされた牢のようだと感じたな。
これからは、その鎖を無理矢理でも開けなきゃならないんだが、今後の腐男子生活を送るために頑張ろう。
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「満成さま!」
「満成様!」
「橘香澄って男かよ!」
「へ?」
「え?」
「え?」
「み、みつなり?」
勢いよく起き上がったとき、見知らぬ男と二人の少年の驚いた顔が目の前にあった。
誰だ?
なんか、すっごい見た事のある服を着てる、けど。
え、どうゆうこと?
目覚めたばかりというのに、目の前に存在しているありとあらゆるものが脳をフル稼働させる。
え? え?
……え? 待って、嘘だろ。
寝起きとは思えないほど冴え切った脳で、視界にある人達を認知した。
一人は自分の父だった。───いや、本当のではなく、この身体の、と言った方が正解だ。
全く同じ顔をしている幼い二人は自分の式神だった。
まって……式神?
俺は彼女無し、一般のなかの一般サラリーマンなのに?
いつから、式神?
頭の中が混乱している。
知っている。
彼らが誰で、自分が誰なのか、すべて分かっている、だが完全じゃないけど俺、光弘の記憶があって、数日前までの蘆屋満成の記憶があっ……て?
蘆屋満成? もしかして、極悪非道なクソ法師陰陽師の……
まさか、俺『恋歌物語』の世界に転生したのか!?
悩んで確認してを繰り返していると父は、心配そうな顔をしながら言った。
「頭を強く打ったから、まだ安静にしておいた方が良い」
「頭……?」
「お前の元服の儀をあげて、日をあけずに左大将様のご令息と式神らを連れて裏の森に行っただろう? そこで妖に襲われて、式神らがお前を連れて帰ってきたのだ、何も覚えていないのか?」
「……」
「……何日もうなされていたんだ、疲れているのだろう。 しかと休め」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
目の前の父と呼ぶべき男は驚いた表情を浮かべている。
やべ、不自然に思われたか?
「満成、お前」
異世界転生物ばかり見てきた光弘は、頭をフル回転させ、よくある悪役のテンプレのようなセリフを言った。
「父上、俺の軽率な行いで心配をお掛けして申し訳ありませんでした。俺は此度の件で心を入れ替える経験をしました。成人の身としてこれからは己の行動を蘆屋家の行いと自覚し、今後は──」
「良い、……責めているわけではないのだ。私は今のお前が幼いときに戻ったみたいで嬉しいのだ。そのままでいなさい、まだ完治していないゆえ体に障る」
そう我が子を慈しむような目で優しく肩に触れてから、父は部屋から出ていった。父が出ていく際に簾の隙間から、降り積もった雪が庭を隠している景色が見えた。
父が出て行った後、芦屋光弘いや、蘆屋満成である俺は頭を軽く振って、落ち着くように深呼吸をした。
「ふう」
それにしても、本当に『恋歌物語』に入ってしまったのか?
自分の顔を見るために、恐る恐る銅色の鏡に近づく。
しかし、そこに映る姿は自分の知る蘆屋満成の姿ではなかった。
乙女ゲームに登場する蘆屋満成の姿は悪く言えば、浮浪者に近い。顔は無精髭に覆われ、手入れのされていない白色の髪の毛はシラミが飛んできそうだった。
身に着けている衣の裾は破け、素足に近い草臥れた草鞋で、腰には酒を下げていた。
窪んだ眼もとの奥から覗く黄色く濁った眼、しゃがれた声で相手を見下すような態度、貴族たちを不快な思いにさせる、そんな男だった。
だが、今の蘆屋満成の姿は何だ?
元服済みということは、十五あたりか?
エキゾチックな雰囲気があって、少し大人びて見える。
しかし、体格や顔の輪郭が幼さを残し、年相応に見せている。
健康的な肌に艶のある茶色の髪は緩いウェーブがかかっている。
子供ながらの丸顔に彫りの深い目元、鼻筋の通った端正な顔立ち。
大粒の瞳を埋めた垂れそうな目はぱっちりと開き、大きな茶色の瞳が情報を得ようと忙しなく動いている。
目を縁取るほどの濃くて長い睫毛のせいか、伏し目がちになるとその顔からは幼さが消え妖しい雰囲気が漂うのだ。
さらに顔の力を抜くと厚い唇は誰それ構わず挑発するような笑みを自然に浮かべている。
鏡を見ながら思ったこと、それは蘆屋満成はBL世界なら傾国の美男だ。
ゲームの世界だからか美的感覚が現代よりで、だが髪型や衣服は歴史を意識しているのか趣があってまた良い。
満成の本当の姿がこんなに美しかったら主人公として攻略したかった!
この顔は、どの角度から見ても死角がないじゃないか!
どうして蘆屋満成はあんな酷い格好になってしまったんだ?
記憶を遡ろうとするとどんどん前世と満成としての記憶が遠くなっていく気がした。恐ろしい、霧の中にいるようだ。
俺が唯一分かる事は、乙女ゲーム『恋歌物語』の攻略したルートだけだった。
死ぬ前の俺は誰かに、この『恋歌物語』を伝えようとしていた。その前に、彼を助けて死んでしまったが。
"彼"のことだけは覚えている。死ぬ直前に助けた男。
この乙女ゲームの主人公と全くと言っていいほど、同じ美しい顔をした"男"だった。
この世界がゲームの世界だということは理解した。
なら前世でゲームをやり込んで全ストーリーを開放し、ストーリー中の裏ルートの攻略を纏め上げた俺ならこの異世界の事情は誰よりも詳しいはず!
それに、……このゲームの極悪非道な人間の内の一人、法師陰陽師 蘆屋満成なら全ての鍵を握っていると言っても過言ではない!
あの惨劇さえ起こさなければ、貴族の身である今なら陰陽寮に属して、安倍善晴と源雅峰の推しCP鑑賞出来んじゃね?
悪役だけど優良物件に当たったも同じ!
「っしゃあ!!……あ」
またもや失態に気がついた時、時すでに遅し。
蘆屋満成の式神である火の玉の双子の童が、またもや驚いていた。
父と話していたから気を遣って離れて座っていたのか。まったく気配を感じなかったのは、彼らが気配を消していたからなのだろう。
「「満成様?」」
この式神らは、俺が成り代わったと気づいていないのか?
いつもの主人と同じように従っているのか?
……一応、ゲーム通りの蘆屋満成を演じるか。
「何でもない」
その一言で双子の童はまた、静かに座していた。
そういえば、蘆屋満成って式神には素っ気なくて、あまり深く関わろうとしていなかったな。
この世界の蘆屋満成には、一体どんな闇があったんだ?
悪役だからか、彼のルートには全くと言っていいほど開放の反応が無かったし、重たい鎖で固く閉ざされた牢のようだと感じたな。
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