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敬愛賛美
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ジューリは侍従の顔が離れてから卿に向き合った。
「ローデリック卿そろそろ令嬢は領地に入った頃だろうか」
「あ、ああ…レフィ……お願いします! 殿下! あの悪魔から私の娘を救ってください!」
大公に対する恐怖に怯え主人の肩を強引に掴む卿に何たる無礼か、と感じた侍従は急いで興奮高まる卿の肩を引いて主人の身体から離す。
その際、ジュ―リの服の装飾の金具が外れてしまった。彼は怒りを顔に露わした侍従に静かに手で制した。侍従は腹に怒りを抱えたまま卿の肩を抑えるだけに踏みとどまったなか低い音の声で言った。
「卿、落ち着いてください」
「落ち着いてられるか! 再び三〇年前のアリーン夫人の惨劇が繰り返されるのですよ! それも私の娘で!」
アリーン夫人の名が出た瞬間、ジューリの穏やかな顔に不釣り合いな影を深めた眉間。娘レフィに憂慮しくれたかのと明るくなった顔の卿に声色が強くなった。
「ええ、夫人と同様な事が起こらないよう、すぐに手を打ちましょう」
侍従は主人がアリーン夫人の惨劇という噂を知っているのかと疑問に思った。まだ二〇代前半で三〇年前は生まれておらず、またその噂自体も艶聞なわけだから、白昼堂々その噂を口にする人間も数少ないだろうに、と。だが、それも掴んでいた卿の腕を振り回した大きな動作で頭から離れた。
「ああ、我が主よ! なにか手はあるのですか!」
「……」
期待を持って卿はジューリを見つめるが一向に彼の口は開かない。どころか目を閉じ、悩んでる振りをしているだけではないのかと疑うほど、卿と目が合えば彼は逃げるように目を逸らす。そこでしっかりと理解することになる。
あながちド“クズ”大公が言っていたハリボテ王太子というのは間違っていないのではないか?――と。
「それでは、私はそろそろ公務に戻るよ。ではローデリック卿、状況が良くなることを祈っているよ」
ジューリは侍従を連れて応接間から出て行ってしまった。
一人取り残された卿はソファに座りなおして膝を抱え、ひとりごちる。
「やはり大公の言う通り殿下は頭が働かないんだ。智君と名高い王とはかけ離れている。こんなことさえなければ、ド〝クズ〟な所業が目立つが、その出自も天界の産物という神々しい大公についたのに! あの男から今の仕打ちを甘んじて受けるつもりはない、なにがあってもこの方を王にしなくてはならないのに、この方とときたら!! 〝ハリボテ王太子〟 のどこを信用したらよいのだ!」
ジューリは応接間から出てすぐ侍従に大公への緊急訪問の旨の手紙を早急に出し、馬を用意させた。
自室へと戻ってきた彼は急いで身動きの取りやすく、かつ軽装備をして、またすぐ部屋から出て行った。
伝令を出し終え厩舎から馬を運ばせて、戻ってきた侍従もその動きに合わせて、彼の欲しがりそうな情報を口頭で伝える。
「大公が求めたギルドの依頼人登録名簿は、レフィ嬢の件同様おそらくすでに大公の手に渡ったと思われます」
「ああ、そうだろうな」
「それと、宴の参加者ですが監視者による一覧の作成が終わるそうです」
「それでは、私がこれから大公領へ向かう旨の手紙をローデリック卿が帰宅した頃合いに彼の家に届けてくれ」
「先ほど部屋を覗きましたがかなり狼狽していらしてました。お会いしてくださるでしょうか?」
「同様の事を口頭でも伝えるんだ。レフィ嬢の元に私が向かったと知れば卿も落ち着きを取り戻し穏便に参加者と豊穣祭の話をしてくれるはずだ、後は頼んだぞ」
「承知しました」
人心掌握はまずは身体を張って相手を尊重する気持ちを相手に気づかせることだ、と幼いころから智君に学んできた王太子は意識せずとも身体が進んでしまうのか、それとも――。
「大公の趣味は相変わらずだな」
「……道中お気をつけ下さい」
――あの男しか目に入っておられぬのだろうな。あのドクズ大公のどこに惹かれているのだというのか。
侍従の心はすでに殿下に捧げている。彼は主人の心の向くままに、ただ少しばかり同情する気持ちで服従するのであった。
「ローデリック卿そろそろ令嬢は領地に入った頃だろうか」
「あ、ああ…レフィ……お願いします! 殿下! あの悪魔から私の娘を救ってください!」
大公に対する恐怖に怯え主人の肩を強引に掴む卿に何たる無礼か、と感じた侍従は急いで興奮高まる卿の肩を引いて主人の身体から離す。
その際、ジュ―リの服の装飾の金具が外れてしまった。彼は怒りを顔に露わした侍従に静かに手で制した。侍従は腹に怒りを抱えたまま卿の肩を抑えるだけに踏みとどまったなか低い音の声で言った。
「卿、落ち着いてください」
「落ち着いてられるか! 再び三〇年前のアリーン夫人の惨劇が繰り返されるのですよ! それも私の娘で!」
アリーン夫人の名が出た瞬間、ジューリの穏やかな顔に不釣り合いな影を深めた眉間。娘レフィに憂慮しくれたかのと明るくなった顔の卿に声色が強くなった。
「ええ、夫人と同様な事が起こらないよう、すぐに手を打ちましょう」
侍従は主人がアリーン夫人の惨劇という噂を知っているのかと疑問に思った。まだ二〇代前半で三〇年前は生まれておらず、またその噂自体も艶聞なわけだから、白昼堂々その噂を口にする人間も数少ないだろうに、と。だが、それも掴んでいた卿の腕を振り回した大きな動作で頭から離れた。
「ああ、我が主よ! なにか手はあるのですか!」
「……」
期待を持って卿はジューリを見つめるが一向に彼の口は開かない。どころか目を閉じ、悩んでる振りをしているだけではないのかと疑うほど、卿と目が合えば彼は逃げるように目を逸らす。そこでしっかりと理解することになる。
あながちド“クズ”大公が言っていたハリボテ王太子というのは間違っていないのではないか?――と。
「それでは、私はそろそろ公務に戻るよ。ではローデリック卿、状況が良くなることを祈っているよ」
ジューリは侍従を連れて応接間から出て行ってしまった。
一人取り残された卿はソファに座りなおして膝を抱え、ひとりごちる。
「やはり大公の言う通り殿下は頭が働かないんだ。智君と名高い王とはかけ離れている。こんなことさえなければ、ド〝クズ〟な所業が目立つが、その出自も天界の産物という神々しい大公についたのに! あの男から今の仕打ちを甘んじて受けるつもりはない、なにがあってもこの方を王にしなくてはならないのに、この方とときたら!! 〝ハリボテ王太子〟 のどこを信用したらよいのだ!」
ジューリは応接間から出てすぐ侍従に大公への緊急訪問の旨の手紙を早急に出し、馬を用意させた。
自室へと戻ってきた彼は急いで身動きの取りやすく、かつ軽装備をして、またすぐ部屋から出て行った。
伝令を出し終え厩舎から馬を運ばせて、戻ってきた侍従もその動きに合わせて、彼の欲しがりそうな情報を口頭で伝える。
「大公が求めたギルドの依頼人登録名簿は、レフィ嬢の件同様おそらくすでに大公の手に渡ったと思われます」
「ああ、そうだろうな」
「それと、宴の参加者ですが監視者による一覧の作成が終わるそうです」
「それでは、私がこれから大公領へ向かう旨の手紙をローデリック卿が帰宅した頃合いに彼の家に届けてくれ」
「先ほど部屋を覗きましたがかなり狼狽していらしてました。お会いしてくださるでしょうか?」
「同様の事を口頭でも伝えるんだ。レフィ嬢の元に私が向かったと知れば卿も落ち着きを取り戻し穏便に参加者と豊穣祭の話をしてくれるはずだ、後は頼んだぞ」
「承知しました」
人心掌握はまずは身体を張って相手を尊重する気持ちを相手に気づかせることだ、と幼いころから智君に学んできた王太子は意識せずとも身体が進んでしまうのか、それとも――。
「大公の趣味は相変わらずだな」
「……道中お気をつけ下さい」
――あの男しか目に入っておられぬのだろうな。あのドクズ大公のどこに惹かれているのだというのか。
侍従の心はすでに殿下に捧げている。彼は主人の心の向くままに、ただ少しばかり同情する気持ちで服従するのであった。
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